10、魔法訓練 後編
本日は2話投稿しています。
前話の「幕間 ロゼット視点」を読んでから、こちらをご覧ください。
「貴女、もしかしてシアさんかしら?」
そう声をかけられた私は、驚いて後ろを振り返る。するとそこにはロゼットさんが立っていた。
「そうです、お久しぶりです」
珍しいこともあるんだな、と思いながら私は挨拶を返した。そろそろここで訓練を始めて一ヶ月経つかどうか……であるが、今まで1人もここを訪れた人などいなかったので、何か依頼でもあったのだろうかと考えていた。
そう思い挨拶しただけなのだが、何故かロゼットさんはバツが悪そうな顔をしている。どうしたのだろうか。
「久しぶりね……えっと、まずはごめんなさい」
ロゼットさんは顎を引いて、私に目を合わせながら謝罪をする。とても気まずそうだ。
そもそも謝罪される謂れがない。
そう不思議がる私を置いて、彼女は言葉を続けた。
「……以前、キツい言葉を吐いてしまったでしょう?あれは私の言い方が悪かったわ」
「いえいえ、あの時のお言葉は正論でしたわ。私もそう思っていたところでしたし、むしろ言っていただいたので、こちらがスッキリしました」
「言葉は正論だけど、お姉様に気にかけてもらっている貴女に八つ当たりしたのも事実よ。本当にごめんなさい」
なるほど、シモーネさんの言う通りだ。リネットさんの事が大好きなのだろう。これをしすこん?と言うらしい。
「確かに八つ当たりが入っていたのかもしれませんが、きっとそれだけではない筈です。魔道師として、冒険者として窘めて下さったのですから……謝罪は受け取りますが、もう気にしないでくださいね。それに、ロゼットさんは私のことを思って言ってくださったのでしょう?ありがたいことですわ……理不尽に心無い言葉をかけられるよりは」
そう言い終わってから、ハッとした。余計なことまで言ってしまったからだ。
正直、父や妹、そして王宮で働く使用人や騎士たちに、暴言を吐かれ続けた私からすれば、彼女の言葉は別に暴力でも何でもない。むしろ発破をかけてくれた優しい言葉だと思っている。
彼女にニコリと笑いかければ、「貴女……」とロゼットさんは呟いたが、私の様子を感じ取ってくれたのか、聞こえないふりをしてくれたようだった。
「あと、貴女の訓練の様子を少し見させてもらったの。大丈夫だったかしら?」
「ええ。問題ありませんわ」
今日は拘束魔法の訓練だ。拘束魔法は中級にあたるが、中級までなら適性が低くても訓練すれば、使えないことはない。
最近の昼の訓練は精霊さんの魔力を使わない方向で訓練していたので、精霊さんたちのご機嫌があまりよろしくないのだ。
その分、お菓子を買ってあげたりたまに作ってみたり、夜の訓練で協力してもらったりと機嫌を取っているのだが……やはり外で魔力を使いたいらしい。
明日以降は精霊さんたちの魔力も借りようと考えていると、同じように考え込んでいたロゼットさんが、急に彼女の身体の前に両手を出す。
そして何かを呟いた瞬間、水がぐんぐん彼女の手の下に集まっていく。そして。
「はい、これが魔力を利用したゴーレムよ」
手の下には彼女の下半身が隠れるほどの、大きなゴーレムが。その姿はまるで……。
「気づいたかしら?これ、グレートウルフよ」
そう、馬車の事件で初めて目にしたグレートウルフの姿をした水でできたゴーレムらしきものが、そこにいたのだった。
その後、ロゼットさんが説明してくれたのだが、ゴーレムは2種類に分かれるらしい。
1つ目が、私の作ったゴーレム。動力源に魔石を利用し、単純な動作を行うゴーレムのことだ。このゴーレムは誰でも作りやすいのが利点だが、動作の幅が狭いこと、これが欠点だ。
勿論魔法陣で補えるが、魔法陣を描けるレベルの魔道師であれば、2つ目の方法で作れてしまうので、効率が悪い。
そして2つ目が先ほどロゼットさんが作ったゴーレム。動力源は自身の魔力になる。自身の魔力なので、動作の幅は広い。しかもそれだけではなく、姿を動かしたい物に似せれば、そのゴーレムも動かしたい物のように動くらしい。
「ただし、自分が見たことのない物は再現できないの。無意識に記憶を利用しているのかもしれない、ってどっかの魔道師が言っていたわ」
実際ロゼットさんが、水で作ったグレートウルフゴーレムを離すと、私の土のゴーレムに体当たりし始める。その姿が、防御結界に体当たりしていたグレートウルフに似ているので、目を見開いてしまった。
「……ねえ、シアさん。貴女は魔石屋を営んでいるわね。つまり、冒険者になって魔石を自ら取りに行こうって考えているのかしら?」
「その通りです」
「だったら、私に1つ訓練の手伝いをさせてくれないかしら?先程のお詫びも兼ねて」
「いえ、謝罪は受け取りましたし……」
「それじゃあ私の気が治まらないの。絶対損はさせないわ」
そう言われて了承した私は、その内容を聞いて吃驚した。
次の休みに、ロゼットさんが幾つかの魔物の水ゴーレムを出してくれると言う話だったのだ。
「私は今まで冒険者として戦ってきたもの。高位ランクは流石に無理でも、ダンジョンの4階、5階あたりのモンスターなら問題なく出せるわ。銅級に上がるためには昇級試験で4階のモンスターを数体倒す必要があるもの。事前に動きを把握できていれば、貴女も訓練できるでしょう?」
「ですが……」
「それに、一度見た物の動きを再現できると話したでしょう?私の出した魔物ゴーレムの動きを見れば、貴女もそれが再現できるはずよ。1日時間は取るけれど、あとは貴女の魔力で訓練ができるわけ」
それはありがたい。だが、経験は宝。チームでもない私に教えていいのだろうか。
「これは私の自己満足よ。貴女が素晴らしい魔道師になるための、そして私の罪滅ぼしのため。遠慮することはないわ」
「……ありがとうございます」
そして次の休日に私は彼女と手加減のない訓練を一日中行ったのである。




