表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
46/78

連携、手を繋ぐように

 フィッテは少し後悔していた。

 階段を上り、三人が踊り場に足を踏み入れた瞬間、通り過ぎた通路から金属音が響いたからだ。

 

「れ、レルヴェさん! よ、鎧なのでしょうか……っ」

「フィッテ、ここは私に任せて」


 武器が落ちた、というよりも何かが一定のリズムを保って近づいてくるの方が正しいか。

 彼女たちが後ろを振り向いた時には、こちらに青色の甲冑が距離を縮めてきていた。

 手には侵入者の手足を切断する為の鋼鉄の斧が握られている。

 一番近いフィッテを狙うべく斧を高く掲げるが、セレナが許すはずがなかった。


「こっちには用があるの、近づかないで。【アイシクルブランディッシュ】」


 何度もこの氷の大剣で助けてもらった、そして今日だって助けてもらえるだろう。

 しかし、それでいいのか? という考えがフィッテの頭を過ぎるのも事実である。

 特別依頼の時だって、セレナが助けに入らなければどうなっていただろうか。

 足手まといにならないように援護ぐらいだったらしてもいいのでは、と自問自答した彼女は既に詠唱待機してある魔法を起動させた。


「……【ラピッドファイア】」

「フィッテ!?」

「ご、ごめんセレナちゃん……でも、私も強くなりたいのは昔から変わらないから。足手まといにならないように頑張るから!」


 やや面食らった様子のセレナだが、微笑み甲冑へと向かう。

 

「りょーかい! バックアップよろしく!」

「うん!」


 セレナの前方ステップと同時に繰り出した氷の刃は斧へと衝突する。

 市販武器と大差ない耐久力だからこそ出来る攻撃だ。

 それだけでは終わるはずがなく、一撃、もう一撃と斬り込んで行く。

 甲冑側は斧でかろうじて防ぎ、自分に傷を負わせない。

 が、そう上手くは行かず、第三者からの被弾を受ける。

 

「……」


 言葉を発さずに、黄土色の弾丸を受け続ける甲冑は後退りをする。

 一定の場所をフィッテは狙っているため、甲冑を貫通すれば痛手にまで至らせられるだろう。

 

「これだけで十分!」


 セレナは力を込めて大剣を薙いでから、青の粒子に変化させている間もフィッテの連射は止まらない。

 大剣の残り時間には余裕があったが、次の事を考えたらセレナは早めに解除する必要があった。


「よ、よし、貫通したよセレナちゃん!」

「ご、ごめんフィッテ。間に合いそうにないかも!」


 フィッテの連続弾で甲冑の一部に穴を穿つ事に成功したが、セレナの方の詠唱が発動していない。

 最速で発動するスイフトアローですら、最低でも3秒は必要だ。

 しかし、今ここで発動するのはいいがすぐさま次の手札を用意しないと甲冑側の攻撃に耐えられるか怪しくなってくる。

 ここでフィッテの魔法が終了し、粒子に変化した所でセレナが動き出した。


「【スネークエッジ】」


 彼女の手から放たれた白い蛇は、頭を刃へと変え足へと襲い掛かった。

 足に当たった刃はがっちりと食い込み、対象を動かさせない。

 蛇はもう一匹居て、もう片方の足へと刃を固定する。

 そのおかげで、甲冑の下半身を封じ武器を振り回すだけで終わる。

 セレナは次で仕留めるべく、技をしかけようとフィッテに視線を送る。


「フィッテ、あれ行ける?」

「わ、分かった……!」


 二人は息があったかのように同時に頷くと、詠唱集中を試みる。

 蛇の拘束はすぐに解けてしまうだろう。

 だが、彼女達は気にすることなく目を閉じ続ける。

 甲冑に喰らい付いていた蛇が粒子に変化したのと同時に前進し、斧を振りかぶり少女を一撃で殺せるように天井へ届かんばかりに掲げた。

 セレナが狙われているが、彼女は分かってて回避すらしようとしない。

 刃がすぐそこまで迫っているのに、彼女達は動かないことにレルヴェは助けに入るか迷う。

 

「肝心の魔法が間に合わなかったらなんの……」

「【ストーンポール】!」


 レルヴェの言葉を遮り、フィッテの魔法名が発言される。

 甲冑の床から生成された石の円柱は手で掴めそうな程に細く、甲冑の手甲にそのまま伸び続け突き上げた。

 甲高い音を発してから、円柱はフィッテの手に吸い付くように握られる。

 攻撃は反れてから、セレナもフィッテの後に続く。


「ありがと、フィッテ。【スイフトアロー】っ!!」


 セレナは銀の矢を創り出し、即座に甲冑の兜へと突き刺す。

 易々と貫通した銀の一突きは、血を放出することもなく白の粒子になり消え去る。

 甲冑の一部である兜は、指が数本入りそうな空洞が出来上がっていた。

 その事に驚いているのか、単に行動が緩やかになったのか、敵側の方から反撃はない。


「案の定だけど、中身はないっぽいね……」

「せ、セレナちゃん、じゃあどうするの……?」


 既にセレナは後退し、石の棒を持ってフィッテの所に待機し次の魔法を詠唱している。


「牽制、お願い! フィッテの魔法が消える前にはいけるから!」


 言われてすぐ行動に移した彼女は黒髪をなびかせて、石の棒を横一文字に薙ぐ。

 加えて踏み込みと同時に放った一撃は甲冑の意識を戻すには十分で、よろめいた瞬間に斧を斜めに振り下ろしてきた。

 対してフィッテはどうにか反応し、押し返す。

 

「……っ!」


 言葉を発さずに歯を食いしばりながらも、懸命に反撃し返す。

 今度は点の攻撃で、突きを素早く行う。

 効果時間の影響を受けるであろう、防御と攻撃による強度の低下を気にしながら。

 そして余裕を確かめると、追撃の意味を込めて数発殴打を仕掛けていく。


「せ、セレナちゃん、そろそろ?」

「後三秒! さん、にー、いち!」


 フィッテの半ば焦りを含んだ声とは裏腹、セレナの少し嬉しそうな声と同時に魔法が放たれた。


「【セパレート・ダガーストーム】!」


 手からは無数の短剣が生み出され、前面の甲冑へと突撃する。

 フィッテは似たような魔法を見た事があった気がした。


(バラージスラッシャー……今はもう居ないけど、お母さんの創造魔法に近い魔法だ……)


「セレナちゃん、この魔法って……」

「……あれ以降、ヒントにしたの。この甲冑に恨みはないけども、お返しだよ!」


 フィッテの加勢が不必要な程に、刃の弾幕が貼られ続けている。

 敵味方否応無しに近付く事が不可能な刃は、金属音を周囲に響かせ甲冑の表面をみるみるうちに削っていき空洞の体をさらけ出して行く。

 青色の欠けた甲冑の一部があちこちに散らばる中、フィッテ達は甲冑の内部に空洞ではない部分を発見する。

 

「セレナちゃん! 何か見えるけど、もしかして弱点……?」


 彼女が頷きながら未だに手をかざし刃を射出する中、内部が露になった弱点が見える。

 鎧のような金属部分ではなく、どこか外に転がっていそうな石だが色が血で染まったように紅かった。

 まるで人の血を吸ったように。

 そしてその石のような物は鎧の内側に貼りついていて、短剣の損傷によりひびが入りつつある。


「フィッテ、私の魔法もう終わりそうだからアレ、破壊出来る?」

「だ、大丈夫! こっちもギリギリ持ちそうだし……!」


 セレナが今一度首を下ろすと、彼女の手から短剣の放出が無くなると同時に隣の少女が石棒を構えながら駆け出した。


「やあああああっ!」


 弾幕から解放された甲冑は、眼前に入ってきた少女を視界に収めると手に持った自慢の斧で体を真っ二つにしようと試みた。

 だが、彼女のほうが数秒早く甲冑内部の石を破壊するのが先だった。

 氷を砕くかのように破片が散らばり、赤色の欠片が床に広がった。

 それを合図に、甲冑の手に持つ斧が落下し金属音を鳴らす。

 もう自分は動かない、という意思を表すかのように。


「やった、の……?」

「ん、大丈夫、あれが動いてた元みたいだね。お疲れ様、フィッテ」

「う、ううん! セレナちゃんこそお疲れ様……私一人じゃ勝てなかったし……」


 お互いの無事を嬉しそうに話す二人に、レルヴェは一瞬微笑むとわざとらしくせき込む。


「ほら、二人とも。次がもし来たら厄介だ。早々と上に向かわないかい?」


 少女たちは頷くとレルヴェに付いて行った。


「念のために、セレナ。フィッテの後ろを走ってくれないかい? 警戒を怠ってはいけないと思ってね」

「分かりました!」


 その後もセレナは後方を視認しながら階段を上ったが、石を破壊された甲冑は動くことなく行動を停止した。





 カイサジリア展望場、三階。

 階段を上った先に三人を待つのは行き止まりと大きな扉だ。

 人の背丈を遥かに越える扉は、外の入り口とは違い別の威圧感を放出させる。

 まるで、この先に何か巨大な物が居座っているのではないかという程に。


「大きい、ですね……」

「うん、私も驚いてる。けどレルヴェさん、この先にフィッテが求める素材があるのですか? 私はあくまで付き添いで、自分の分も入手出来ればいいに越したことはないんですが……」

「ああ、この扉を開けば分かるさ」


 セレナはフィッテに頷いて合図を送り、返ってきたのを確認すると力を込めて取っ手を持つ。

 扉の音など気にならないほどに、フィッテ達は心臓の鼓動が早くなる。

 二人は戦闘になってもいように、詠唱準備を完了し開けていく視界に注視する。


「え、あ、あれ……?」

「……どういう、こと?」


 彼女達が驚くのは無理はないかもしれない。

 予想では、中型及び同等サイズの魔物が数匹存在しているとばかり思ったからだ。

 

「セレナにフィッテ。私は戦闘が有るとは言ったかもしれないが、この部屋で魔物が居るとは言っていないけどねぇ」

「む……レルヴェさん、あの鏡がボス、な訳ないですよね?」


 セレナが指差す先、そこには大人一人を丸々飲み込めそうな丸い鏡が二つ、石の土台と共に固定されていた。

 二人が見回しても、魔物の気配はおろか人すら居そうにことからこの部屋には鏡だけがあるということになる。


「これを壊すのは至難の業だろうねぇ。試しに、ほら」


 彼女達の返事を待つことなく、レルヴェは透明な武器を投げつける。

 フィッテ達が判断するに、槍か投擲に優れた武器だろうか。

 石でも当たったかのような低い音が鏡から聞こえたが、それ以降は何一つ変化が無い。


「ん……まあ、壊すつもりはないですけどね。魔物じゃない限りは。それで、この鏡に何の意味が……? そして二つあるのも気になります」

「全ては二人が鏡に手を伸ばして進むといい。そうすれば分かるさ」

「わ、私とセレナちゃんですか……?」


 フィッテの質問に赤髪の女性は首を下ろす。

 どうも腑に落ちない二人は、こっそりと話す。


「(セレナちゃん、私は行こうと思うな。……レルヴェさんを信じてる訳だし、何も進まないと思う)」

「(うぅ……フィッテがそう言うなら私は否定出来ないよ……フィッテに付いて行きたいし……どこまでも)」


 セレナの告白交じりの言葉にフィッテは頬を染めつつも、顔を俯かせた。


「(あ、ありがとう……)」

(これが、終わったら言おうと思ってるけど、早いかな……? それともセレナちゃん側は待ちくたびれてるかな……。どっちみち、ここでの用事を済ませたら……)


「いこう、フィッテ」

「……うん」

「二人とも、御武運を」


 レルヴェに見送られながら、二人は別々の鏡に手を差し伸べた。

 表面に触れた瞬間、波紋が広がると手が吸い込まれそうになる。

 抵抗すれば、すぐにでも脱出可能な勢いだが流れに身を任せて進んでいく。


「あの二人なら大丈夫だと思うが、ねぇ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ