24、恐れ
本日二話投稿します。
一話目
二人の思いが通じ合った後、私は夢現の状態で過ごしていたらしい。一昨日抱き締められた時のように、気づくと私はベッドの上で寝ていた。
昨日のことは夢なのだろうか……いや、現実であってほしいが実感が湧かない。そんなことを考えながら寝室で着替えを終えた後、台所へ歩いていくと、テーブルに座っていたのはダンさんと爺だった。
ダンさんは爺から任されていた仕事を終え、私の護衛の任務を爺と交代するために戻ってきていたらしい。戻ってきたのはいいが、テーブルで爺がお茶をのんびり飲んでいる姿を見て、目を疑ったらしい。
「いや、こんなのんびりした護衛は初めてで」とダンさんは口角が引き攣っていた。彼も共に飲んでいたのは、大先輩の爺にお茶へ誘われたため断ることはできなかったからだろう。
そんな彼に私は「ごゆっくり」と言って笑顔を向けた後、キッチンで朝食の準備をし始めた。
朝食の準備が終わったため、食べようと席に座った瞬間。爺が「そういえば……」と話を切り出した。
「昨日ライ殿から、お嬢様と本当の婚約者同士になったとお聞きしましたぞ」
「おお、目出度いですね!……あれ、俺も聞いて良かったんですか?」
とダンさんは私に尋ねてきたが、私はそれどころではなかった。爺に言われたことで昨日の逢瀬が現実であることを突きつけられたからである。
昨日のことを思い出し、頬に熱が集まる。そんな私を見た二人は、おやおや、と首を傾げて私の顔を覗き込む。
「あれは夢じゃなかったのね……」
思わずそう呟けば、爺はニコニコと笑って話し始めた。
「お嬢様は一昨日前もそのように仰っていましたからのぅ。今日も夢だと思われるかと思いましてな」
そう言われて、思わずバツが悪い顔を見せてしまった。実際その通りになったのだから、何も言えない。口をつぐんで、恥ずかしさから俯いていると、爺がさも今思い出したかのように話し出した。
「……おお、そうでした。ライ殿からの伝言を伝えなければいけませんなぁ。本日、依頼が終わったらここに来るそうですよ。儂の予想では、きっと閉店後でしょうなぁ。その時儂らが席を外しますから、ゆっくりしていただいて結構ですぞ」
「恋人との仲を邪魔するほど、無粋ではありません!俺ら、外から見張ってますのでご安心を!」
そう二人に笑って言われた私の顔はまだ真っ赤だった。
その後、ライさんは店が閉まる夕方に数時間ほど訪れるようになった。まだまだ彼の豹変ぶりには慣れていないが、とても楽しい日々を送っている。
華の月も中盤になった頃、突然ルイさんとディアさんが私の店に訪れる。そこには険しい顔をしたライさんもいるので、王国についてなのだろうと当たりをつけた。
いつものように奥の部屋のダイニングテーブルに案内し、喋る前には防音結界を張り巡らせておく。するとルイさんの重い口が開いた。
「シアさんの王国訪問についてだが、条件付きではあるが可能となった。勿論、国王の印もある」
「……早いですね」
あの話からまだ3週間は経っていないはずだ。どんな手を使ったのだろうか。
そんな疑問が私から漏れていたのか、ルイさんは胸を張ってこちらを見て言い放った。
「この件は最重要案件として送ったからな。なあバイロン」
「ええ。ポールなら迅速に対応するでしょうなぁ」
「……もしかして、魔道具師のポールさんの事でしょうか?」
「ああ、そうか。アレクシア嬢も王宮に居たなら知っているだろうな。そのポールだ」
「ええ、お会いしたことはございませんが」
現在王国に広まっている新型魔道具を作ったのが、彼である。王宮から少し離れた場所にある研究所にずっと引き篭もっていたらしい。そのため、私は一度も会った事がない。
爺が言うには、一度だけ王国で表舞台に立った事はあるらしい。きっとそれが魔道具をお披露目した時なのだろう。
「ポールが宰相に会いに行った時、丁度大公殿もいらっしゃったらしくてな。彼の尽力のおかげだろう。ちなみに条件は王宮内では彼方の監視をつけるようにとのことだ」
「だが、何が起こるかは分かりませんからのう。念のため変装はしていく方向で進めたほうがいいかもしれませんなぁ」
「ああ。モーズレイ侯爵以外が動いたら面倒だからな。名前もシアと名乗るといい」
私が頑張らなくてはならないのはここからだ。ルイゾン様やルイさんたちの努力を無駄にするわけにはいかない。
「ところで、シアさんが囮に……って話だったけれど、結局それはどうなるんだ?ルイ」
「それはルイゾン殿とも話しているのだが、ルイゾン殿は2週間前にこの街を出立すると言っている。彼が出立した後に、シアさんに街の外へ出てもらう……という形をとる。そして全員で急いで王都に向かうという形になるだろう――」
ルイさんの言葉を聞きながら、握りしめた手が少しだけ震えていた。あの時はそれが最善だと思っていた。勿論、今もそう思っているので、囮を止めるつもりはない。
侯爵の様子から、別に私がすぐに殺されるわけでもないことは分かっている。いざという時には逃げ出せばいい。だけれども、何だろう。この原因の分からない恐怖は。
その時私は何故怖がっているのかが分からなかった。その理由はすぐに判明することとなる。




