22、告白
「本当にありがとうございます」
そう言って彼女は僕に微笑んだ。
僕は正直、ここまで赤裸々に語るつもりは無かった。
第三者から聞けば、「付き纏い」一歩手前かと思える発言と、「弱い姿」を晒しているなんとも情けない奴だ、と思われるだろう。だが、彼女を目の前にすると、無意識に言葉が衝いて出ていたのだ。
内心戦々恐々としていた僕だったが、彼女の反応は違った。
「今の自分があるのは僕のお陰」と言い、あまつさえ感謝まで……。
そんな情けない僕すら受け入れてくれる彼女を、愛おしいと思った。だから僕は彼女の想いに応えたい。
そう決意を新たにした僕は、立ち上がり彼女の前に歩み出て……。
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「シアさん」
私の椅子の前で膝立ちをしたライさんは左手を胸に、私の名前を呼ぶ。その姿はまるで騎士のよう。
「こんな情けない僕だけれど……シアさんを守れるように強くなる」
彼の瞳は決意に燃えているようだった。いきなりのことで戸惑う私に、力強い視線が向けられた。
「……僕はシアさんの事が好きだ。だからこの先ずっと、隣で君を守らせてほしい。」
「ライさんが私を……?」
余りにも自分に都合が良い言葉だったので、私は目を見張った。もしかして、夢でも見ているのだろうか……。
「誰かの事をこんな風に考えたことは、今までなかったんだ。この感情は、シアさんに対してだけのものだ……いきなりで驚いたかもしれないけれど、今言った僕の気持ちに嘘偽りはないから……」
そう言い放った彼は右手を私に差し出してくる。淡いランプの光がライさんの顔を優しく照らしていた。そんな非日常的な空気に、私は夢見心地の気分で無意識に彼に手を差し出していた。
私の行動に一瞬きょとんとした顔を見せたライさんだったが、薔薇が花開くような美しい笑みで私に微笑む。
まるで物語のお姫様が告白される場面のようだと……そう思ってしまった私が、ライさんの笑みに見惚れていると、彼の顔が私の手に近づき、そして優しく口づけられた。
「〜〜!!」
先程までは都合のいい夢だと思い込もうとしていた私だったが、私の手の甲には彼の残した温もりがまだ感じられる。現実に引き戻された私は、声にならない悲鳴をあげそうになった。
今私の顔は熟れたトマトゥル以上に赤くなっていると思う。私を見つめる彼の瞳は甘さが増し、それに伴って私の胸の鼓動も騒がしくなっていく。
気恥ずかしく思った私はライさんからそっと目を離す……しかし、私の目の端に映っているライさんは、とろけそうなほど甘い笑顔を私に向けていた。
「いきなりの事で驚いたと思うから、返事はシアさんの気持ちが決まったらで良いからね。だけど僕は君を誰にも渡すつもりはないから」
「……え、えっと……?」
紅茶を飲んだばかりなのに、私の喉はカラカラに渇いている。かろうじて言葉を紡いだ私にライさんは笑いかけた後、彼に手を取られていた私の手が自由になった。
彼の温もりが離れていくことに一瞬寂しさを覚えた私だったが……次の瞬間、ライさんの顔が私の目の前に現れたのだ。
驚いた私が少し後ずさる。私の体勢は椅子の背もたれに身体を預ける状態になっている。
ライさんの手は私の座る椅子の背もたれと、左側に付いている肘掛けに置かれているため、私は逃げることすらできない。と言っても……余りにも近くにある彼の顔に目が釘付けになり、逃げようという思考すら思い浮かばなかったのだが。
「僕はこれからシアさんに好きになってもらえるよう……口説くから。覚悟していてね?」
そう言って笑うライさんの顔は魅惑的だった。
どれくらいそうしていたのだろうか。
私は彼の視線に捉えられ、それから目を離すことができなかった。……だが、始まりがあれば終わりもくるのは必然だ。口をぱくぱくしていた私を見つめていたライさんが顔を離した事で、その時間は終わりを告げた。
「……少し刺激が強かったかな?それじゃあ僕は――」
そう言ってから立ち上がり、離れていくライさんの服を咄嗟に私は掴んでいた。
「それじゃあ」という言葉で、彼が私から離れてしまうのではないか……そう思ったのだ。
「……ライさん、行かないでください……」
照れから顔を上げることができず、私は下を向いたまま小声でそう呟く。幸い私の言葉はライさんに聞こえたらしく、彼の喉から唾を飲む音が薄らと聞こえた。
「私も……ずっと貴方の隣に……いたいです」
これで告白の返事になったのだろうか。……だが、ライさんは私を見て微動だにしない。もしかしたら、返事だと気づいていないのだろうかと考えた私は、彼の目をしっかりと見て言葉を口にした。
「ライさん、私も貴方のことが――」
そう私が話すのと同時に、浮遊感に襲われる。気づくと私の身体はライさんに包まれていた。手を引っ張られて、抱きしめられているようだ。
私は彼の耳に言葉が届くように、少しだけ背伸びをする。そして言えなかった続きを囁いた。
「……貴方のことが好きです」
「僕もだ」と耳元で囁かれたのは、抱きしめられて少し時間が経ってからだった。
***
――その後改めて、二人が告白の話していた時のこと。
「それじゃあ」と言った後に、ライが帰るのではないかと思っていたと話す私。
「ああ、あれかぁ!あの時は場を落ち着けるために飲み物の注文をしようと思って、店員さんを呼ぼうと立ち上がったんだよ」
「え?そうだったの?」
「告白したからと言って、流石にあの暗い道を、君一人で帰らせる事はしないさ。エスコートは最後までするものだろう?」
「……そ、そうね」
「まさかそう勘違いしているとは思わなかったけど、お陰でシアからの返事を聞けたから、結果オーライだったね」
そう笑って話すライの肩に、私は自分の頭をくっつけたのだった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
少々この先の展開を悩んでいる部分があるので、明日は投稿をお休みするかもしれません。
しれっと上げているかもしれませんが……もし投稿がない時は、まだ悩んでいるのだと思ってくださいませ(^ ^;)
よろしくお願いします。
*変更点があります
第38部 その頃の王国
国王より「精霊の愛し子でない長女は、この国を去った」との発表があったのだ。という一文を変更しました。
変更後:ふとアレクシアが出席していないことに気づく。そこで彼はパーティが終わった後、気分の良さそうな国王の元へ行くと、彼女は国外追放になっていると聞いたのだ。




