13、昇級試験 後編
*討伐の描写があります。苦手な方はご注意ください。
私が使える魔法の中で、一回の発動数が一番多い土塊。三桁までは出す事ができないが、精霊の力を借りれば、それに近い数を出す事ができる。
手前には驚いた顔のライさんとリネットさんがいる。
それはそうだろう。私が「土の精霊」の力を借りたのだから。そして私の前には数十個もの土塊が。
そのひとつに触れている土の精霊さんに、私は問いかける。
「全て当てたいの。手伝ってくれるかしら?」
彼は親指を突き立てている。先程のライさんのポーズが気に入ったのだろうか。とても似合っている。
「ええ、宜しくね」
そう伝えれば、すでにアーべは射程内に入っていたため、私は空中に浮いている土塊を一斉に発射した。
最初の魔法を発動してから数分後。
私の攻撃は全てアーベに当たったが、それでも減らせた数は全体の10分の1にもならない。そのため、既に十数体のアーべが前衛の2人を囲んでいた。
ライさんとリネットさんはお互い背を合わせ、死角がないように戦っている。ライさんは火魔法が得意なのだろう、双剣に火を纏わせている。少しでも魔法に当たればアーベが燃え上がり、焼けて息絶える仕組みになっているように見える。
リネットさんは風魔法による身体強化、特に素早さを上げている。アーべは俊敏ではあるが、それ以上の速さでリネットさんは彼らの胴体と頭を分けていく。
接近したアーべを2人に任せ、私は少しでも彼らの負担が楽になるよう、離れたところで遠距離攻撃をひたすら放っていた。土塊、火球、氷槍、風刃。この4種類を順番に発動させていく。
いくら精霊の加護があるとは言え、同じ属性の魔法を繰り返し使うことはできない。精霊にも魔力を補充する時間が必要なのである。
アーべも私に警戒してか、一斉に攻撃してくることはない。それでも、数百匹のアーべが時間経過とともに繰り出されるため、私たちが休む暇もなかった。
……ふと周りを見渡すと、周囲には魔石が散らばっている。中石や大石があちらこちらに落ちていて、山になっている箇所もあるくらいだ。
数は半分ほどに減っているように見えるが、正確な数は分からない。
前衛で戦っている2人は、やはり休憩がないからか最初よりも動きが鈍くなっている。ライさんの双剣に掛けられていた魔法は既に効果が切れたらしく、剣に火は纏っていない。
リネットさんはまだ魔力が残っているようだが、全身に身体強化を掛ける力は残っていないのか、魔法をかけているのは足だけだ。
私は風刃を発動させる。これで最初の土塊から数えて5周目が終わったくらいだろうか。
終わらない戦闘に私の焦りが見え始めた頃、リネットさんも身体強化の魔法が切れてしまったらしく、動きが少しだけ鈍くなる。それを待っていたのか分からないが、頭上にいたアーべ達が先程とは桁違いの数でこちらに襲いかかってきたのだ。
「リネット、大丈夫か?!」
「ええ、なんのこれしき」
そう言ってはいるが、2人とも満身創痍である。
私は何かできないのか、そう考えて精霊さんたちを見回すと、風と水の精霊さんが2人を指差している。
それを見て私は、知っていても一度も使えなかった他者への付与魔法が今なら使えるのだと理解した。
「『身体強化、継続回復』」
私は思わず叫んでいた。この魔法なら、2人の役に立つだろうと。
2人に魔法が掛かると、格段に動きが良くなっていた。むしろ最初より動きが良いのではないか、と思えるくらいだ。
だが、それでも数は多い。私もすぐに詠唱し魔法を行使するが、先程とは違い減っているように思えないのだ。前衛の2人も、魔法が効いているとはいえ、あの数を相手にするのは骨が折れるだろう。
――何か、何か手はないの?
魔法の連射を続けながら、今まで勉強した魔法を一通り思い出す。そして気づく。
「もしかして、あれなら……『状態異常回復』」
憤怒による凶暴化……であれば、状態異常と見做すのではないかと私は考えた。水の精霊の魔力を利用して、私は残り全てのアーべたちに魔法を掛ける。
一か八かの賭けだ。緊張で額に汗をかく。
どれくらい経ったのだろうか。勿論、そこまで長い時間ではないはずだ。だが私には手に汗握る賭け事の結果である。その時間がいつもより長く感じる。
耐え切れず汗がたらり、と頬に伝った頃。変化は訪れた。
真っ赤だったアーベたちの目が青色に戻り、リネットさんやライさんを襲っていたアーべ達も彼らから距離をとり始めたのだ。
そしてアーべの大群は左右に分かれ、間に1匹が通れるであろう道を作った。そこから一際大きいアーべが空から降りてきて、落ちていたクイーンの卵を拾う。
それを大事に抱えると、彼は私たちに背を向け去っていった。
他のアーべもその背を追って、どんどん北東へ……巣がある場所に戻っていく。
「どうにかなったのね……」
アーべ達の背を見た私は、緊張が切れたからか……視界が真っ暗になり、意識が闇に沈んでいった。
なんだか温かいモノに包まれている気がする。
意識が浮上した私は、ハッと目を開けて上体を起こす。私はアーべと戦っていた広場の隅にある木の根元に寝かされていたらしい。
私の身体にはライさんのものと思われる上着が掛けられていた。状態異常回復魔法を使った後の記憶が全くない。つまり倒れたのだろう。
周囲を見渡すと、ライさんやリネットさん、そして警備隊だと思われる制服を着た人たちが魔石を分別しているようだ。
私もその中に加わろうと思い、立つために身体を持ち上げるが、全身がまるで金属のように重い。
やっとの事で立ち上がろうと足に力を入れようとした瞬間、足に力が入らず身体は崩れ落ちた。
咄嗟に目を瞑ったが、幾ら待っても地面に当たる気配はない。恐る恐る目を開けると、そこには私の身体を支えてくれているライさんがいた。
「大丈夫?」
「ええ。ですが身体が重くて……」
「それは一気に魔力を使用した弊害だね。魔力が大量に抜けると、そうなるんだ」
そういえば私はここまで魔力を大量に消費したことがない。
今までの訓練は、多くても両手で足りるほどの数の魔力しか使っていなかったし、ゴブリン退治でも同様の魔力量で対処できていたからだ。
変則的事案だとしても、この経験ができてよかったのかもしれない。
正直、もうこんな事件には関わりたくはないが。
だが私がこれで倒れたのであれば、2人はほぼ魔力が切れていたはず。しかし、2人は平然と動いている。
「ライさん達はその……大丈夫なのですか?」
私の言葉でライさんは目を瞬かせたが、魔力のことだと気がついたらしい。
「ああ、僕らは何度か経験しているからね。慣れかな?」
慣れるんだ、と思わず突っ込みそうになるが、ぐっと抑える。
「もう少しで終わるから、シアさんは休んでて……あ、もし歩けないのなら、僕が抱いて帰っても――」
「いえ、もう少し休めば大丈夫ですわ」
「そう、残念。じゃあゆっくりしててね」
そう笑みを零しながら手を振るライさん。彼はどこまで本気なんだろうか。
流石に抱っこは良い歳して恥ずかしいわね……そう思いながら、私は木に寄りかかった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
冒険者編はここで終了です。
*今までサブタイトルが同じ場合、①②と区別をつけていましたが、前編、中編、後編で区別をつけるよう変更しました。
明日も更新予定です。お楽しみに!




