8、その頃の王国 その2
「やはり……か」
誘拐されていた加護持ちの全員無事を確認した直後の話だった。デイミアンは現地から戻ってきている文官からの報告を受け取り、国境周辺の村々の状況を確認していた。
数日前に新型魔道具が使用できなくなった領地の貴族たちが数人、ヴィクターに直訴しに来ていたのだが……取り付く島もなかったらしい。
それを知った彼が、「報告書を確認次第、再度連絡する」と話し、今彼らは王都にあるタウンハウスで待機していてもらっている。
「ふむ、やはり目撃情報は正しいか。しかも最近はギルドに討伐依頼も出ていると……」
「はい。私も依頼を受ける冒険者に帯同しましたが、冒険者も解体して魔石を取り出していたので、正真正銘魔物でした」
魔物と獣の違いは、魔石が取れるかどうかなのだ。少しでも魔力を帯びて(魔法を使えるかどうかは別として)いると、魔石が体内で作られるらしい。
これは以前、ここで魔道具製作者として働いていたポールから聞いたものだ。
「そして同時に魔道具も不調であるということか」
「はい。ベルメケースの魔石屋の店員に聞いたところ、最近生活用魔石の売れ行きが戻ってきているそうです」
「そうか……この様子では新型から旧型へ魔道具を変更した者もいそうだな」
「仰る通りです。安売りされていた旧型魔道具を買い直す動きが見られます。特に食堂等では致命的ですからね……旧型に変更した食堂の料理人に話を聞く事ができました。一番問題なのはフリッジとコンロだそうです。フリッジは冷却力が弱まり、保存している食材の腐敗が以前よりも早くなったと、コンロは朝食の混雑時に利用すると、その後数時間経たないと使えなくなるそうです」
王宮の料理人も同様の魔道具を使用していると思われるが、今の所そのような報告はない。
「そこまでか……旧型は問題なく使えるのだろう?」
「はい、話を聞いた料理人はそう言っておりました」
「つまり……新型の魔道具に問題があるという事だろうな」
「それについてですが……」
報告に来た文官は新しい資料を手渡しながら、怪訝な顔をして話し出す。
「話を聞いた料理人から、使わない新型魔道具を購入してこちらで試してみたのですが……こちらでは難なく使用できまして」
「……何だって?」
「魔道具の故障ではないと思われます」
魔道具の故障ではない。ということは、つまり――。
だが、その答えを文官と言い合う前に、この部屋の扉がノック無しに開く。「誰だ」と声を上げようとして、宰相は驚きで相手を食いつくように見つめた。
そんな赤髪にメガネの彼は呑気に挨拶し始める。
「やあ、久しいね〜宰相クン」
「……ポール?どうしてここへ――」
と言いかけたところで、目の前にいた文官を見る。彼は力無く笑っていた。
「そうか、ミッチャド……君がここに来る前にいた部署は魔道具開発研究所だったな……君の手引きか」
「いやぁ〜みっクンは悪くないよ?」
ヘラヘラと笑う彼こそ、キャメロンと雇用契約を結んでいたポールだ。彼は帝国出身で、放浪しながら様々な魔道具を作り出している。
例えば、魔石測定器は彼の初期の作品だ。その後も、空中の魔力量を測る魔道具を製作したり、旧型魔道具の魔力効率の改良をおこなったのも彼である。
そんな彼が王国にいると聞いて、キャメロン自身がポールを迎えに行き、パトロンとして雇用契約を結んだというのだから、彼の実力は相当なものである。
ちなみに何故デイミアンがポールの出身を知っているかについては、以前王宮で彼に尋ねた時、あっさりと教えてくれたからである。
「いや、私も君に話が聞きたかったところだ。別にミッチャドへ罰を与えるつもりもないし、何か言われれば私が招いたと言っておこう。むしろ有難いことさ。で、ここに来た理由は、君が開発した魔道具の件かな」
「ご名答〜!と言っても、宰相クンなら答えが出ていると思うケド」
ひとつため息を吐きながらポールを見る。彼はデイミアンが答えにたどり着くことを分かっていて、ここにいるのだから。
「……ミッチャドに故障だと思われている新型を購入させたのは、君の仕業か?……しかし、お陰で原因が理解できた。あの新型魔道具は空中にある魔力を吸収して利用するもの……つまり、国境に近い村々の空中の魔力量が減っている、ということだろう?」
「その通りだね!だから魔物も現れ始めたのさ。実は魔物は空中にある魔力量が濃ければ濃いほど、そこを避ける性質があると最近の研究結果で実証されたからね!」
デイミアンはそれを聞いて、心得た。だから国境付近の村々で討伐依頼が増えているのだろう。
「それは君の研究かい?」
「いや、今の部下の研究さ!」
「じゃあ、その部下にお礼を伝えて貰えると嬉しい。お陰で今の王国の現状を理解した」
アレクシア――彼女が国外追放されたこと、これが大きな原因であろう。彼女の報告は文官からまだ聞けていなかった。本当に無事でいてくれればいいのだが……。
それを見抜かれたのか、ポールはデイミアンに笑いかけた後、また話し始める。
「ふたつ、教えてあげるよ。ひとつめ。彼女はブレア領にいるよ。彼女の顔を知っている僕の知り合いが、最近顔を合わせたと連絡が入ったよ」
「た、確かに……ウェルスの街の門番に確認したところ、彼女らしき女性が門を通り抜けたと証言していました。あまり見かけない、綺麗な女性だった事もあり、覚えていたそうです」
「そうか……それは良かった……」
そう言ってデイミアンは胸を撫で下ろす。生きている、と聞いて目が潤んだ。
精霊の愛し子は次代を産むまで、亡くなることはない。何故なら精霊に愛されているからだ。愛し子が虐げられていれば、生きるために力を貸すとも言われている。
だから彼女も無事であろう、とは思っていても、やはり万が一のことがあるので、その報告を聞くだけで嬉しかったのだ。
「助かる。秘密裏にしかできなかったが……そうか」
「あ〜、彼らね!もし宰相クンが彼女のことを捜索しているのがバレたら、何か言われるのは目に見えているよねぇ」
「その通りだ」
大々的にできないのは、公爵代理たちの横槍もあるが、国王も「国外追放」の件に同意しているからだ。デイミアンが叛逆者であると捉えられかねない。
だからここで彼女の居場所を聞けただけ、僥倖だった。彼女が隣国で暮らしているなら、藪をつついて蛇を出すことなどしない。
「そう、あとひとつ。最近気になることがあるんだけどさ」
軽い口調とは裏腹に、ポールの瞳は鋭い。その視線を感じて、デイミアンは嫌な予感がする。
「国境近くの村々の空中にある魔力量が回復せず、そのまま減少を続けているんだよね。精霊がいれば、減少しても数時間あれば回復するけど、それがないんだ。つまり、国境近くにはもう精霊がいないと判断できると思うんだ。精霊は愛し子が好きだから、王都に集まっているのかな〜って思ったんだよね」
ポールの隣にいるミッチャドから息を呑む音が聞こえる。彼の判断は数値があれば、私でもそう考えるだろう。
「精霊の数が増えれば、魔力量は増える。そう思って、王都の魔力量も測り続けてもらったんだけど……確かに以前は増減を繰り返していたんだけどさ、今は毎日微々たる量ではあるけれど減少しているんだよね。おかしいと思わない?」
「た、確かに、王都に精霊が集まっているのなら、その分魔力量が増えるはずですよね。王都は魔道具も多いですから、増減はあると思いますが、右方上がりになってくのではないでしょうか」
「王都に集まってきた精霊が、その分どこかで消えている、ということか……?」
デイミアンはそう言ってポールに視線を送る。
「正直、僕もわからないね。そもそも精霊って消えるのかも知らないし。でも、何かが起こっていることだけは確かかな」
そう言って彼は肩を竦めた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回出てきたポールは、また出てくる予定です。ポールがいつの間にか重要人物になっていた……
明日も投稿予定です。よろしくお願いします!




