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【書籍発売中!】スケルトンは月を見た〜祝福を受けた骸骨は、心を求めて旅をする〜  作者: アルファル


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37/330

骸骨は揺れる

翌日、太陽が一番高い場所に登った頃、人狼族の村へ商人がやってきた。

月に1度、調度品や嗜好品、食料などを買い付けているのだとか。


「初めましてバレルと申します」


バレルと名乗った初老の男性は、頭から紫色の角を生やし、紫色の目をしていた。これが魔族のデフォルトではあるらしい。魔人族。人間の見た目に角が生えている。人間とは違い魔法の扱いや身体能力が上らしいが、根本的には同じらしい


「初めまして、ムルトと言う。よろしく頼む」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


軽い挨拶を交わす。スケルトンということはあまり気にならない様子だ。


「魔族にはたくさんの種類がいますからね。あなたは骨人族でしょう?」


「骨人族?」


「はい。スケルトンと同じ見た目の種族ですよ。違いは胸に魔核があるかどうかです」


「ほう。」


「あなたは骨人族では?」


「俺は…」


「ムルトさん、バレルさん、出発の準備は整いましたか?」


「あ、あぁ。」


「はい」


「ムルトさん、これをどうぞ」


「…これは?」


「私が昔使っていた外套です。ムルトさんが持っていたのは、失礼でしょうがボロボロで、粗悪品でしょう?それはワイバーンの皮で作られていましてね、伸びますし何より丈夫です。もしよろしければお持ちください」


「いいのか?高価なものだろう?」


「私にはもう不要なものですから…是非もらってください」


「…有り難く頂戴しておこう」


「あと、これも」


ビットは懐から綺麗な鞘に収まっているナイフを俺に手渡した


「これもか?」


「はい。受け取ってください。それは友好の証です」


「ほぉ…人狼の牙か」


バレルが馬の準備をしながらこちらを見ていた。


「はい。お恥ずかしながら…」


「人狼の牙、とは?」


「人狼の牙というのはだな、人狼族が友好の証として人狼族以外に渡すものだ。人狼の姿の時牙が鋭利になるだろう?その中でも一番立派なものを引っこ抜き、それを相手に渡す。とても希少でほとんど、証をもらったという話は聞かない。それも、こんなナイフのように加工したものなど聞いたこともない」


バレルがわかりやすく補足をしてくれる。


「私の牙で作りました。ほら」


ビットは口を大きく開き口の中を見せてくる。犬歯が一本なくなっていて、ぽっかりと穴が空いていた


「生えてはこないのか?」


「10年ほどすれば生え変わりますよ。それを持っていれば人狼族から襲われることはないでしょう。もっとも、ムルトさんを襲う奴はいないでしょうがね。友好的に接せば骨を…じゅるり…」


「ビットよ。私にもその牙卸してはもらえんか?」


「バレルさんにもお世話になっていますがダメですよ。これは本当に特別なものなので」


ビットとバレルが笑いながら話している。そんなことを言っているバレルの首からは小さめの牙のようなものがネックレスとして首から下がっていた。

こう言っているものの、バレルも牙をもらっているようだ。その牙を商売に使うことはなく、大事に持っているらしい


「ビットよ。短い間ではあったが本当に世話になった。是非、これを受け取ってほしい」


俺は自分の肋骨を二本取りビットへ手渡す


「いいのですか?」


「構わない。予備の骨を馴染ませればすぐになおる。これはせめてものお礼だ。」


ビットは膝をつき肋骨を丁寧に受け取り、静かに嗚咽をもらしていた


「本当に…本当にありがとうございます…」


震える声でそう言われると、こちらも思うことがある。

出発の前、村人総出で俺の見送りをしている。涙を流すもの、下を向くもの、たくさんの人がいた


(俺のために…)


「それではムルトさん、行きましょうか」


バレルは既に馬を動かすために座っていた

俺もビットからもらった外套を着て、ナイフを懐へ納め、静かに荷台に乗った。


荷台から眺めた景色は、とても美しかった。

緑の森に囲まれた村の中では、昼にも関わらず、人狼がいた。一面が灰色の毛並みだが、ちらほらと赤や黒、ピンクなど、色とりどりだった。それは皆、こちらに手を振っていた。一頭の黒く青い人狼が大きく息を吸い、天に向かって一際大きな遠吠えをしていた


その遠吠えはとても力強く、とても優しさに満ちていた


「ムルトさんは、本当に愛されていますね」


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