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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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16、爺の昔話 後編

「でも、私はいつだか母に『シアが当主になるのよ。このまま頑張りなさい』と言われていたのですが……」

「それはきっとカロリーナ様がお嬢様を当主と決めた後の話でしょう。カロリーナ様曰く、元々お嬢様もミラ様も生まれた時の差は微々たるものだったそうですよ。むしろミラ様の方が魔力量が多かったとかなんとか。ですが、当主は魔力量が多いだけ、長女だから、と決まるものではありません。愛し子としての訓練を幼少の頃から行い、精霊の力を使いこなす事ができる者を当主にする、とカロリーナ様は言っておりました」


 

 ミラが母の授業を受けなくなった事で、愛し子の自覚がないと判断されたのだろうか。それで母の授業を受けていた私が当主候補として名を上げたのだろう。

 だが、それは父にとってもミラにとっても屈辱だったに違いない。


「当時お二人は幼かったですし、当主云々はまだ早いと考えられたのでしょう。その話はせずに、カロリーナ様は愛し子の訓練に集中されておりましたな」



 まあ、まだ幼い子どもに当主が……と言っても実感が湧かないのはなんとなく分かる。

 

 

「カロリーナ様はミラ様が授業に来なくなった後、何度かその話をしたそうですよ。しかし、ミラ様は聞く耳を持ちませんでした。授業を受けない理由も、『お父様が受けなくていいって言ったから』だったそうですな。その後もミラ様は愛し子の訓練をする様子がなかったこともあり、当主候補から外されました。もしここから訓練を始めたとしても、数年ずっと訓練を続けていたお嬢様には敵わないだろうと、カロリーナ様は判断したようですな」

「シアさんの妹さんは、自分から当主の座を手放してしまったと言うことですね」

『それだけじゃないわ〜。ミラは上位精霊からの好意も手放したのぉ〜』



 今までふわふわと漂っていたディーネが、いきなり口を挟んだ。先ほどの実体化がまだ残っているので、この声は勿論二人にも聞こえている。


 

「ディーネ、それはどういう事?」

『エアルも言ってたでしょ〜?私たちがシアについてきたのは、シアが精霊と仲良くなりたいと毎日祈りを捧げていたからって』

『……ディーネ様、それだと説明不足かと。愛し子だからと言って、全精霊に好かれるわけではありません。確かに、好意は抱きます。ですが、それで無条件に好かれるのはまだ若い精霊のみ。我らやディーネ様のような上位精霊と呼ばれる存在は、愛し子としてどう生きているか、その努力の過程を評価するのです』

「そうか。上位精霊は愛し子としての実力がついているかどうかで判断する、ということなのか」

『そうだよ〜今回はシアが私たちの力を使いこなせる愛し子だと判断したから、私たちはシアについてきたんだよ〜!』



 爺やライさんにはグノーの話が聞こえないため、私は通訳をしつつ話を聞く。そんな私の周りをふわふわと飛びながらディーネは話を続けた。



『正直最初はシアでもミラでも、どっちでも良いと思っていたの〜。当時はエアルと話して、一人ずつ付いても良いかもしれない、と話していたんだ〜。でもね、いつからかミラは愛し子としての努力を怠ってしまったの〜。私たちの力は強大で、どう見ても彼女には使いこなす事ができないと判断してねぇ。二人でシアにつくことにしたんだぁ〜』

「もし、ミラがディーネの力を使うとどうなるの?」

『まぁ、シアと契約を結んだからディーネの力は使うことができないけどぉ……うーん、多分使いこなせなくて暴走するかなぁ……城ひとつくらいは壊しちゃうかもぉ?』

『酷ければ街ひとつ吹っ飛ぶだろうな!』

「街が……」


 

 震える声でそう二人に伝えれば、二人も私と同じように血の気がひいたようだ。それだけ精霊の力は強大なのだろう。私はそんな力を使いこなせるのだろうか、重圧がのしかかる。



『あ、シアは大丈夫〜。ちゃんと私たちの力に馴染んでるし、魔力操作もバッチリ!文句なしの実力だと思うよ〜?ここ最近の愛し子の中で一番だと思う〜』

「……そうなの?」

『うん。努力の賜物だよね〜!特にこの半年間でシアの実力は相当伸びたものぉ〜』


 

 そう言われると、とても嬉しい。頑張ってきた甲斐があったと思う。ディーネはそこまで言うと、疲れたのか私の肩に乗って顔にもたれかかる。そして、大きなあくびと共に伸びをした。

 多分言いたいことは話し終わったのだろう。グノーやウルを見ると、肯定している。そう話をすれば、ライさんが爺に顔を向けた。


 

「ところで、お聞きしたいのですが……何故シアさんは王国の王太子殿の婚約者だったのですか?」

「それは私も聞きたいわ」



 先程も爺に言った通り、私は母から次期公爵だと言われていた。それならば、白紙に戻る婚約などするべきではなかった。

 そう言えば、爺は「その通りですな」と肯定した。



「もし、カロリーナ様が生きておられれば……お嬢様とハリソン様の婚約はありませんでした。むしろミラ様とハリソン様が婚約されていたでしょうな」

「……何故ミラと?」

「愛し子の血を他の家に渡さないためですな。他に渡すくらいなら、まだ王家がいいと判断したのでしょう」



 それから爺が語ってくれた話によると。


 母が流行病で亡くなる前、既に父と母の間に入ってしまった亀裂は修復不可能になってしまっていた。ミラを溺愛し、私を蔑ろにする父。彼に後継の指導は無理だと母は悟ったのだ。

 

 そのため、母はキャメロン様(前国王)に手紙を認めて、母が亡くなった後は私が公爵家の屋敷を出て、王宮で領主の勉強ができるよう、キャメロン様に頼んだらしい。見返りは、ミラを王家の人間……つまりハリソンと婚約させること。


 それを了承したキャメロン様は、母が亡くなった後、私を王宮に呼び、領主としての勉強をさせ始めたのだ。しかし、ただの一令嬢が王宮に留まるには何かしら理由が必要だ。その理由づけが、「ハリソンの婚約者」だったのだ。


 そのため、私は領主との勉強に加えて王妃教育も受けなくてはならなかったのだ。王妃教育も礼儀作法が主だったので、そこまで負担ではなかったが、一番厳しかった(叩かれたりした)のは、この授業だった気がする。


 

「まあ、王家としても都合が良かったのもあったかもしれませんなぁ。最終的に王家が結婚するのは、ベルブルク公爵家の愛し子ですからのぅ……途中で婚約者が入れ替わったところで、別に問題はないのでしょうなぁ」

「成程ね。シアさんの婚約を白紙にする前に、ルイと婚約を結んで…………と前国王様は考えていたのかな」

「仰る通りでしょうな。しかし、その前に前国王様が亡くなられたため、その計画が宙ぶらりんになってしまったのでしょうなぁ……」

「そしてその事を知っている王家の人間がいなかったという事なのね……ハリソン様がこの事を知っていればわざわざ婚約破棄など宣言しないわよね。あの時は面倒な茶番だなと思ってすぐに立ち去ったけれど……」



 そう思えば、ハリソン様にも悪い事をしたのかもしれない、と思った。私は「仮婚約」だと知っていたからこそ、逢瀬より勉学に集中していた。むしろ勉学を大事にしろ、とキャメロン様に言われていた。

 ハリソン様との交流会も、私の授業の合間を縫って多忙な中行われていたため、私の対応に不快な思いをさせたかもしれない。ハリソン様は仮婚約だと知らなかったのだから。


 

「そう考えると殿下には申し訳ない事をしたわね……一言でも、仮婚約だと言っておけば、あそこまで溝ができなかったのかもしれないわ」

「そうですな。お嬢様もハリソン様も歩み寄りが足りなかったのは事実でしょうなぁ。ですが、根本の原因は、前国王様でしょう。彼の方は報連相を全くしない方ですからな」

「……王族の婚約に関する件を、前国王様以外誰も知らないのは、異常だよ」



 それは同感だ。知っていると思い込んでいた私も問題だったのかもしれないが、大事な婚約について仮にも王太子になる人間に伝えていないのは、どうかと思う。



「前国王様はある程度物事を進めてから公表する方でしたからなぁ。新型魔道具の発表も、ポールの試作がきちんと稼働してから場を作って公表していたようですな。その件も当時の王太子様、現国王様ですが、彼の方にも伝えていなかったようです。全て自分で行っていたようですなぁ」

「共和国で、王国の前国王様が賢王だという話をよく聞くけれど……今の話を聞いたら申し訳ないけれど、賢王なのか疑問に思うな」

 


 そう言い合う爺とライさん。特にライさんの父はルイゾン様だ。報連相がどれだけ大事か理解しているのだろう。


 ……もし、もしキャメロン様がこの事を二人に知らせていたらどうなったのだろうか……それは想像もつかないが、きっと私が精霊さんたちと話すことはなかっただろうな、と私は思った。

 

 いつも読んでいただき、ありがとうございます。

次回は爺からもらった母の形見である本の謎編に迫ります。



*執筆状況について

 現在連載しているのは、この話と「私はこうして支援魔道士から聖女になった」の二作になりますが、後者は亀のように更新が遅い状態なので、まずはこちらを完結まで執筆する予定です。

 新作もこの話が行き詰まった際に、ぼちぼちと書いているのですが、この話に比べるとやはり歩みが遅いので、まだ載せることはできないかと思います。

ですが、できたら……この話が終わる前に掲載できればいいなとは思っておりますので、新作を載せる際はまたお知らせします。


 まずはアレクシアたちをよろしくお願いいたします。

 

 

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