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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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12、すれ違い?

「最近、彼女(シア)の様子が変、だと?」



 リネットは職務終了後、ロゼットとシモーネの二人と警備隊の詰め所近くの食堂で食事をしていた。そんな時、少し落ち込んだ様子のライが店内に入ってきたのだ。

 ロゼットとシモーネも同じ金級冒険者であるライとは知り合いである。そのため、そんな様子が気になったシモーネがライの首根っこを引っ張って、同じ席に座らせた。


 そして彼への追及が始まる。


 勿論、ライは彼女たちの追及に勝てるとは思っていない。そのため、このモヤモヤが晴れるなら、と三人に素直に話すことにしたのだ。ライも恋愛初心者なのだ。誰かに縋りたいと思うのも、仕方がない。


 

「そうなんだ。この数日、以前と違って僕と目を合わせてくれないような気がして……こっちを向いてはいるんだけど、目が泳いでいる気がするんだ。僕、嫌われたのかな……」

「ふん、貴方情けないわね」

「ロゼット、そこはもう少しオブラートに包んであげたらどうだ?」


 

 そんな言い合いをしながら、四人はあれやこれやを話す。



「昨日も扉を開けた時、倒れそうになる彼女を抱き止めたのだけれど……顔が赤くなった後、慌てて離れて僕に背を向けたから、怒ったのかと思ったんだ。その後も、どこか上の空のように見えて……」

「抱き止めて、赤くなった?」


 

 不審に思った三人は、その時の話や、その前の話をより詳細に聞くことにした。ライは求められるがまま話したあと、お手洗いに行くと言って立ち去っていく。

 そんな彼の背を見ながら、ロゼットが毒を吐く。



「ねぇ、シモーネ。ライ、鈍くない?」

「そうねぇ、鈍すぎるわ。今まで彼は女性に興味がなかったから、仕方のないことかもしれないけどねぇ〜」



 話を聞いている限り、シアがライに対して恋心を自覚したようにしか思えない。嫌ったのであれば、無視するなり話しかけないのが普通であろう。

 そう二人が言い合う中、リネットはじっと考え込んでいる。

 

 

「もしかして、義姉様。何か知っているの?」

「あ、ああ。知っていると言うか、多分原因は私だ」

「え?義姉様、シアに何したの?!」

「ああ、いや。この間、シモーネに、『恋愛としての好き』という感情について話したことがあるだろう?」

「ああ、そんなことあったわねぇ」



 確かその時は、シモーネと二人で食事をしていたのだ。そこに偶然通りかかったカップルを見て、そんな話になったのだが……。



「シアさんも私と同じ事を言っていたので、シモーネの話をそのまま伝えたんだ」

「あの、やきもちを〜のくだりの話かしら?」

「そうだ」

「成程、読めたわ。それでシアはライに対して恋心を自覚したのね」

「ああ。多分そうなのだろう」



 シアも恋心を自覚したのは良い。だが、お互いがあまりにも鈍感すぎて、両思いと解るまでに時間がかかりそうである。



「シアさんに頑張れって言っても、変わらないでしょう……なら、ライに助言すれば良いかしら?」

「そうねぇ〜。まずシアさんは嫌っていない事を把握させないとね♪シアさんは自分から行くタイプではないはず。なら私たちでライを(けしか)けましょう!」

「……優しくしてやってくれ」


 

 その後、二人に揶揄われながら助言を受けるライをリネットは見ながら、三人の話を聞いていたのであった。



 **



 それから数日後。よく晴れた日の夕方のことだった。


 入れ替わりで入ってきていたお客さんの足も途絶え、私が閉店準備を進めていた頃。扉の鈴がカラン、と乾いた音を鳴らす。入ってきたのはライさんだった。

 ちなみに店の奥では爺が、のんびりとお茶を啜っている。



「こんにちは、ライさん。今日は何かをお求めで?」

 


 緊張しながらも、いつもの様に笑顔で接客をする。心なしか私の口角が引き攣っている気がするが、気のせいだと思いたい。

 以前より気持ちの整理がついたからか、今日は比較的落ち着いて話せていると思う。きちんとライさんとも目を合わせて……と彼の顔を見たところで、ふとライさんの顔がいつもと比べて少し曇っている様な気がする。

 不思議に思って、私は思わず声をかけていた。



「ライさん、どうしました?顔色があまり良くないですよ」



 するとライさんはゆっくりと私に目を合わせて話す。その表情はとても申し訳なさそうである。


 

「……いや、僕何か失礼な事をしてしまったかと思って。最近シアさんに避けられているような気がしたから」



 ――アレクシアは知らない事だが、ロゼットとシモーネたちに相談していたライは、最終的に「シアさんに避けられて寂しいんでしょ?そう言えば良いじゃない。面倒な男」とロゼットに言われたため、素直に言うことにしたのだ。


 そう言われて私の頭の中は真っ白になった。私は恥ずかしかったので挙動不審になっていたのだけれど、ライさんから見たら避けられているように見えたらしい。

 凍りついた私を見て、ライさんは眉尻を下げてこちらを見ている。



「ごめん……困らせちゃったよね。一回、出直してくるよ」

 


 そう言って後ろを振り向いたライさんの腕を、咄嗟に私は掴む。ここで彼を帰らせてはいけない、と思ったからだ。

 

 いきなり腕を掴まれたライさんは、驚きから目を見開いていたが、私の必死な顔を見たからか彼の腕から力が抜けた。


 私も今更だが、彼の顔を見て冷静になり始めている。彼の腕を掴んでいる事に羞恥を感じ始めている。

 だが、そんな事よりもライさんの事だ。彼にこんな顔をさせたままでいたいと思わない。

 

 

「ライさん、ひとつだけ言わせて下さい。私は貴方を避けていたわけでは、ありません。これだけは、知っていて下さい」


 流石に、貴方を意識し過ぎて挙動不審になっていました、とは言えない。だから、避けていたと思われている部分だけでも訂正したかったのだ。


 視線をしっかり合わせて話したからか、彼の瞳に安堵の色が見え隠れし始めた。私もそれを嬉しく思い、掴んだ腕を離そうと力を抜いたとき……扉の開く音が聞こえたのだった。




 店の扉が開いた瞬間、私はライさんの手をすぐに離し、彼から距離をとった。そして新たに来たお客さんに「いらっしゃいませ」と声をかけて、扉の方向を見る。


 すると、そこには黒髪でこの街では見たことのない男の人が立っていた。それよりも驚くべきところは、隣にいるライさんと背格好が似ているにも拘わらず、彼の背には背丈の半分以上の長さのある大剣を背負っている。

 そしてよく見ると、共和国では見られない黒髪だけではなく、瞳も黒目なのだ。その特徴はどちらかと言うと帝国でよく見られる姿だ。


 つまり彼は帝国からこちらへやってきたのだろう、と当たりを付けたところで、どこかで見たような顔だと思った。だが、私に黒髪黒目の知り合いはいないので、気のせいだと思うのだが……。


 ふと気になったので、私は隣にいるライさんの顔を見る。彼の顔は驚愕で彩られていた。


 知り合いだろうか、首を傾げて改めて相手の方向に顔を向ければ、丁度黒髪の彼と目があう。それと同時に、なんとなくではあるが、嫌な予感が頭の中を駆け巡った。


 ……その警鐘は正しかったらしい。その男はこちらを見てこう言い放ったのだ。



「やっと会えたな、婚約者サマ」



 その言葉に空気が凍りついたのは、言うまでもない。

いつも読んでいただき、ありがとうございます!


最近少々忙しいこともあり、もしかしたら毎日投稿が途切れるかもしれません。

今のところ数話ほどストックがありますが、このまま行くとストックがなくなってしまうと思います。

投稿をお休みする時は事前にお伝えしますので、よろしくお願いします。

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