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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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25、贈り物

本日二話投稿しています。


こちらは二話目になりますので、「24、恐れ」を読んでからお読みください。

 大体の計画を喋ったルイさんは、その後すぐに店を出ていった。この後ルイゾン様と面会の用事があるらしい。気がつくと慌ただしさもなくなり、目の前にいたのはライさんだった。

 彼は心配そうな目でこちららを見ている。


 周囲には誰もいない。爺も、ダンさんも外で監視をしているのだろうか、そんな場違いな考えが頭に浮かぶ。

 そんな私の思考を遮ったのはライさんだ。



「シアさん、本当に大丈夫?」



 ライさんは私の握り拳を両手で包むように触れた。そしてまだ握りしめていた手をゆっくりと開いていく。



「こんなに爪の痕が残るほど……やはり囮が怖い、とか?」



 そう言われて私は首を振る。



「とにかく、手当てをしないと……」



 と言って立ち上がったライさんの手を、私は思わず掴んでいた。



「行かないでください」



 そう言って私は気づく。囮の話をしていた時は何もしがらみがなかった。だからもし、私に何かあったとしても、自己責任だと思っている。

 しかし、ライさんと恋人になった今。本当に自分のことだけ考えていて良いのだろうか、と思ったのだ。今回のことで彼を危険な目に遭わせるかもしれない、そう思うと一歩踏み出せないのだ。


 彼に迷惑をかけたくない、その思いが躊躇している原因なのだろう。


 そのことに思い至った私は、彼の手を離した後、俯いてしまう。すると、視線の先に現れたのは彼の足だった。どうやら膝立ちをしているらしい。



「シアさん、もしかして僕を巻き込んで悪いな、とか思ってる?」

「……な、なんでそれを……」



 思っていることを言い当てられて驚いた私は思わずライさんの顔を見る。すると少しだけ、彼の顔は怒っているように見えた。



「シアさん、僕が君を助けようとしているのは僕の意志だ。だからシアさんが気負うことはないよ」

「ですが……」

「それにシアさんは僕の婚約者だ。婚約者を守らない男がどこにいる?」



 そう言い切ってからライさんは、再度私の目を見る。



「シアさん、君の背にある荷物を僕にも背負わせて欲しい。一人で抱えないで?」

「……はい」


 

 彼の瞳を見て、私の考えていたことはライさんにとって失礼だったのかもしれないと思った。私だってライさんに何かあれば、首を突っ込むだろう。


 私が囮をすると言った時も、最終的には受け入れてくれた。それと同じだ。



「ごめんなさい……」

「大丈夫だよ。僕も君には囮にならないで欲しい、と言ったからね。おあいこだ」



 笑ってくれるライさんに私は思わず感謝の言葉を言って抱きついていた。


 


 抱きついた後、少し恥ずかしくなった私は椅子に座って俯く。ライさんはライさんで、耳が真っ赤になっており、こちらの様子を見ながら座っていた。


 無言の時間が続く。それを打ち破ったのは、ライさんだった。



「そうだ、シアさん。僕はこれを渡そうと思っていたんだ」



 そう言って彼が取り出したのは、両掌よりひと回り小さい箱だった。私は不思議な顔をして、その箱を見ていたのだろうか。ライさんが微笑みながら教えてくれる。



「この間、バイロンさんに聞いたんだ。シアさん、今日誕生日だって」

「……そういえば、そうですね」

「改めてお誕生日おめでとう。僕からの贈り物だよ」

 

 

 ……王国では誕生日を祝われたことはなかった。いや、正確に言えば爺や古株の使用人たちには、お祝いの言葉を貰ったりしたのだけれど……王宮に入ってからは誰一人として言葉をかけてくれる人はいなかった。

 ちなみにミラは毎年父からお祝いされており、二人で食堂に集まってケーキやプレゼントを貰っていたと思う。


 幼い頃はそれが羨ましかったのを覚えている。母はプレゼントをくれたが、それは全てミラに取られてしまった。元婚約者のハリソン様は形だけの私に贈り物を渡すことなどなかった。


 だからこれが母以外からもらう初めての贈り物なのだ。それをライさんからもらえた事がとても嬉しく思う。



「ありがとうございます。あの……開けてもいいですか?」

「どうぞ」



 黄色のリボンを外し、丁寧に赤い包装紙を取り払う。そして箱を開けると、中には飾りに宝石をちりばめた箱が入っていた。箱には薔薇の花の彫刻が施されており、薔薇の花の中心には赤い宝石が埋め込まれている。



「シアさん、箱を開けてみて」



 手にとって眺めていた私にライさんは微笑んでいる。私は言われた通りに少し重い蓋をぱかっと開けた。そしてそこに入っていた物を見て、私は目を疑った。



「これって……?!」

「そう、腕輪だよ」



 そこに入っていたのは、ライさんに贈った腕輪と同じ装飾の腕輪だった。腕輪の真ん中には、ひとつだけ魔石が埋め込まれている。中心に埋め込まれているのは風の魔力を内包した大石だ。しかも店にある大石より大きい。


 

「共和国の慣習に則ってね。シアさんからは貰っているから、この機会に僕が贈りたかったんだ。もっと可愛い装飾が入っている腕輪に……とも考えたんだけど、君とのお揃いが欲しいなと思って」

「お揃い……ありがとうございます。嬉しいです」

 


 ――実はライナスは、この腕輪をプレゼントするためにダンジョンの深層に潜って大石を探していたのだが、アレクシアはそのことを知らない。知っているのは、風の魔力を込める人を紹介してもらいたいと協力を仰いだリネットだけだ。


 私は喜んで腕輪を嵌めた。ライさんが嵌めているのと同じ左手首にだ。


 

「後、もうひとつ」



 そう言って彼は手のひらを天井に向け、魔力を込める。すると、そこには火魔法で作られた鳥がいるではないか。



「これは……」

「僕の召喚獣みたいなものかな?シアさんが捕まっている間も、これで僕とやり取りができる」



 まるで空に浮かぶ太陽のように美しい鳥だった。ただし伝達の時には魔力を抑え、黄色の鳥になるとのことだった。思わず見惚れていると、ライさんは微笑む。



「ライさんは昔から、この魔法を習得していたのですか?」



 ある程度の魔力があれば可能だが、相当な練習が必要なのだ。以前訓練の際にロゼットさんがグレートウルフを模したゴーレムを作っていたが、あれも繊細な魔力操作を必要としている。

 彼女から聞いたが、金級冒険者の中でもできる人間は3割にも満たないと言っていた。


 そう尋ねると、ライさんは頭を掻いて言う。


 

「……最近覚えたんだ。バイロンさんに教えてもらって」

「爺に?」



 確かに爺は金剛級に近い冒険者だと話を聞いている。それに諜報活動でこの技能は役立つのだから、知っていて当然かもしれない。



「少しでもシアさんの支えになれればと思って」

「ありがとうございます。心強いです」



 そう言って笑い合う。私の中にあった不安はもう綺麗さっぱり無くなっていた。

 


 

いつもありがとうございます。


ブレア領で描きたかった話はこの話でお終いなので、連続で投稿しました。

明日からは計画が動き出します。


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