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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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18、エアルの帰還と決意

 形見の手紙と遺言証を見つけた後、エアルが帰ってくるまで私は店を開いていた。

 あの形見の本を見た後、精霊さんたちが暗い顔をして考え込んでいる事が多かったが、数日経つとエアルが戻ってくるまで一旦考えることを置いておくらしく、楽しく店番している姿が見られた。


 そしてある日の夕刻。お店に訪れたライさんが買ってきてくれた食べ物を食べながら、談笑しているところに、猛スピードでエアルが窓から飛び込んできたのである。



「エアル!?顔が真っ青よ!」



 ヘトヘトに疲れたのだろう、よく見れば病気かと見間違えるほど顔色が悪い。慌ててディーネを呼び、ディーネの力を借りてエアルに魔力を込めた。


 その間に、ライさんは台所に置いてあったお菓子を持ってきて私の前に置いていた。丁度入れてあったお菓子は私が作った物だ。精霊さんたち用に魔力も込めて作ってあるので、まだ青い顔のエアルにクッキーを差し出す。

 


『エアル、大丈夫〜?これシアが作ったお菓子だよ!』

『なあグノー。エアル様、早すぎじゃないか?』

『……ふむ。ウルの言う通りだな。王国の状況を見て、早急に帰ってきたのだろう』

「エアルは……大丈夫なの?」

『……様子を見る限り、人間で言う魔力切れでしょう。明日には回復していると思われます』



 グノーから聞いて胸を撫で下ろす。グノーに聞いた話をライさんに話せば、彼もホッとしたようだった。



「驚いたけど、問題がなかったようで良かったよ……話は、彼女が回復してからでいいかな?」

『ごめんなさい……シア。明日には話すわ』

「エアル、大丈夫よ。今日はゆっくり休んでね。ライさん、明日には回復するそうなので、明日でお願いできますか?」



 そう言った私にライさんは一瞬目を丸くするが、すぐに笑みを見せる。



「分かった。と……ルイゾン様への面会も組んでおこう」

「宜しいのですか?」

「うん。帰って言うだけだから大丈夫。昼過ぎの方が良いかな?」

『……それくらいならエアル様も回復しているでしょう』



 グノーを見るとそう答えてくれたので、了承の意を伝える。ライさんは笑顔で、「また明日」と言って去っていった。


 翌日。


『昨日は、心配かけてごめんなさい……』


 私が起き上がると、そこには顔色の良くなったエアルが頭を下げている。



「エアル、身体はもう大丈夫なの?」

『ええ!さっきお菓子も食べて完全に魔力を回復したわ……三人に言われて、残っていたお菓子を全て食べてしまったけど、良かった?』

「問題ないわ。あれは皆に作った物だもの。食べたのならまた作るから、大丈夫よ」



 ディーネと喜んでいる姿を見て、もう大丈夫そうだと安堵する。だが、それほど急いで来たのには理由があるはずだ。それを聞こうと尋ねたところ、エアルは彼女が見てきた王国の現状を話し始めたのだった。



 エアルの話を聞き終わった私は、想像以上の問題が起きていることを知る。人間内の問題には立ち入るな、と言われているエアルたちでも、この状況は看過できないらしい。



『シア……私たち精霊だけでは、手に負えないの。シアも協力してくれる?』

「勿論よ。私にできる事を探すわ!」

『ごめんなさい、本当はシアを王国に関わらせたくないのだけど……』

「そんな事言っている暇はないわ。私は精霊の愛し子……そしてエアルたちの友人として、王国を止めるわ」


 

 そう言って笑えば、エアルたちは私に微笑み返してくれたのだった。



 

 その数時間後、私たちはリネットさんに連れられて、ルイゾン様の執務室に集まっていた。ルイソン様の要請を受けて、防音の結界を厳重に張っておく。


 執務室にいるのは、ルイゾン様・リネットさん・ジェイクさん・ライさん。そしてルイさんとディアさん、爺に私たちだった。



「さて、シアさん。ライナスから聞いているが、昨日エアル様が戻ってきたと言うのは、本当かな?」

「はい。今朝私が先にエアルから話を聞いておりますので、彼女の見た王国の話をさせていただきます。もし私の話で足りない部分があれば、エアルとディーネが後から説明しますので、ご安心ください」



 そう言って私はエアルとディーネを実体化させる。既に全員実体化に慣れたのか、息を呑む音すら聞こえないほど周囲は静まり返っていた。



「では、まず王国の現状からお話しします。まず国境付近の村や街にいた精霊たちについてですが、以前見た時と比べて明らかに精霊の数が少なくなっているようです。そして以前の王都と比較すると、精霊の数が明らかに多くなっているとエアルは判断したそうです」

「つまり、我々帝国の研究員の判断は正しかったと言うことか」

「はい、仰る通りです」


 

 ルイさんの言葉に頷く。数字だけでそれを見抜いた研究員の能力は素晴らしいと思う。そして王都に集まった精霊の多くは、生まれた年数の浅い精霊が多いということも伝えておく。



「そして……ここからが本題なのですが、ルイ様やディア様の考えている通り、王都にいる精霊が消えている状況が続いているそうです。その原因が……」


 

 私は悔しさに唇を噛む。どうして私はこのことに気づけなかったのだろうか、と。そうすれば、精霊たちの命を失わせることもなかったのに。

 言い淀んだ私に気づいたのか、背中をポンポンと優しく叩かれる。勿論、その手はライさんのものだ。

 渋っている場合ではない、そう改めて気合を入れて私は続きを話し始める。



「私の妹です」



 その瞬間、部屋の空気が凍りついた。

 

 


 この空気を破ったのはルイさんだった。


 

「……どういう事だ?シア嬢の妹……ミラと言ったか。彼女も愛し子なのだろう?愛し子が精霊を消している?そんな事があるのか?」



 彼の言う通りだ。愛し子である娘が、精霊を消す。こんな矛盾していることなどない。だが事実なのだ。



「その説明の前に、こちらをご覧いただけますか?」


 

 私は手元に持っていた母の形見の本を差し出す。ページは勿論、髪飾りの挿絵が描かれている場所だ。



「これは、ミラ様がよく身につけられている髪留めですな」

「ええ、これが原因のひとつなのです。元々、これは精霊の愛し子がやむを得ず強大な魔力を使用しなければならない場合に利用する髪留めなのです」



 髪留めの説明は、挿絵の横の文章に書かれている。私はエアルの説明を聞いた後に、この本の髪留めの部分を読んでおいたのだ。



「そしてこの髪留めは……身につけた精霊の愛し子の技量と心持ちによって、効果が変わるらしいのです。技量も心持ちも問題ない愛し子であれば、その者の願いを聞き、魔力を増幅させる力があると言われています」



 心持ちと技量、この部分の説明が難しい。周囲を見れば、首を傾げている人たちが多かったので、どう話せば良いか、と考えていたが……。その話の続きはエアルが担ってくれるようだ。

 

 

『シア、これはきっと具体的に言った方が早いわ。シアがこの髪留めを持っていたら、魔力を増幅して魔法の効果を上げる事ができるわ。例えばこの辺りが日照りで雨が降っておらず困っていた時、シアならディーネと協力して雨を降らそうとすると思うのだけれど、その時にこの髪留めを使えば、共和国の半分以上の土地で雨を降らす事ができると思うの』

「え、そんなに?」



 思わず私が声を上げてしまったが、周囲の人々も驚いたようで、目を見開いたり、口をポカンと開けたりと様々だ。



『そうよ。シアはそれくらい魔力操作が上手なのよ。ただ、ミラは違うわ。あの子は魔力操作の訓練を全くしていないから、魔力を扱う事ができないのよ』

「……シアさん、どういう事なの?」

「これはお母様から聞いた話なのですが……精霊の愛し子は代々、精霊の魔力を扱うために訓練を必ず行っています。精霊が持つ魔力は人の持つそれと比べれば膨大です。膨大な魔力を扱うためには、それなりの訓練が必要になりますの」

「成程。愛し子だからと言って、すぐにその力が扱えるわけではないという事だね」



 そうルイゾン様が仰ったので、私は首を縦に振る。



『シアには話したけれど……愛し子は生まれた時から魅了の魔法が掛かっている事が多いの。愛し子はお腹の中にいる時から精霊に好かれているから、その影響だと思うけれど……あ、魅了の魔法と言っても微々たるもので、愛し子を見れば「可愛いな〜」と思うくらいの弱いものよ。この魅了の魔法は、訓練することによって、どんどん制御する事ができるようになるの。勿論、シアも既に制御済みよ』



 それがエアルの話の中で一番衝撃だった。ミラも私も乳児の時点で魅了魔法を纏っていたと聞いて、驚かない方がおかしいだろう。

 彼女たちが言うには、私は母が私を次期公爵だと決めた時点で既に魅了の魔法の制御ができていたらしい。昔はそれも次期公爵になるための条件に入っていたとか。正直、母がこのことを知っていたのかは分からないが。


 

『でも、ミラはその制御がまだできていないの……その上、皆から愛されたいという強い欲望が彼女の中にあるから、髪飾りでその欲望が増幅されている状態になってしまっているのが現状よ』

「つまり、ミラは無意識のうちに髪飾りの力で魅了魔法を増幅しているため、王国で彼女に関わる人間と若い精霊たちが魅了に掛かってしまっている可能性が高いそうです」



 そう私が纏めると、ルイさんが首を捻って私に尋ねた。



「だが、魅了魔法と精霊が消える事の関連が見えないのだが……」



 確かにそうだ。これだと、ミラの魅了魔法が増幅されて若い精霊たちが王都に集まっている、と言うことだけしか分からない。



「これが大前提の話です。その話を踏まえて聞いていただきたいのですが……ミラの魔力量は多くありません。そのため、魔力を増幅する髪飾りを付けていると、魔力切れが起こるはずです」

『彼女の魅了の魔法は軽いものかもしれないけれど、範囲が広いの。彼女の魔力じゃあ、ぜいぜい維持するには数時間程でしょう。だけど、彼女は魔力切れを起こしていないのよ』

「もしかして……足りない分の魔力を、周囲の精霊から補っているのではありませんか?!」



 そう叫びながら声を上げたディアさんに、私は同意する。



『その通りよ。髪留めが足りない魔力を吸収しようとして、精霊を犠牲にし始めているの』

「エアルの言う通りですわ。以前、ルイ様とディア様には『精霊を魔力として利用されてしまうと、精霊は大地に還る事ができない』と話をしましたが……ミラの周囲に集まった精霊たちは、魔力として分解されているため、多くの精霊が消えているのです。現在、エアルが応急処置として髪飾りの周りに結界を張っています。彼女曰く、半年は持つらしいですが……その前に彼女から髪飾りを回収しなければ、この世界のバランスが崩れてしまう可能性があるそうです」

『この世界は精霊の魔力によって成り立っているの。精霊の数が極端に減るような事があれば、災害が起きたり、食物が穫れなくなったり、森の木々が枯れたり、水が涸れてしまったり……動植物が住めない世界になってしまうわ』

「ですから、私はミラを止めて精霊を助けます」



 静かな部屋に私の声が響く。国外追放の身ではあるが、姿を隠す魔法だったり、幻影魔法だったりと万が一のことに備えて勉強していた事が役に立つはずだ。

 そう決心した私は、精霊を助ける宣言した後、覚悟を示すために周囲を見回した。

 

 いつも読んで頂き、ありがとうございます!


 先程気づきましたが、この作品の文字数が20万文字をいつの間にか超えていました。

今まで執筆した作品は最高10万文字前後だったので、この作品が一番長い物語になりました。

ここまで書けたのも、皆様の応援のおかげです。これからもよろしくお願いします!

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