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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第二章 ブレア領

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19、小石の活用方法 後編

 後半『 僕はシアさんの店を後にする。』より、サラ視点が入ります。


 1週間後、トビー君からの伝言で私はホリーさんの元を訪れた。


「シアさん、お待ちしておりました。こちら、頼まれていた商品です。まずは髪飾りを」

「ありがとうございます!」


 手元に渡された作品を見ると、想像以上に美しく彫られた髪飾りだ。

 彫られている絵柄は「ディリア」であり、花言葉は感謝、華麗、優雅。王国にある王宮でよく育てられていた花である。

 私からすれば、王国よりもリネットさんの方が似合うと思ったからだ。


「わあ、綺麗に仕上げていただき、ありがとうございます」

「ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ。それと、こっちが腕輪ね」



 ライさんに渡す腕輪は彫りを施していないシンプルなものだ。魔石を入れるために3つほど穴が開いているだけ。

 ちなみに穴は、小石2つぶんの穴と中石1つ分の穴を開けてもらった。


「じゃあ、お代は2つで銀貨15枚ね」

「はい、本当にありがとうございました」



 あとは私の仕事である。



 ホリーさんと贈り物の相談をしていた時、彼女から教えてもらった事がある。


 以前ノルサさんから、「基本魔石は鍛冶屋で付け替えるもの」と言われていたが、それは土属性の適性がない人の場合らしい。

 魔石や武器は鉱石、つまり土属性。そのため、固定させるには土魔法を使うのだそう。


 ホリーさんとダドリーさんは勿論魔法を使えるのだが、あまり魔力量が多くないため、基本的に土属性魔法が使えている人には教えているのだとか。

 その人たちの中でも、使える人と使えない人がいるらしい。意外と高度な魔法なのだろう。


 グノー曰く。


『……両者とも鉱石とはいえ、素材が違うものを合わせるのには高度な技術と魔力を要するのだ』


 とのこと。なんとなく理解ができる。


 

 家に帰ると、私は魔力を込めていた魔石を手に取り、リネットさんとライさん用の贈り物にそれぞれ魔法ではめ込んだ。リネットさんの魔石は中石が防御結界魔法、小石2つを治癒魔法にしておく。

 ライさんは中石が治癒魔法、小石2つを防御結界魔法にしておいた。


 ホリーさんから教えてもらった魔法も問題なく使う事ができ、二人への贈り物が完成したところで、休憩の看板を掲げていたはずの扉が開く音がする。


 そして「シアちゃ〜ん!」と呼ぶ、サラさんの声も。私はカウンターから顔を出す。



「こんにちは、サラさん」

「シアちゃん、こんにちは〜ノルサからの依頼分を持ってきたよ!」

「今回も風の魔石でよろしいですか?」

「あと水の魔石もお願いできたりするかな?」

「もちろん、良いですよ!」

 

 

 最近は訓練のために魔石に魔力を込める以外していない。幼い頃から魔力を込めた魔石はまだ随分ある事もそうだが、なんだかんだ毎日10個ほど魔石に魔力を込めているので、案外減らないのだ。


 今日はまだそこまで魔力を使用していないので、依頼の半分ほどに魔力を込める事ができそうだ。

 


「まだ時間もありますので、いくつか魔力を込めてしまいますね」

「ええ?!良いの?休憩時間でしょ?!」

「大丈夫ですよ。今日は魔力をほぼ使っていないので」

「ならお願いしようかな」

「はい、任せてくださいね」


 

 そう言って私は、サラさんに紅茶とお茶請けを出したあと魔石に風の魔力を込め始めたのだった。




「ねえ、シアちゃん。これ、腕輪と髪飾り?」


 

 ある程度、魔石に魔力を込めたので一息ついた頃、サラさんはカウンターに出しっぱなしだった二人への贈り物を見ている。



「ええ。贈答用に作ってみましたの」

「これ、見間違いじゃなきゃ、両側についている石は魔石の小石だよね?」

「そうなんです。試してみたら魔力を込める事ができたので、作ってみました」



 その言葉にサラさんは驚いたのか、覗き込むようにこちらを見ていたが、再度アクセサリーに視線を送る。



「小石に魔力を込めるって大変じゃなかった?僕一度もやった事がないんだよね〜」

「最初は割ってしまいましたが、何度か練習したらできるようになりましたよ」

「……僕もできるかな?」

「でしたら、小石が幾つかあるのでやってみませんか?」



 サラさんは首を縦に振り、小石を受け取った。そして魔力を込め始める。


 小石に関しては、精霊との関係が深いほど成功する確率が高いとエアルから聞いた。精霊と仲が良ければ良いほど、精霊は人間に力を貸そうと協力するようになるからだ。


 サラさんは2回小石を割ってしまったが、それ以降は安定して小石にも魔力を込める事ができるようになった。絆が深い証拠である。

 サラさんは満面の笑みを私に向けた。


 

「やった!僕にもできた!これ、ノルサに自慢しておこっと」

「おめでとうございます!」

「ありがとう!あ、その腕輪に付いている魔石は、シアさんが魔力を込めたんだよね?」

「ええ、そうですわ」


 

 そう聞いたサラさんは、考え込んでいる。沈黙の時間が少し続いたあと、彼女は顔を上げた。

 

 

「ちなみに小石は魔法を発動させる事ができるの?」

「そうですね。いくつか試してみましたが、小石一個に対し治癒魔法だと2回でしたの。なので、冒険者に売るのではなく、護身用として手軽に身につけられないかと考えて作ってみたのですわ」

「なるほど〜。盲点だったね」

 


 真剣な目で私を見つめるサラさん。そして声を落として私に話し始めた。

 

 

「ねえ、これ、もしかして後々販売しようと思ってる?」



 そう言われたので、首を縦に振れば、サラさんはニコッと笑う。

 


「僕らも一枚噛ませてくれない?」



 何度か瞬きをして、彼女を見つめたのだった。


 

**



 僕はシアさんの店を後にする。


 今回の小石魔石の件は、まだ売り出さないでくれ、と彼女にお願いした。シアさんは首を傾げながらも了承してくれたが、これには理由があるのだ。

 


 最近アフェクシオン王国がきな臭い。いや、正確に言えばベルブルク公爵家が、だ。


 ちなみに王宮に潜入している仲間によると、お披露目が終わり、手の落ち着いた宰相が彼女の安否を確認しようとしているそうだ。彼は王国の貴族の中で唯一の良心だと諜報員内では言われている。

 だが、その恩恵は彼女には届いていなかった。それは公爵代理がそう国王に進言していたからだ。


 彼女は「王家預かり」として現国王が指示したため、宰相が直接関与する事ができなかった。だから年々彼女の待遇が悪くなっていったと聞いている。

 

 宰相にとっても辛かっただろう。助けられるはずの地位にいる自分が、手をこまねいているだけしかできなかったなんて。

 そろそろ宰相も限界に近いのだろう、あの方に書簡を送っているようだ。

 


 それよりも、ベルブルク公爵家が不審な件だ。


 最近公爵代理が、ある場所に足を運んでいる。それが裏ギルドと呼ばれるところだ。


 裏ギルドは金さえ払えば何でも引き受ける、言わば裏社会の何でも屋である。

 そこへ足を運んだと言うことは、公爵代理は表ではできない事を依頼したのだ。


 

 教えてくれた同僚が言うには、公爵代理は彼女が国内でへたばっていると考えているらしい。

 依頼は国内でだされていたからだ。

 それはそうか。()()()()では、宿も泊まれない。彼女を過小評価している公爵代理であれば、国内でまだモタモタしているだろうと考えてもおかしくはない。


 亡くなっていれば御の字、国内にいれば国王の命令に逆らったと言って、彼女を私刑にしているだろう。

 そして何食わぬ顔で、『娘は亡くなりました』と国に報告する……僕ら共和国の諜報員から実の娘に手を掛ける男だ、という認識を受けているのだ。それくらいする可能性があると思っている。


 彼は国内での依頼なので、まあそこまで心配することはないだろうが……国外に依頼を始めたら要注意だ。


 そもそも彼女は銅貨一枚でどうやって共和国まで来たのだろうか。

 僕にはそれが不思議で堪らないのだけど、今はそこが重要ではない。

 

 ここで共和国の「シア」が出てきたらどうなるか。


 彼女が共和国にいる事がバレてしまうかもしれない。念には念を入れたほうがいいと感じた。


 だからこの件はノルサに報告をしなければならない、そう思って僕は旅路を急いでいる。

 

 

 ……まあ、以上が理由の1つだ。


 正直に言えば、魔石のアクセサリーが王国の貴族に売れれば、僕はもっと仕事をし易くなる。

 それを大分期待していて、彼女に協力を申し込んだことは心にしまっておこう。

 

ディリア:ダリアのことです。

ちなみに『感謝、華麗、優雅』は白いダリアの花言葉です。

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