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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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9、その頃の王国 その3

「まだ報告はなし、か」



 バート(ベルブルク公爵代理)は王宮内を歩きながら、今朝受け取った手紙を見て一人こう呟いた。彼の機嫌は現在……というよりもここ数ヶ月、すこぶる悪い。裏ギルドに依頼していた件の進捗がまったく進んでいないためだ。


 実の娘ではあるが、考えることも名前を聞くことでさえ嫌な娘のことをあえて探しているのは、実はヴィクターの命令だった。

 書類を確認したヴィクターは、国外追放の記載を見てそれを認めた。元々ハリソンから、アレクシアがミラを虐げているという話を聞いていたからだ。

 

 国の大事な愛し子である。これ以上機嫌を損ねて、協力してくれなければこちらも困ってしまう。それにハリソンも彼女のことを好いているからこそ、ミラの姉に対するトラウマに過敏に反応していた。

 そこでお披露目が終わった後、バートを呼びつけて、アレクシアの動向を探るように命じたのである。


 ヴィクターの命に逆らうことができず、彼はミラに知られることのないように、裏ギルドに依頼したのだ。

 

 銅貨一枚で公爵令嬢だった女に何ができる、そう思って依頼したバートだったが、今の今まで見つかっていないのは誤算だった。

 そのため、苛々が募っていたのだ。


 ミラの様子を見るため、王宮に足を運んでいたバートは、怒りからか歩くスピードが自然と速くなる。そんな彼に声をかける者がいたのだ。



「おや、ベルブルク公爵代理殿。お久しぶりでございます」



 下を向いて歩いていたバートが顔を上げれば、声をかけたのはダリウィン・モーズレイ侯爵だ。


 彼は国王派の中でも特に公爵家寄りの人間で、公爵代理を支援する貴族の一人である。以前からアレクシアの婚約が解消したら、こちらに引き取りたいとの話を持ちかけられていた。

 彼に嫁がせることも一時期考えたことはあったが、彼は妻が流行病で亡くなっており、アレクシアを嫁がせるのであれば正妻として嫁ぐことになる。そのため、ミラもバートも彼女が幸せに暮らすことになるのではないかと考え、見送っていた案件だった。


 最近はその名前を出すことはなかったが、話しかけてくることに何か思惑があるのだろうと予想がつく。だが、彼の支持層は意外と厚いため邪険にすることはできない。



「ダリウィン殿、お元気そうで」

「ははは、そちらも……と言いたいところですが、何やらご気分がすぐれない様子。どうされましたか?」



 胡散臭い笑みと共にそう尋ねるダリウィンに、バートは舌打ちしそうになる。


 

「何、虫の居所が悪いだけですよ」


 まさか追放した娘の居場所が分からなくて、怒っているとは思わないだろう。煩わしいと思いながら、雑談に講じているが……ダリウィンのまるで全てを見透かしているような瞳が、さらに苛立ちを募らせる。


 ある程度の情報交換をしたと判断したバートは、無理やり笑みを貼り付る。

 

 

「では、私はこれで」

 

 

 そう言うや否や、大股で歩き出す。これで声をかけられても振り向かなければ、聞こえなかった振りができるだろうと考えたからだ。

 初手は問題なかったと思われる。後はこのまま歩き続けるだけだ……そう彼が思った時。


 

「……その腹立たしさ、私が取り除きましょうか?」


 

 バートは、想像と全く違う言葉に足を止めて思わず振り返ってしまった。


 

「は?何言って……」



 足を止めて返事をしてしまった自分に苛立ったが、彼の発言は何故バートの機嫌が良くないのかを見抜いているようにも見える。

 図星を突かれたような気がして、思わず睨みつけてしまったバートだったが、ダリウィンはどこ吹く風だ。

 バートの気分などまるで興味がないという顔で話し始めた。


 

「実は私の部下が、共和国で彼女を見つけましてね」

「なんだと!あいつには銅貨しか……いや、なんでもない」



 彼の口から出た言葉は、バートにとって驚愕の事実だ。無意識のうちに否定する言葉が飛び出してしまう。咄嗟に口を慎んだが、もうダリウィンの術中にはまってしまっていた。


 

「それをどう捉えるかは公爵代理次第ですが、現に王国では見つかっていないのですよね?とすれば、信用できる情報のひとつではありませんか?」

「ううむ……」



 確かに裏ギルドに探らせてはいるが、既に共和国へ続く主要道路周辺と、帝国へ続く主要道路周辺には彼女がいる形跡がないと言われている。

 後は攫われている可能性もあるのだが、そこまで考えるとお金も時間もかかるので、面倒だ。



「では、ひとつ聞いてもいいか?あいつは何をしていた?」


 

 この話をするだけで、アレクシアの顔が思い出されて不快感が押し寄せる。そのため、バートは既に取り繕う事を止めていた。

 一方で、ダリウィンはニコニコと笑いながら情報を提供する。

 

 

「共和国で魔石屋を営んでいるようですよ。部下が見た時には、冒険者の真似事もしていたようですが」

「……なるほどな」


 

 それで少し納得した。

 バートが記憶しているには、愛し子であったカロリーナの魔力を込めた魔石が家に幾らか残っていたはずだ。手癖の悪いアレクシアのことだ、それを黙って持って行ったに違いない。

 

 魔力の込められた魔石は高価であると聞く。それを道中で売り払って、何とか共和国にたどり着いたのだろう。

 

 愛し子でないアレクシアは、魔石に魔力を込めることはできない。おそらく、店番として雇われているだけだ、とバートは推測する。



「しかし、冒険者の真似事か……くたばればいいものを」


 

 バートは無自覚に呟いていたが、幸いその言葉はダリウィンに聞こえていなかったらしい。彼は顔色を変えることなく、話を続ける。



「彼女の件でひとつ取引をしませんか?」

「取引だと?」



 怪訝な顔をしてダリウィンの方を向くバート。



「ええ。バート殿は陛下から『彼女の動向を探れ』と依頼されているのですよね?その依頼を代わりに私がこなしますよ。金銭を要求などもするつもりはありませんからご安心を。動きがあれば、私から手紙をお送りします。それを見るも見ないもバート殿のお好きなようになさってください。ただし、必ず内容を確認してほしい時は言伝と共に送りますので、その時は見ていただく。これでいかがでしょうか?」



 悪い内容ではない。全ての負担はダリウィンが負ってくれる、つまり無駄金を使う必要がないのだ。だが、こちらに対しそれ以上の要求があれば、断らざるを得ない。

 金銭でなければ、残りの要求はミラ関係である。そう考えると少しだけ身構えてしまった。

 


「……見返りは?」



 その内容によっては却下する予定ではあったが、聞いてみるとある意味バートにも都合の良い条件だった。


 

「ミラ嬢が殿下と結婚したあと、彼女(アレクシア)を私の自由にする権利を」

「表に出さないようにすることは可能か?」

「勿論」


 

 以前は正妻として迎え入れられる可能性が高かったから、拒否していただけだ。そう、今アレクシアは『愛し子であるミラを虐めた』罪で国外追放にしているのだ。つまり貴族籍も抜かれており、平民。平民を正妻にできるはずなどない。


 

「交渉成立だ」

 


 表に出ないなら何でもいい。そう考えたバートは、ダリヴィンが出した手を握り締めたのだった。



 


 「交渉成立が早くて有難いことだ」



 最初とはまるで違う雰囲気のバートが、嬉しげに去っていく背を見つめてそうダリヴィンは呟く。

 

 彼女を見つけたのは、偶然だ。さるお方の諜報部員が、誘拐しようとしたのが彼女だったのだ。

 現在アレクシアの件については、彼に一任されている状態で、有難い事に諜報部員も借りている状態だった。

 


 「しかし、あの男はどうして彼女の事を『愛し子』でないと決めつけるのだろうか。そこが不思議でたまらない。賢王と呼ばれるキャメロン様が丁重に扱った娘だぞ。何もないわけないだろうに」



 特に妹のミラと関わる人間はその傾向が強いとダリヴィンは判断している。

 彼女が何かをしているのか……とも思ったが、今のところ不穏な動きもないので、考えすぎだろう。

 それよりも今はアレクシアを取り込むことを考えなくてはいけない。

 

 

「幸い、彼女を取り込む許可を得た。つまり、私の野望にむけて一歩進んだということだろう」



 そう笑う彼の右腕には、綺麗な丸い形をした黄色の宝石が埋められている腕輪が嵌められており、その魔石が光を浴びてきらりと光った。



 



「ふうん、これはクロだねぇ〜」



 王宮の周囲を囲んでいる堀の外を散歩するのは、サラだ。彼女は販売した装飾品がきちんと機能しているかを確認するために、ここに来ていた。


 彼女は魔石も鉱石のひとつだと知ってから、どうにかして諜報活動に活用する方法がないかを探していた。そんな時に、アレクシアが魔石を装飾品に利用してみてはどうかと提案され、それが今役に立っているのである。


 王国の加護持ちが誘拐される事件を知ってから、サラはダリヴィンの周囲を探っている。その際、商人の一人として(表での身分証のひとつだ)王都の宝石店で取引を行い、見事に彼に売りつける事ができたのだ。ついでに他の作品が売れたのは僥倖だったが。


 その当事者であるダリヴィンとバートが王宮に足を運んでいると聞いたので、何かしらあればラッキーかな?という気持ちもあり、盗聴できる範囲にいたのだが、大収穫である。


 

「やはり彼は彼女(シア)の事を知っているのかぁ。彼女を取り込んで、自分達が精霊の愛し子の家系として台頭しようとでもしているのかな?」

 

 

 その可能性が一番高そうだ。正直、二人が子どもを産んだ際にどうなるかなど想像はつかないが、可能性としてはまた愛し子が二人生まれる可能性だって否定できない。賭けではあろうが、やってみる価値はあるだろう。



「まあ、僕らが許さないけどね。早くライナス様には頑張ってもらいたいな〜」



 そう呟いた彼女は、音もなくその場を去っていったのだった。

 いつも読んでいただき、ありがとうございます。

本日で王国の話は一旦終了になります。明日以降、またアレクシアの話に戻ります。

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