1、不穏な空気 その1
それはアレクシアの発案した魔石を利用したアクセサリーを二人に渡してから三ヶ月ほど経った頃だった。
「精霊崇拝派が、動き出した可能性がある……ですか?」
ルイゾンに呼び出されたリネットは、そう言われた瞬間眉間に皺を寄せる。
精霊崇拝派とは、文字通り「精霊を崇拝する」団体のこと。
彼ら曰く……精霊は崇拝する対象であり、精霊の力を利用し使役するなど、以ての外である、という主張だ。
簡単に言えば、彼らは「精霊の加護」を得る人間や、魔道具や魔石を使用する人間を敵対視している、選民思想を振り翳す過激派集団と見られている。
「彼らは精霊から選ばれた存在」とされ、精霊から選ばれた存在は「精霊の加護」を受ける事ができ、「魔石」も精霊に選ばれた存在であるからこそ施しとして使用できるのであり、選ばれていない者は加護を受ける事や魔石の使用禁止を主張している排他的思想が強いのである。
ただ、例えば彼らが人里離れたところで、精霊を崇拝しながら静かに暮らしていたとするならば、ここまでルイゾンも敵視することはないのだが……。
彼らは魔石屋や魔石を利用する魔道具屋を排除するために、共和国や王国、帝国に度々出没していたり、加護持ちの人間を誘拐して魔石を作らせたりと、とにかく過激な団体なのだ。
その上、下っ端を捕まえても彼らがどこに拠点を置くのか、誰が仲間なのか等、全く分からなかった。全容が掴めていないのだ。
ちなみに以前、彼女がギルドで巻き込まれた件は、実はこの精霊崇拝派の仕業とされている。
捕まえた男も、「精霊崇拝派の新人」と言うだけで、それ以外の情報は全くと言って良いほど引き出せず。
辛うじてアジトとして使っていた家の場所を知る事ができたのだが、そこは仮拠点だったのか既に引き払っていたらしく、全ての痕跡が消されていたため、そこで手詰まりになっていた。
「そうだ、少々きな臭いと報告があった。王国の加護持ちの人間が、数人行方不明になったらしい」
リネットはその言葉に息を呑む。
「以前、シアさんにやり込められてから大人しくなったとは思っていましたが……」
「あやつらの動きは正直読めないから、本当に困る」
彼はいつも以上に真剣だ。彼に仕える人間の中にも加護持ちが何人もいる。
彼らは自己防衛に長けているのでそこまで心配することはないだろうが……。
「誘拐された者たちは帰ってきたのですか?」
「ああ、何人かは街の外に放置されていたらしい……だが、誘拐されていた時の記憶はない」
「忘却の魔道具、でしょうか」
「だろうな」
彼らがそんな簡単に証拠など残すはずがない。だから、何かしら証拠隠滅をされていると思ったが、予想通りだった。
だが、ひとつだけ腑に落ちない点がある。
「しかし、何故今なのでしょうか」
「小石が注目を浴びているからだろう。一度ノルサと提携している装飾屋に泥棒が侵入したらしい。その泥棒は、他の高価な装飾品には目もくれず、魔石の使われているそれだけを手に入れようと、防御結界魔法を破ろうとしたようだ。装飾品として多くの者の手に魔石が広まっていくのが、精霊崇拝派にとって面白くなかったのだろう」
「……しかしルイゾン様。よくそれだけで精霊崇拝派と分かりましたね」
「報告で、捕まえた男が持っていた煙玉と似たような魔力を検出した、と聞いたからな」
だから最近、ダドリーさんの鍛冶屋に魔道具を提供したのか。
これで彼らの商品は問題ない、と思われるが……目下、ルイゾンの一番の悩みの種は彼女だろう。
「……ルイゾン様。精霊崇拝派が動いたということは、危険なのでは?」
「そうだな。彼女が狙われる可能性は高い。そこで君を呼んだのさ。彼女にこの件を伝えてもらって、街の外に出る場合は、警備隊もしくはライナスのような金級冒険者と共にいるようにと、念押ししてほしい」
「承知し――「ルイゾン様!」」
扉から現れたのは、バズだ。どんなにお調子者でも礼儀はきちんとする彼に、リネットは疑問を投げかける。
「どうした?バズ」
「今しがた伝言が届きまして、シアさんが不審者に襲われたとのことです!!」
「何!?彼女は無事なのか?」
「は、はい!ライナス様とシアさんの知り合いが助けに入ったそうです。今、ライナス様とともに不審者を拘束してこちらに向かっている最中とのことです。こちらからは、応援を送りました!」
リネットは彼女が無事である事に安堵する。そしてふと疑問に思った。彼女の知り合い……ロゼットやシモーネのことだろうか、と。
ルイゾンも彼女が無事で安堵したのか、息を吐く。そして考え事に耽っていたリネットに指示をした。
「リネット、では二人とその協力者の方をここまで連れてきて貰えるか?丁重にな」
「はっ」
その指示を受けたリネットはすぐに思考を切り替え、バズと共に彼らの元へ向かった。
いつもありがとうございます。
この章は幕間 王国編が以前より多くなると思います。
以前、あまり書かれていなかった部分も記載するため、少々この章も長くなるかもしれませんが、ぜひお付き合いくださいませ!
このまま毎日更新で最終話まで執筆できるよう、頑張ります。
*ちなみに混乱するかもしれないので、先に言っておくと、ライの本名がライナスです。
彼のことは数話後になったら分かると思います。




