14、王国の状況
「なんですって?」
思わず声を出してしまうほど、王国に異変が起きていた。
ルイさん達が言うには、その異変の大元の原因が、「国境付近の村や街から精霊が居なくなった」ことなのだそう。
では居なくなったで精霊たちはどこに行ったのか……というと、王都に集まっているのではと推測されているらしい。
推測である理由は、精霊を見ることのできる人間がいないため、視覚で確認できないためである。
「現在、王国の国境付近の村々で魔物が発見されているわ。それだけではなく、前国王陛下が製作した新型魔道具も使用できなくなっているの。最初は故障かと思っていたらしいのだけど……その魔道具を王都で使ってみたら、問題なく使えたと報告されているわ」
「……だから魔道具が壊れたのではなく、空中にあるはずの精霊の魔力が無くなったと考えられたのですね」
「そうだ。精霊の魔力が濃い場所には魔物も近寄らないという実験結果も出ている。それも鑑みて、国境付近の村では魔力濃度が下がっていると思われる」
もしかして、私が精霊達を引き連れてここまで来てしまった事が原因なのだろうか、と考えた。その答えが欲しくてエアル達を見るけれど、彼らは彼らで何か考え込んでいるらしい。
「そして次。モーズレイ侯爵が黒だと分かった。彼の王都の屋敷で、ザリバーの反応があったらしい。現在ザリバーを従えているのは彼で、情報によると公爵代理とお前に関しての取引を結んだそうだ。だからお前はまだ狙われると考える必要がある」
「この件はまだ詳しい報告が来ていないの。また報告が来たら、話すわね」
どうせ碌な取引ではないはずだ。思わず顔を顰めてしまう。
「最後に、これが聞きたい話なのだが……先程『精霊達が王都に集まっているのでは』と話をしただろう?これは空中にある魔力濃度を測定する魔道具で測ったデータを紙にまとめたものなのだが……これを見てくれ」
ルイさんから一枚の紙が目の前に出される。そこには、日付と王都、ベルメケースの街の魔力濃度の計測値が書かれている。確かにベルメケースの街の魔力濃度は上がる事なく下がり続けている。そして王都は……。
「……この数値は、どういう事でしょう?」
王都はある一定時期まで上がり続けていたが、今は緩やかに下降しているのだ。
「そこだ。一定期間上がり続けた部分は、精霊が王都に集合したと考えられるのだが……研究者の話では、下降している理由は『精霊が消えているのではないか』と推測している」
「精霊が……消える?」
「そうだ。だがこれは仮定だ。だからもしこの事で何か知っている事があれば、教えて欲しいと思い俺たちはここに来ている」
そんな事があるのだろうか。驚いた私はエアルの方向に顔を向けると、丁度彼女と視線が交わった。その時に魔力が欲しいと言われたので了承し、エアルとディーネは実体化する。
一度見ているライさんは、光に驚いただけだったが、他の三人は実体化した2人を見て三者三様に驚いていた。爺は目を見開き、ルイさんは身を乗り出し、ディアさんは口を開いたままだ。
『私は風の精霊姫エアル。風の精霊の中で最も魔力を持つ精霊よ。こっちはディーネ、水の精霊姫よ。……私が貴方達の疑問に答えるわ』
そう答えたエアルだが、彼女の顔は険しい。一方、疑問に答えると言われたルイさんとディアさんは、真剣な顔で彼女を見ている。
エアルは険しい表情から、少し悲しそうな顔をして俯き始めたので、私が彼女の背中をポンポンと軽く叩く。すると彼女は意を決したのか、話し始めた。
『貴方達の考察通り、精霊は消える事があるの。ひとつ目の原因は、人間でいう「寿命」が来た時。その時は、精霊の魔力は大地に吸収されて、また新たな精霊を生み出すの。これは別に問題のないパターンね。……ふたつ目の原因は、精霊を魔力として利用されてしまう事。精霊を魔力にして生み出した魔法は、大地に還る事ができない……これは精霊の完全なる死になるのかしらね』
「……前者であれば、空気中の魔力濃度は減らないって認識でいいの?」
『ええ。大地に還れば、また新たな精霊が生まれるわ。その時は確かに魔力は下がるのだけど、一気に大地に還ることはないのよ。100年に1人還れば多い方ね。だから……ここまで減るのはおかしいと思うの。何らかの原因で後者が起こっている可能性が高いわ』
「やはり、そうか……」
ルイさんは端正な顔を歪めて考え込んでいる。そんな彼に話しかけたのはライさんだった。
「ちなみに、何故そこまで詳細なデータがルイの手元にあるのかが僕としては気になるんだけど」
「ああ、うちの研究員の一人が研究で必要らしくデータを取っていたから、そのデータを借りただけだ。ところで話は戻るが、精霊が消えている現象について心当たりはあるのだろうか?」
そう言って、ルイさんは眉間に皺を寄せて考え込んでいるエアルを見る。
『流石に王都に行って確認しないとダメね』
「精霊達同士で交信できたりしないの?」
『……シア、私たちは万能ではないから、それはできないわ。そもそもその発想がないわね』
エアル曰く、そもそも精霊姫・王子という呼び方だって、実は必要のないものなのだ。精霊全員をまとめるのは精霊王であり、もし姫や王子が動く必要のあるときは、彼の意志を下に伝える時だけなのだから。
『私が心配しているのは、精霊がいきなり減ることで世界のバランスが崩れやすくなってしまうこと。バランスが崩れると、災害が起こったり、魔物の活性化が起きたり、ダンジョンの魔物が大量発生してスタンピードが起こりやすくなったり……人間の生活にも支障が出るわね。……この件は精霊としても問題だわ。シア、私が王都の様子を見てくるから、待っていてもらえるかしら。1週間くらい時間を頂戴』
「……分かったわ。気をつけて行ってきてね」
エアルと離れるのは寂しいが、流石に私が王都に向かうわけにもいかない。大丈夫だろうか、と心配していると、エアルがこちらを向いてにっこりと笑う。
『ディーネ、ここは貴女にお願いするわ』
『まっかせてぇ〜。頑張るぅ〜』
『その間伸びした返事だから心配なんだけど……何かあったらグノー、よろしくね』
グノーは頷いたあと、私に身体を寄せてくる。きっと護衛のためだろう。具現化していたエアルは、それを解くと窓からすーっと飛んでいった。挨拶もそこそこに王都に向かったので、それ程この件を重要視しているのだろう。
ルイ達は途中で見えなくなったエアルを探しているのか、家の中に視線を彷徨わせていたので、彼女が飛び去ったことをこの場にいる全員に伝えた。勿論、飛び立った理由も念の為添えて。
「精霊姫様に確認して頂けるのであれば、助かりますわ。もし何か分かれば、私共にも教えてもらえるかしら?」
「勿論です。分かり次第お伝えしますね」
そう約束した。この後二人はルイゾン様にお会いするらしく、ディアさんは丁寧に別れの挨拶を口にする。
一方でルイさんはその間に私の手を取って、甲に唇を近づけてきたが……その行動を知ったディアさんに頭を叩かれ、彼女はルイさんの首根っこを掴んで引き摺って出ていったのだった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
次回はエアルに代わりまして、ディーネが頑張る番となります。
引き続き、お楽しみください!
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