表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第二章 ブレア領

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/80

幕間 その頃の王国

「……やられた。あの糞狸、それでも親か?!」


 

 アフェクシオン王国の中心、ニンフェ城の一室。この国の宰相こと、デイミアン・ガースン侯爵は机を力任せに叩いた後、頭を抱える。


 彼は王国に忠誠を誓い、精霊と人間がこのままより良く暮らせるよう尽力してきた人間だ。そんな彼を尊敬し、彼に付いてきている者は宰相派と呼ばれている。


 だが、国に忠誠を誓う宰相派は全体の1割ほどしかいない。

 残念ながら、6割は甘い汁を吸おうと寄生する国王派(ベルブルグ公爵派とも言う)であり、国王へ自身に有利な話を直接持ってきては、王家の承認印を強請ろうとする貴族が多いのだ。

 ちなみにあとの3割は領地を治めている地方貴族が多く、これといった派閥はない。


 この件に関しては宰相派の努力により、私利私欲に塗れた内容へ調印させることは無かったのだが……。



 今回、アレクシアとの婚約白紙、そしてミラとの婚約については、王家と公爵家の事であるからと暗に「関わるな」と改めて命じられたのである。

 そもそもアレクシアの件については、王家(キャメロン)預かりとして元々関わる事ができなかったのだが。

 

 そして彼はもどかしい思いを消化できないまま、お披露目の準備と通常業務をこなしていたのだ。

 

 普段なら口を出さない陛下や、ハリソン、そして婚約者のミラまでもが、彼の執務室に来て「あーしろこーしろ」と話を持ってくるのだが、その内容が現実的ではないものが多い上、説明しても延々と同じことを繰り返すのだ。

 たださえ忙殺されている彼の時間を、彼らは奪っていく。



 そんなお披露目も無事に終わるかと思ったその時、ふとアレクシアが出席していないことに気づく。そこで彼はパーティが終わった後、気分の良さそうな国王の元へ行くと、彼女は国外追放になっていると聞いたのだ。



 デイミアンはキャメロン(前国王)がいずれ彼女とハリソンの婚約を解消し、それぞれ適正な婚約者を宛てがうことを理解していた人物の一人だ。

 だから、お披露目が落ち着いた今、アレクシアに新しい婚約者を……と思っていたのだが、その言葉に慌ててミラとの婚約の書面を確認すると……。


 

「ミラ嬢と殿下の婚約書類に、アレクシア嬢の国外追放の件を書き込むとは……どこまで陰湿なんだ。しかも、国王陛下に私が関わらないよう依頼するなど」



 一杯食わされたのだ。いや、その可能性も考えられなかった自分が愚かだった。

 業務が手一杯で……は言い訳だ。

 調印後、すぐに婚約書類を確認すれば、彼女を保護できたかもしれない、と悔やんでも悔やみきれない。



「どうなさいますか、宰相様」

「……近々、国境付近の村へ聞き取りに向かわせる。その時ウェルスの街の衛兵に確認させよう。彼女は王都から近い共和国へ向かった可能性が高いだろう」



 以前国王に報告した魔物の目撃情報の件だ。あの後も目撃情報が時々こちらに上がってくるのだ。

 初めは「見間違い」の可能性も考慮していた。王国の人間はあまり魔物を見た事がないからだ。


 だが、目撃情報には冒険者や共和国の商人の名前が上がっていた。特に冒険者はダンジョンなどで魔物と戦っているのだ。彼らが見間違えるだろうか。


 人や作物等に被害はなかったとしても、確認を取る必要がある。事前に被害を防ぐためにも、だ。


 その時に彼女の安否が分かれば良いのだが……と考えていたデイミアンだったが、文官の次の言葉で思考が停止する。

 

 

「それだったら良いのですが……公爵代理が笑いながら話しておりました……『あの娘には()()()()しか投げつけていない。どこかでくたばっているのではないか』と」

「……なんだと?」



 銅貨一枚では宿へ泊まることもままならない。

 どうして実の娘をそこまで苦しめる事ができるのか、彼にはわからない。



「そこに丁度ミラ嬢もおりまして……彼女も公爵代理と同じように……この世のものとは思えないほど醜い笑顔で……笑っておりました」

「学園に居た頃は、実の娘を捨てるような男には見えなかったが……何が原因でここまで歪んだのだ?」


 その言葉に答えられる者は、この場所には居るはずもない。



 

 その上、悪いことは重なる。


 彼が文官を派遣する前に、国境を領地にもつ地方貴族から「魔道具の不具合について」の報告が上がり始めたのだ。流石に看過できない事態である。

 そのため、通常であれば文官を派遣する宰相も、今回ばかりは自らヴィクター(国王陛下)の元に訪れたのだ。



 普段の文官ではなく、宰相が来たことにヴィクターは驚きを隠せなかったのか、食べようとしていたチーズが皿にぽろりと落ちた。

 彼はその様子を気にすることなく、単刀直入に話を切り出す。


 

「陛下。国境近くの貴族から、『キャメロン様が開発した魔道具の動きに不調あり』との報告がございますが、如何致しますか?」

「なんだと?魔道具がか?」

「はい。全く使用できないという訳ではありませんが、魔法の発動しない時があるそうです。特にフリッジ(冷蔵庫)につきましては、保冷機能が停止するため中の物が腐敗していることもあるそうです。そのため、嘆願書では貴族や民衆からも改善を求める声が報告されています」



 それが一台ならその魔道具の不調で済ませることができるのだが、嘆願書を見る限り、それが村や街単位で現れている。これは調査案件だと思うのだが、ヴィクターは乗り気ではないらしい。


 

「それは、その者共の使い方が悪いのではないか?」

「嘆願書の提出者たちはその可能性も考えて調査をおこなったようなのですが、使い方に問題はないとの判断でした」

「そうか、それでは何故このような事が起こっているか、製作者に尋ねればよかろう」



 不調が報告されている魔道具は、キャメロン(前国王)時代に開発された物だ。だからヴィクターが製作者に任せれば良い、と考えたのは正しいことだろう。


 しかしながら、もうそれはできないのだ。




「恐れながら陛下。製作における第一人者はこの城を去っております」

「なんだと?」


 

 そもそも何故その事を貴方が知らないのか、と小一時間ほど宰相は問い詰めたくなったが、グッと堪えた。

 

 キャメロン時代に活躍した魔道具製作者――彼の名をポールと言うのだが、彼は魔道具に対する知識と製作手腕をキャメロンに認められた魔道具開発の責任者だった。とにかく魔道具に関係する事ならなんでも知りたがり、口を開けば魔道具のことしか出てこない奇人変人と影では呼ばれていた。


 キャメロンがいつ彼を見染めたのか、息子であるヴィクターすら実は知らない。

 むしろ彼がポールという魔道具師の存在を知ったのは、新型魔道具が父キャメロンによって発表されたときだったからだ。



 最初、そんな怪しげな彼の生み出す魔道具を見た貴族は、使うのをためらった。

 それはそうだろう。得体の知れない人物の作った魔道具なんて、何が起こるか分からないからだ。

 それを見たキャメロンは最初にポールの製作した魔道具を使用してみせると、こう言い放った。



「こんな便利なものを、お前たちは使わないのか?」



 ポールの魔道具の素晴らしさを理解していたのは、その場ではキャメロンと宰相派の人間だけであった。


 旧式と呼ばれる魔道具は魔物から取れる魔石に内蔵させた魔力を利用し、魔石の魔力が切れたら新しい魔石に交換するのが通常だ。


 だが、ポールの製作した魔道具は、周辺に漂う魔力を利用する方式の魔道具だった。つまり、周囲の魔力がなくならない限り、買い換える必要もなく永久に使用できるのだ。その上、魔石分の値段もかからないので、魔石を利用している魔道具よりも安く購入できる。


 そう聞いてメリットを感じていた貴族たちにさらに声を掛けたのは、ポールだった。



「王国は周辺国に比べて、周囲に漂っている魔力量が多いのです。そのため、私が製作した魔道具の利用が可能です。残念な事に、この魔道具は魔力量の少ない他国では使えませんが」

「そうだ。この国で使える特別な魔道具と言う事だ。どうだ、素晴らしいだろう?」



 キャメロンの威圧半分、道具の素晴らしさ半分もあり、その後は貴族の間で彼の魔道具が流行っていった。

 そしてポールが()()()()()()誰でも作ることのできる簡易魔道具を作り出すと、いち早くそれに気づいたキャメロンが魔道具製作者を増やし、民間まで広がるように大量生産を始めたのだ。その魔道具は民衆の間でも今や無くてはならないものとなっている。



 そんな彼がこの城から去った理由――実はポールはキャメロン専属の魔道具研究家として直接雇用契約を結んでいた。

 そのためキャメロンが亡くなった際、雇用契約は終わったと今までの報酬と、幾ばくかの研究道具を持ってこの城からいつの間にか去っていたようだ。


 そして彼が居なくなると、魔道具の生産が止まった。彼が作り出した全ての魔道具は、彼でないと作れない過程があったからである。それもあり、数ヶ月後には魔道具の生産のために呼ばれた人々は解雇されて皆街に戻っていた。


 

「なら壊れている可能性もあるだろう。王城に残っている魔道具を売り付ければ問題あるまい」

「……それでも使えなかった場合はどうされましょう?」

「そんな事はあるまい。現に王城の周囲の村ではそのような話が出てはいないだろう。……使えないと言うのも、向こうの嘘かもしれん。売り付ければこちらの収入にもなるからな」

「……承知いたしました」



 流石に「嘘の報告」を国王にする貴族などいるはずがない……という反論を飲み込み、了承の意を示す。

 

 その後、宰相は報告のあった場所に向けて王城にあった残りの魔道具が売り出されるよう手配した。

 最初は国王の素早い対応に喜んで購入した国境付近の貴族たちだったが、その魔道具を使った瞬間それは一変する。新しく購入した魔道具も使用できなかったのだ。


 勿論、宰相はこの事も報告に上げたのだが、ヴィクターの返事は頑なだった。



「王城では使えるんだ。使えない筈なかろう」



 このヴィクターの判断が、今後のアフェクシオン王国に暗い影を落とすなど、彼は気づかなかったのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。


やっとここまで辿り着けました……前作「私、興味がないので」の17話部分になります。

この幕間は加筆と修正を入れておりますが、前作17話部分をベースにしているので、「あれ?」と思った方もいらっしゃるかもしれません……いるかな?


明日から新章(予定では最終章)に入ります。

書き終えていないので、何話になるかは分かりませんが、のんびりと楽しんでいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ