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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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26、王国へ

 そして時は過ぎ。王宮でのパーティまで後2週間となった頃。


 ルイゾン様はリネットさんを引き連れ4日ほど前に出立された。私たちも予定では明後日に出発をする計画だ。だが、その前に私には囮となるべくやらなくてはならない事がある。


 実は2週間ほど前より度々私はギルドで依頼を受けるようにしていた。その時はライさんと爺と一緒に依頼を受けたのだ。爺曰く、ザリバーの気配はあるが様子見をしているらしく、ライさんと爺がいる時には手を出されることはなかった。


 ちなみに今日はライさんとディアさんが付いてくる予定となっていた。爺も多分どこかで見ているのだろうが、気配が消されていて分からない。



 ライさんは冒険者の服を、ディアさんはフードの付いている魔法使いが使用しているローブを着て待っていた。そしてエアル達精霊達を連れて私たちは街を離れたのだが――。





 街を離れ、人通りが少なくなった頃に彼は現れた。また薄気味悪い笑みをこちらに見せている。


 ライさんとディアさん、勿論私も戦闘体勢を取った。緊張感が高まる空気の中、それを打ち破ったのはルイさんの声だった。



「ザリバー!」



 その瞬間、彼のローブの影から見えていた気味悪い笑みが引っ込む。そしてザリバーの口が「でんか?」と動いたような気がした。

 だがそれは直ぐに消え、再度見ればまた不気味な笑みに戻っていた。

 


「お前をここで捕らえる!」



 そう言って、ルイさんも含めた精鋭達が攻撃を仕掛けるが、彼はひらりと優雅に躱した上に、ザリバーは空中に浮遊し始めたのだ。

 これにはエアルも驚いたらしく、「よっぽど魔力操作が上手いか、魔力量のある人間でないとできない技」と呟いているのが聞こえた。



 私たちはその後空中に浮遊している相手に魔法攻撃を当てようとするが、彼にとっては魔法の発動が遅く見えるのか、直ぐに魔法を相殺してしまう。

 私が拘束魔法を使用しても、同様に相殺されてしまうのだ。



「ふむ、不味いですな。彼奴は今回、魔力吸収の腕輪をしていないようですぞ。魔道具もそれらしい物はなさそうですしなぁ……」

「つまり爺、あれが彼の実力ってこと?」

「その通りですな。ある程度の相手なら、儂でも底を見る事ができるのですが……彼は底が見えない、相当強いですなぁ」


 

 そう言いながら、爺は風魔法を放っている。その魔法は見ただけで、魔法の精度や魔力操作の繊細さを理解させられる。私など、まだまだ彼に比べれば小鳥のようなものかもしれない。

 

 こう着状態が続く中攻めあぐねていると、ザリバーが何かに気づいたらしい。彼の口角が今までにない程上がり……その瞬間、周囲が光に包まれた。



『シア!これは――』


 

 エアルの言葉が聞こえるが、最後まで聞き取ることは出来なかった。



『後で行くから〜!』

 


 そんなディーネの声が耳に届いた後、私は眩しさから思わず目を瞑っていた。




 **


 side:残された者達



 光が消えると、その場にいた者たちは一斉にザリバーの方を向いた。ザリバーは一歩も動いていないらしい。逃げていないことにホッとしたルイが、声を上げようとしたその時。



「ルイ!シアさんとディアさんがいない……!」

「なんだと?!」



 ライナスの声でディアとシアの二人がいた場所を確認すると、そこはもぬけの殻であった。



「迂闊でした……彼奴、光で移転魔法の発動を隠したようですな……」

「だが、なぜディアまで……?」



 そう呟いてルイはザリバーを睨みつけると、ザリバーは更に笑みを深くする。まるでこの余興を楽しんでいるようだ。再度ザリバーを捕まえようと攻撃命令を出そうとしたルイは、ザリバーの言葉を聞いて顔を歪めた。



「でんカ、わたしヲ捕縛したいのナラ、王国ヘ急げバ良い。わたしハ、モーズレイ侯爵家デ、二人と待ってイル」

「ザリバー、何を……?!」


 

 そうルイが叫ぶと同時にザリバーの足元に移転魔法の魔法陣が描かれる。ルイ達は魔法を発動させないよう攻撃を仕掛けるが、その努力も虚しく彼の移転魔法が発動し、ザリバーはその場から姿を消した。


 誰もが呆然と彼のいた場所を見つめており、重い空気が辺りに充満していたが、それを打破したのはバイロンだった。



「殿下、ライ殿。行きますぞ」

「……そうだね。これは一部を除けば計画通りだ。ルイ、出立の準備を」

「ああ、二人を早く助けなければ」

 


 そう言い合った彼らは、街に戻り直ぐに街を出立したのであった。



 

 **

 

 side:アレクシア



 目が覚めたら、知らない天井が見えた。思わず飛び起きて周囲を確認したが、エアル達はこの場所にはいなかった。


 彼女達と契約で繋がっているので、何となくではあるがその繋がりは切れていないと感じられる。ただその繋がりはとても遠くにあるような気がするのだ。

 つまり移転させられたのは、私だけだったのだろう。幸い、伝達用ゴーレム等を作るだけの魔力はある。


 ディーネも『後で行く』と言っていた。精霊は契約者の居場所が分かると、彼女達から聞いているので、後は時間の問題だけだろう。


 

 そして何故か私の足元にはディアさんまで倒れていた。慌ててディアさんの様子を見るが、息をしているので気絶しているだけだろう。安心した私は、魔法でディアさんをベッドまで運んだ。


 


 改めて周囲を見回すと王宮で借りていた部屋と同じくらいの大きさだろうか。右手には天井付きのベッド、左手には暖炉とシンプルな木製の机、机の横には小さめの本棚が置かれている。


 窓は鍵が掛けられているのか、開ける事ができない。だが、右手にある小窓は開いているので、魔法が使えれば手紙も送る事ができるだろう。

 そしてここは2階らしい。目の前には高い塀があり周囲の様子は見えないのだが、塀の上を見ると見覚えのある建物の屋根が目に入った。ニンフェ城である。


 ダンさんに乗せてもらった馬車で何度も見た城だ。見間違えるはずがない。



「成程、王国に移転させられたのね……」



 古巣に帰ってきた、と言えば聞こえはいいが……あまりいい思い出のない場所である。少しだけバートやミラを思い出して身震いする。

 だが、そんな時に触れたのはライさんからもらった腕輪だった。その腕輪に触れるだけで私は心が落ち着いていく。

 

 ……ディアさんが起きたら、相談しなくては。



 話はそれからだ。

本日も読んでいただき、ありがとうございます。

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