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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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7、その頃の王国 その1

「陛下、どうにか対応をお願い致します!」



 狭い謁見室には、青白い顔をした貴族数名と国王のヴィクターが居る。貴族が訴えているのは、魔道具についてである。以前、王宮にある魔道具を再度国境周辺の領地に販売したヴィクターだったが、その販売された魔道具が使えないと貴族たちから直談判を受けている最中だった。



「だから何度も言っておるが、魔道具は壊れていない!何度来ても答えは一緒だ」



 貴族たちは自身の領で使えなかった魔道具を数点持参していた。そしてこの謁見室で使えるかどうかを試した結果、使用する事ができたのだ。自身の領では使えなかったにもかかわらず。


 王宮で使えて領で使えない、普通であればその原因を調べる指示をするのが国王であろう。しかし、彼は愚かにも、貴族たちが嘘を吐いていると考え、彼らを叱責したのである。



「見損なったぞ、お前たち。お前たちの領から出る嘆願書に今後一切対応はしない。分かったな」



 それでも頼み込んでくる貴族たちを一瞥し、そう言い捨てて彼は席を立った。





 ヴィクターは疲れていた。先ほどの貴族たちの嘆願もそうだが、王国で加護を持つ人間が誘拐されているという事件がではじめたのだ。


 加護持ちは国を繁栄に導くための駒だ。無事に帰ってきた者もいるが、まだ誘拐されたままの者もいるらしく、騎士団の編成許可等の書類が以前に比べて大幅に増えているためだ。

 そして嘆願書にも賛辞の声が少なくなった分、要望が多くなり始めている。そのため、ヴィクターは面倒だと頭を抱えていた。最終的に宰相のデイミアンに丸投げするため、多忙なのはデイミアンなのだが……。

 


「父上、お疲れのようで」



 謁見室から出、廊下を歩いているとハリソンと婚約者であるミラが共に彼の元に現れた。ため息を吐いているヴィクターを見かけて、彼らはこちらに歩いてきたようだった。



「おお、ハリソンか。ミラ嬢も。今日はどうした?」

「ミラの王妃教育が終わったので、お茶でも飲もうかとミラを誘いまして。父上もいかがですか?」

「仕事も落ち着いているから問題ないだろうが……儂なんかがお邪魔しても良いのか?」

「勿論ですわ、御義父様!」



 ハリソンたち三人は、お茶のために中庭に向かう。中庭はいつも花が咲き乱れており、特にミラのお気に入りの場所だった。夏に咲くようにと綺麗に植え替えられた花は鮮やかで、庭師のセンスが光っている。


 そんな庭の花々を見ているミラの様子を見ていたヴィクターの目に入ってきたのは、彼女の髪に付けられていた髪飾りであった。

 一点ものなのだろうか、真ん中には赤い球型の宝石らしき石が埋め込まれている。そしてその左右には、花が一輪ずつ彫られており、その髪飾りに惹かれたヴィクターは思わず彼女に声をかけていた。

 

 

「ミラ嬢、髪飾りが似合っているな」

「ありがとうございます。これは代々家に伝わる髪飾りらしいですわ」



 聞くと、彼女は数年前に父と共にそれを見つけたらしい。見た目でそれを気に入った彼女は、たびたび身につけているのだとか。


 

「その彫りの花は、何という名前だったか……」

「父上、これはカサブランカですよ」

「おお、カサブランカか。確か花言葉は富と繁栄、祝福だったな」

「ええ、愛し子()に合った花言葉なので、気に入っていますの」


 

 確かに、愛し子はこの国に富と繁栄をもたらす存在だ。ヴィクターとしても、彼女のための花言葉なのではないかと思ったくらいだ。


 

「そこに彫られているカサブランカも華やかで美しいな。左右対称に彫られているのもまた……」



 味がある、と言おうとしてふと気づく。右に彫られた花は、左に彫られたものと比べて少し花の形が異なるのではないだろうか……と。

 言葉を詰まらせたヴィクターに、怪訝な顔をしたのはハリソンだった。



「父上、どうしましたか?」

「いや、左右の彫りが少し異なっているように見えたのだ。なに、気のせいだろう」



 そう言ってヴィクターは置かれていた紅茶を一口飲む。「気のせいですよ」とハリソンが言ったあと、彼から先程の話を切り出された。



「父上、話を変えますが……確か先程面会を申し出ていたのは、国境付近の貴族たちですよね。何か不都合でもありましたか?」

「ああ、以前彼らから魔道具が使えないと話が来ていただろう?」

「その後父上は対応されたはずですよね?王宮にあった魔道具を再度販売して解決したのでは無かったのですか?」

「それがだな。その魔道具も使えないと言う話でな」



 ヴィクターは一つため息をつき、背もたれに寄り掛かりながら話し始める。先程どんなやり取りをしたのか、そして彼らが持ってきた魔道具が使えたと言う事を。


 その話を聞いたハリソンは眉を顰めてこう答えた。



「お爺様の発明した魔道具が壊れているなんて……その貴族はよくもそんな嘘を言えますね。お爺様の魔道具は永久に壊れることのない素晴らしいモノであるはずです」

「ああ、その通りだ。実際ここでは使えたのだから問題はないと思われる」



 前国王キャメロンの魔道具にケチをつける貴族たちを貶しつつ、ヴィクターとハリソンは意見を交換する。交換すると言っても、結論はキャメロンの魔道具に間違いはない、だったが。


 ミラは彼らの会話に口を挟む事なく、笑顔で紅茶を飲んでいる。ハリソンに言わせれば、「奥ゆかしくて、次期王妃に相応しい」らしいが、実際は政治や魔道具などの話に興味がなく、彼らの話が理解できないためにいつも笑顔でいるだけなのだが。



「ミラが愛し子であるお陰で、この国の発展はこれからも続くはずです、父上。これからは私たちがこの国を導いていきますので、ご安心ください」

「ああ、ミラ嬢も息子を頼む」

「勿論です。一緒にこの国を支えていきますわ」



 その答えにヴィクターは満足したらしく、満面の笑みでミラを見ていた。心内では、もう少し若ければミラを正妃にしたのだが、と思っていることはハリソンもミラにも気づかれなかった。








「紅茶でございます」


「……置いたら出て行って。一人にして頂戴」



 ハリソンとヴィクターとのお茶会を終え、帰ってきたミラは侍女に紅茶とお菓子を持ってこさせた後、そう彼女に命じた。侍女は少し肩を震わせながら、「はい」と返事をした後すぐにミラの部屋から退出する。



「あー、疲れたわ。おっさんの愚痴なんて聞きたくないわよ」



 手にしている紅茶と、最高級品のお菓子を手に取りながら、パクパクと口に入れるミラ。その口からは咀嚼音か愚痴しか出てこない。現国王であるヴィクターが居たため、ハリソンとのお茶会よりも王宮で出されたお菓子に手を伸ばす事ができなかったのだ。それに通常であれば、お茶会で気に入ったお菓子はハリソンが手配して、お土産として持たせてくれるのだが、今回はそれもない。単に文句だけを聞くお茶会の辛い事辛い事。お茶会が終わる前の彼女の頬は、あまりにも作り笑顔を長時間維持していたため、頬の筋肉が痛かったくらいだった。



「なーにが息子を頼むよ。早くハリソンに王位を譲ればいいのに」



 ハリソンは現在十七歳。ヴィクターの元で国政に関わっている。だが関わると言っても、文官の仕事は報告書作成が主な仕事で判断は全て国王に委ねる形式になっているため、ハリソンも文官と共に報告書作成に関わっているはずなのだが……。ハリソンは次期国王だからと言って「次期国王の俺に資料作成をさせるのか?お前らがやれ」と言って何もせず、できた報告書をチェックするだけだった。しかも文章の言い回しがおかしい、などと細かいところを指摘しては、一から作り直させている。そのため、キャメロン時代に決められた文面や書式がハリソンによって変えられるので、文官も困惑している事をミラは知らない。


 しかも婚約を宣言してから何故まだ結婚式に至っていないかは、ミラの王妃教育が終わっていないからだ。そしてヴィクターがまだ王位を譲るつもりがない事も一因となっている。


 

「早く盛大な結婚式を挙げて、贅沢な暮らしをしたいわね」



 今でも愛し子として讃えられているため、月に一度以上はハリソンから宝石やらドレスやら贈り物が届いているし、公爵もミラを溺愛しているため、何でも買い与えている状態だった。


 けれどそれだけでは満足できないらしい。彼女にとっては、王妃になる事が贅沢な生活を送るための手段であり、贅沢が目的になっているのだった。それに王妃になれば注目度が増す。国民が貴族が彼女を称える生活はミラにとって喉から手がでるほど欲しいモノだった。



「精霊の愛し子なのだから、国で一番目立って幸せでなくてはならないわ」



 そう、ミラは自分が精霊の愛し子であると確信していた。昔から父親や使用人には見えない光の球が見えたし、その光の球はいつもミラの周りを漂っていたのだ。父に聞けば「ミラは精霊の愛し子だ」と言われるので、彼女は「私こそが選ばれた存在である」と思っていた。




「あいつからハリソンを奪えて良かったわ。能無しの姉だったけれど、ハリソンの婚約者だったところは感謝ね。お陰で簡単に王妃の座を手に入れる事ができたし……これから幸せな人生が待っているわ」




 ニンマリと笑うミラ。その笑みは誰も見てはいなかったが、側から見ればとても醜悪なものだった。王宮から出ず王妃としての生活を頭の中で描いているミラは気づかない。今までよく見かけていた大きな光の球がいないことに。

 

 もう私の邪魔をする者はいない、そう考えているミラには眩い未来が映し出されていた。

花言葉について


カサブランカ

*ピンクカサブランカの花言葉(富と繁栄)、カサブランカ全般では祝福の花言葉があります。カサブランカは他にも花言葉はありますが、今回は上記の花言葉を利用します。


と書きましたが、実際ピンクのカサブランカは無いようです。白以外のカサブランカは、違う花の種類なのだそう。カサブランカが人気なので名前は違うけれどカサブランカに似ている花をカサブランカと名づけたと……。少しややこしいですね。



 最初に参考にしたhttps://greensnap.jp/article/7969というサイトには、ピンクのカサブランカの花言葉として、富と繁栄が書かれていたので、引き続きこちらを利用させていただきます。



いつもありがとうございます!

 この第45部は以前の内容から加筆して投稿しておりますが、明日明後日投稿予定の話は、今回改めて執筆したものとなっております。

 混沌とする王国の様子を見ていただけると嬉しいです。


明日も引き続き投稿します。よろしくお願いします。

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