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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第二章 ブレア領

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19/80

5、休暇最終日



 そして翌日。明日からの開店に向けての準備を終えると、既に外が慌ただしくなり始めていた。私は軽い軽食を作り、お腹に入れる。今日は以前購入した野菜が残っているので、パンに挟んで食べることにした。色々な野菜を詰め込んだので、意外とお腹がいっぱいになる。

 腹ごなしのために、私は街を見て回ることにした。と言っても、ぶらぶら回るのではなく、買い物をするためだ。

 

 今早急に返さなくてはならないのは、領主様から借りた金銭だ。ギルドでの販売が好調だったことと、ネルさんの販売分も加えれば、返せる目処はつき始めていた。


 そもそも、王国内では公爵代理が投げつけた金銭で賄うことができた上、馬車の料金も爺の餞別と馬車を守ったお礼で支払っていないのである。嫌っている私に金貨一枚投げつけてきたときは驚いた。あの男のことだから、銅貨でも投げつけてくるのかと思っていたのだが……。

 それもあり領主様から借りた金銭は使用していない。魔石を購入した際に使ったのは、爺から貰った餞別の金貨一枚内から購入したし、生活費は公爵代理から貰った費用の残り分だ。今思えば王国内で宿を節約してよかったと思う。


 そして今のところ魔力を込めていない魔石も残っている。中石は購入しなければならないが、ギルドでまとめて購入すればある程度安く費用は抑えられるので、そこの心配はしなくてもよさそうだ。


 であれば、余裕がある今のうちに冒険者用の装備と魔石測定器だけは購入しておこうと思ったのである。



 鍛冶屋はこの近くに二軒程あるようだ。まずは歩いて数分の場所にある鍛冶屋へ足を運ぶことにした。この鍛冶屋はそこそこ大きいのか、武器防具だけでなく、女性が身につけるような装飾品もいくつか販売しているようだ。

 まだ早朝と呼べる時間なので閑散としていたが、店自体は開いているらしく扉が開けっぱなしになっていたので、私はそのまま店に入ることにする。


「いらっしゃいま……せ?」


 私が入ったことに気づいた店員さんが声をかけてくるが、語尾が疑問系なのは何故なのか、と思い顔を上げると、そこには見知った顔が。


「あれ、馬車のお姉さんじゃん」

「貴方は確か……トビーくんだったかしら?」

「そうだよ!馬車の中でお姉さんに話しかけたトビーだよ!あの後母さんと心配してたんだ!大丈夫だったかなーって……あ、そうだ、お姉さん。あのとき僕たちを助けてくれてありがとう!魔法で僕らを守ってくれたって聞いたよ!」


 よほど興奮しているのだろう。早口になっている。


「どういたしまして。心配してくれてありがとう」


 そう伝えれば、ニコッと満面の笑みでトビーくんはこちらを見て笑った。すると、店の奥から「トビー?お客さん?」と、女性の声がする。

 奥から出てきたのはトビーくんと馬車に乗っていた女性だった。


「あら、もしかして馬車で一緒だったお嬢さん?」

「そうだよ!さっきお礼を言ったんだ!あのとき、このお姉さんが助けてくれたんでしょ?」

「ええ、ええ。そうよ、トビー。……あのときは本当に息子共々お世話になりました」

「いえ、私ができる事をしたまでですわ」


 彼女まで頭を下げ始めたので、私は少し慌てた。言葉にした通り、できる事をしたまでだ。結局はリネットさんに助けてもらっているのだから。

 でも……と私は思う。こうやってお礼を言われると、胸が熱くなっている。きっと嬉しいのだと思う。王国では、お礼を言ってくれる人など……爺以外いなかったのだから。そう、亡き母でさえも。


 感傷に浸る前に、彼女が声をかけてくれたことで現実に引き戻される。


「ところで、今はこちらに住んでいらっしゃるの?」

「以前魔石屋だったところで魔石を販売していますわ。正確に言えば、店舗で魔石を販売するのは明日からなのですが」


 そう伝えれば、彼女の顔は何かを理解したらしく驚きの表情を見せている。

 

「もしかして、ギルドで販売していたのは……」

「はい、私です。魔石関係で伝手があるもので」


 嘘ではない。ノルサさんという伝手ができたのだから。


「そうでしたか……良かったです。実はここ一週間で持ち込まれた魔石は質が良いものばかりだ、と旦那と話していたところだったのです。きっとお嬢さんのところで購入したのでしょうね。ギルドで売っていたとの話でしたから」

「ギルドで購入されているのでしたら、そうだと思いますわ」

「貴女のところにはお世話になると思います。今後、武器を作る際に魔石が必要になることがありますから、そのときはトビーに魔石を買いに行かせますので、よろしくお願いします」

「こちらこそ、お待ちしております」


 と二人で話したところで、「そういえば、お姉さんお名前は?」とトビーくんに聞かれ、名前を名乗っていないことに気付かされたので、改めて自己紹介をした。トビーくんのお母さんは、ホリーさんと言うそうだ。

 自己紹介をした後、ホリーさんはハッとした顔で私に話しかけてくる。


「ところで、今日は何か御用で……?」


 そうである。私が今日ここに来たのは、装備のためだった。そのことを思い出す。

 

「冒険者登録をしたので、採取等に必要な鋏などを購入しようと思っていまして」

「それでしたら、採取用の鋏と、解体用ナイフ辺りがあればよさそうですね。ちなみに武器は使用されますか?」

「いえ。武器は使えません。魔法を使用します」

「そうですか。わかりました。少々お待ちくださいね」


 そう言うと、彼女は店の奥へ下がっていく。数分後、彼女は腰につける茶色のポーチを手にしていた。


「こちらは、ポーチと採取用の鋏、解体用ナイフとシャベルがセットになっています。言うなれば、冒険初心者セットみたいなものでしょうか。単体で3つを購入するよりも価格をお安く設定しています。ですがポーチに入るように製作しているので、少々小さいのです。もし手に合うようでしたら、こちらは如何でしょうか?」


 大柄な男性はこれだと使いにくいかもしれないが、女性や子どもなら意外とどうにかなりそうな大きさである。実際私の手にも良く馴染んでいる。

 単体で販売している鋏やナイフも確認させてもらったが、どちらでも使えたので折角ならセットで購入することにした。


「ありがとうございます。またよろしくお願い致します」


 銀貨10枚支払い、思った以上に安く購入できたと、私は満足して店を後にしたのだった。


 

 ――その後二人でこんな会話がなされているとは、アレクシアは夢にも思わないだろう。

 

「ねえ、お母さん。あのセット、もう少し高くなかったっけ?」

「あら、よく覚えていたわね。本当は銀貨20枚よ」

「安くして大丈夫なの?」

「ええ。もし助けてくれた方がお店に来たら、安くして売ろうってお父さんと話していたのよ。でも、トビー。安くしたってシアさんが聞いたら、きっと気後れされると思うから、この事は内緒よ?」

「うん!内緒!」


 ブレア領の領主に似て、ブレア領の領民は皆、恩には恩を返すことを大事にしているのである。



 

 トビーくんの鍛冶屋を出た後、私はサラさんに教えてもらった魔道具屋で魔石測定器を購入した。店員さんはとても元気なお婆様で、私が魔石測定器を購入することに最初は怪訝な様子を見せていたが、ここ一週間ほどギルドで魔石を売り出していたと話をすると、「あの質のいい魔石か」と呟いていた。

 お婆様は、私が帰るときに「今度店に行かせてもらうよ」と話してくれたので、お客さまになってくれるようだ。ありがたい。


 必要物資を購入し終えた私が外に出ると、丁度お昼の時間帯になっていたらしい。お腹も鳴りそうなので、必死に抑えつつ屋台で細長いパンにソーセージを挟んだ食べ物をひとつだけ購入し、歩きながら食べて帰った。行儀が悪いことは承知の上だが、いつも冒険者の人たちが歩きながら食べているのを見て、一度やってみたかったのだ。中々歩きながら食べるのは至難の業で、途中から近くの公園の椅子で食べてしまったが、それもいい思い出になった。


 そして家に帰るが、完全にやることがなくなってしまったのだ。ゆっくり休んでもいいのだが、折角空いた時間だ。なにかしらできないか……と思い、家の中を見回していると、ふと昨日採ったジンジャーがあることに気づいた。


 ジンジャーを粉末状にしておくのも良いかもしれない、と考えた私は、爺から貰ったメモ帳を手に取った。すると、いきなり精霊さんたちがやってきて、私の周辺をくるくると回り始めたのだ。特に風の精霊さんは狂喜乱舞しているのか、動きが激しい。


「精霊さん、いきなりどうしたの?」


 と思わず声をかけてしまうが、もちろん返事はない。何が起きたのか分からず首を傾げていると、ふいに手に持っているメモ帳の開いている箇所が、クッキーの箇所であることに気づく。成程、私がクッキーを作るのではないかと彼らは思ったのかもしれない。

 今日はジンジャーを粉末にするだけの予定であったが、ここまで喜んでいるなら一肌脱ごうかな、と思った私は、爺のメモに書かれている通りの材料を用意するために立ち上がったのだった。

 


 

「うーん、バターは高かったのよね」


 小麦粉、卵、砂糖は用意することができたのだが、バターはやはり高価なため、前回の買い物で買うのを諦めていたことを思い出す。今お金に多少は余裕があるとは言え、あまり贅沢はできない状況だ。どうしようかと悩みながら、次のページを読んでいると、バターの代用として油を利用するクッキーもあると書かれている。


「精霊さん。申し訳ないけれど、今回はこっちのクッキーでも良いかしら?」


 風の精霊さんにそう声をかけると、彼女はメモ帳を覗いた後、嬉しそうに空を飛び回っていた。油を使用したクッキーでも良いらしい。

「じゃあ、頑張って作りますね」と精霊さんたちに声をかけて、私はジンジャーを手に取った。


 ジンジャーを粉末にする作業に、私は苦戦していた。水で洗った後ジンジャーを薄切りにするのだが、爺の手記によると薄ければ薄いほど良いらしい。包丁に慣れていない私は、その作業がとても大変なものだった。なんとか怪我なく薄切りにすることができた後は、大きなザルの上に一枚ずつ並べ、乾燥に入るのだ。

 乾燥させる工程は精霊さんの力を借りようと考えている。水分を飛ばすのなら風の精霊さんでも水の精霊さんでも協力してくれるのではないだろうか。そう思い、未だに舞っているらしい精霊さんの方向に視線を送ると、いつの間にか風の精霊さんが目の前で仁王立ちをしていた。


「乾燥させるの、協力してくれるかしら?」

 

 そう問えば、頭を上下に振る精霊さん。彼女にジンジャーの中にある水分を飛ばすのを手伝ってほしいと思いながら魔法を使えば、みるみるうちにジンジャーは乾いてくしゃくしゃに丸まっていく。ついでにカモマイル(カモミール)とカレンデュラの花弁も同様に乾燥させておいた。

 

 乾燥が終わると精霊さんにお礼を伝え、すり鉢でゴリゴリと粉砕していく。力仕事にはなるが、休み休みやれば問題ない。つまらない作業も、精霊さんたちがすりこぎの上に立ってみたり、すり鉢の縁に立ってみたり、私の作業をじっと見つめてみたりと楽しんでいたので、私も最後には楽しくすっていた。


 ある程度細かくすり終えたので、次はクッキー作りに取り掛かる。


 まずボールに砂糖と卵を入れ、混ぜ合わせる。

 次に油を入れる。このとき、少しずつ馴染ませるように入れていくのがポイントである。

 そして小麦粉とジンジャーの粉末を一緒に加えて混ぜたあと、成形して焼くのである。


 この工程に関しては、私にとってそこまで難しいものではない。一度爺と一緒に作っているので、なんとなくだが手際を覚えていたからだ。お陰で、四半刻もかからずに成形まで終えることができた。


「後は、焼くだけだから待ってね」


 そう伝えれば、精霊さんは楽しそうにはしゃぎ回っている。いつも近くにいる風と水の精霊さんだけではなく、心なしか土と火の精霊さんも嬉しそうなのだ。精霊さんはお菓子が好きなのだろうか、そう疑問に思いながらも私は焼けるのを待ち続けた。

 

 

明日も投稿予定です。よろしくお願いします!




*4、初めての依頼 ②の後書きにおいて

取り急ぎ感想でご指摘頂いた点を修正しました。ご指摘頂いた方には改めて返信します。


↓以下修正内容です。

後書きのカレンデュラの別名はポットマリーゴールドだそうです。調べたところ花壇に咲いているような普通のマリーゴールドとは種類が違うようです。後書きであるとは言え、正しい内容を記載していなかったこと、お詫び申し上げます。



*6/23 修正


訂正前 そろそろ昼になるのだろう → 訂正後 削除    大体10時頃の話と考えているので、消去しています。

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