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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第二章 ブレア領

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17、小石の活用方法 前編

 数日後の休日、私は以前モーガスさんから話を聞いていた魔石を受け取るためにギルドに足を運んでいた。

 ライさんやリネットさんは数個残して全てギルドに売り払う手続きを取ったらしいが、私は店の商品として使うので魔石をそのまま受け取るつもりだ。


 ギルドの窓口を訪れると、そこにはエミリーさんが座っていた。


「あら、こんにちは。シアさん」

「エミリーさんこんにちは。こちらにいらっしゃるのは珍しいですね」


 彼女はいつもギルド内を歩き回るか、席で書類と格闘しているイメージが強いのだ。ちなみに窓口はネルさんのイメージが強い。


「今日はネルが休みなのよ。だから代わりに私が窓口担当になっているわ。ところで、シアさんは今日も依頼を受けるのかしら?」

「いえ、今日は魔石の件です」


 そう言えば何のことか、即座に理解したらしい。

 

「ああ、あの件ね。ここでは何だから、部屋を借りて話しましょう。少し待っていてね」


 私がかかわっていることを知っているのはギルド長とエミリーさんだけらしい。

 

 ちなみに私が倒れたのはアーベに応戦した際、魔力の使い過ぎで倒れたからというのは、変わらない。

 そう言っておけば、相手が勝手に想像してくれる筈だ。まさか状態異常回復魔法を数千匹にかけたとは思うまい。

 

 エミリーさんはすぐ部屋を用意してくれて、私も案内された部屋に入る。

 ソファーに座ると、机の上に紅茶が置かれた。いつ準備したのだろうか……手際が良い。


「魔石の件だけれど、受け取りは一括と分割の2つがあるわ」

「分割……ですか?」

「ええ。流石に千個以上だと、持っていくのも大変だろうし、家に置いておく場所も無いだろうから。その場合、ギルドが預かっておく事もあるのよ。まあ、滅多に無いけどね」


 そこは融通を利かせてくれるらしい。ありがたい事だったが、実はその問題は既に解決している。


「大丈夫です。家に倉庫のような場所もありますし、そこに入れておこうと思っています」


 そう、以前家を隈なく探索していたところ、地下倉庫のようなものがあったのだ。以前の人もそこに魔石を保管していたのだろう。


「だけど、持っていくのは大変でしょう?」

「それも問題ありませんわ」


 手元には以前旅立つ時に持っていたトランクが。これがあれば、魔石も手軽に持ち運べるのだ。


「なるほどね、そこのトランクのことは……私しか知らなそうね。なら問題ないわ」


 そう言うと、既に用意してあったのか魔石袋が入った箱を机の上に乗せてくれた。


「これがシアさん分の魔石よ。ちなみにこれは中石だけね。大石はあっち」

「……多いですね」

「トランクの容量は大丈夫かしら?」

「ええ、大丈夫です」


 私はどんどんトランクの中に放り込んでいく。このトランクに使われている空間魔法は魔法陣を利用したものであるが、最初に描いたときの魔法陣の魔力量により容量が決まるらしい。


 このトランクは、母が亡くなりミラの横暴が酷くなった頃、隠していたお金を爺にありったけ渡して購入してもらったものである。

 相当魔力のある人が描いたのだろうか、このトランクが満杯になったのを見た事がないのだ。


 ちなみにこの間昇級試験に持っていった掛け鞄も魔法陣を描いて、容量を大きくしている。それは図書館で魔法陣の本を探し、自分で描いたのだが、そこそこの容量になっているようだ。


 なので最悪、倉庫に入らなければ自分で作れば良い。それにこのトランクは今のところ使う予定がないので、ここに入れておくと言う手もあるだろう。


 全て魔石を入れ終わった後、お礼を伝えて出ていこうとする私に、エミリーさんは声をかけた。


「ちなみにシアさんはクズ石って知っているかしら?」

「はい。小さすぎて用途がない魔石の事だと聞きました」

「そのクズ石も一応あの箱分だけあるのだけど、いる?要らないならギルドで処分するわ」


 そう言ってエミリーさんが指した箱は、中石や大石の魔石袋が入っていた箱の半分ほどの大きさだった。

 ゴブリン討伐でも昇級試験の2階層でも小石(しょうせき)を手に入れていたが、まだ手にとってちゃんと見ていないことに気づく。


「折角なので、貰っても宜しいですか?」

「ええ。もし処分に困ったら、ギルドで引き受けているから持ってきてね」

「ありがとうございます」


 こうして私は全ての魔石を受け取り、ギルドを後にしたのだった。




「小石は使えないから処分するって、勿体無いわよね……」


 手元にあるのは、小石である。ガラス玉のように透き通っていて、光を通すと綺麗なのだ。

 ただ小石の大きさは小指の爪より小さいものなので、魔力を入れようとすると割れてしまうらしい。そのためクズ石と呼ばれている。


 ――本当に割れてしまうのか、ちょっと試してみようかしら。

 

 そう思った私は、いつものように魔力を込める。ちなみに込めたのは水の魔力だ。


「あら、思った以上にすんなり入るのね」


 思わず声を出してしまったほど、小石にも魔力が溜まっていく。そして中石の半分の魔力量も入らないうちにピシッと石が割れるような音がした。


 手にとってみると、やはり小石が割れている。


 これで何となく理解した。

 小石は魔力が込められないわけでない。熟練の繊細な調整が必要であるため、それが出来ない魔石師は割ってしまうのだ。


 そう考えると、労力の割に魔力含有量が少ないため、魔石師の仕事としては割に合わないのだろう。

 

 再度魔石に魔力を込めていく。そして割れる一歩手前で魔力供給をやめ、そのまま魔法陣を描いた。

 小石に魔力を流すと、きちんと治癒魔法が起動する。そしてそれが終わった後、再度魔力を流すと、もう一度治癒魔法が起動した。


 限度は2回らしい。だったら冒険者は中石か大石を購入するだろう。



「ねえ、皆。聞いてもいいかしら?」

『なあに?』


 答えたのはエアルだった。彼女は口の周りに食べかすをつけ、手には先程購入したマドレーヌの欠片が握られている。

 他の精霊さん達はお菓子が入っているのか、もぐもぐと口を動かしながらこっちを見ていた。


「この小さい魔石にもう少し魔力を込めることはできないかしら?」

『魔力の含有量を多くしたいって事?』

「そう」

『……それは難しい』


 返事をくれたのは、グノーだった。魔石も鉱石の一部なので、エアル曰くグノーの方が詳しいらしい。


『……いや、正確に言えばできなくないが、過程が面倒だ』


 グノー曰く、小さい魔石の含有量自体は変える事ができないそうだ。もし小さい魔石の含有量を増やすのなら、作り替えればいい。小さい魔石を割って粉々に砕いた後、精霊の力で大きい魔石に成形すれば可能だという事だ。


『ひえええ〜、それってもう小さい魔石じゃないねぇ〜』

『……そうだ、その通りだ。それにこれが出来るのは伯爵位以上の精霊達だけだろうな』

「そうね、出来る人が限られるわ」

『むしろ、可能なのはシアだけでしょうね』


 いつの間にか食べ終わったらしい、ディーネとウルも話を聞いていた。


『なあ、主人。そもそも小さい魔石をどうしたいんだ?人間はその魔石を捨てるんだろ?』

「そうらしいわね。でも折角魔力が込められるのだから、販売できればいいのにと思ったのよ」


 

 ウルは私の言葉に納得できなかったのか、首を傾げて『ふーん、主人は物好きだな』と呟いた。


 

『でもでも〜、ディーネは売るのいいと思う〜!だって、こんなに綺麗なんだよぉ〜?』

『ディーネの言う通りね。魔石は綺麗だもの』


 確かに2人の言う通り、魔石は綺麗だ。特に魔石の中に魔力が入っているとき。


 中石と大石は魔力を込めると、中心が色濃く、外側にいくにつれて透明に近くなり、グラデーションが綺麗なのだ。それに比べて小石は小さいからか、外側と内側のグラデーションがそこまでなく、外側にも魔力の色がついているように見え――

 

「思いついたわ!」

『シア、どうしたの〜?』

『……驚きました』


 私が大声を上げたからだろう。驚いた精霊さん達が目を丸くしてこちらを見ていた。


「冒険者に売ろうとするから、売れないのかもしれないわ。小石を宝石に見立てて、アクセサリーとして売ったらどうかしら。いざという時に身を守れるよう魔法陣も込めておけば、2回は使えるし……いい案かもしれないわ!」


 小石はそもそも魔石として価値がないと言われている。それなら、アクセサリー代金に少しだけ魔力分を上乗せするだけで、護身用として使えるアクセサリーができるのだ。

 

 以前ライさんが、「すぐに使わない魔石は首にかけている」という話をしていたのを思い出す。

 冒険者以外の人たちは、魔石と言えば生活用魔道具のための物だと思っている。アクセサリーとして使うことなど思いつきもしないだろう。

 

 売れるかどうかは置いておいて、作ってみる価値はありそうだ。


「折角だから、作ってみましょう。精霊さん達も協力してもらえるかしら?」

『もっちろん!』


 楽しそうに笑う精霊さんと私だが、これがノルサさん達を巻き込んでいくことになるとは、このとき思わなかった。

 


 いつも読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字指摘も助かります。

明日も投稿予定なので、お楽しみに!

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