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「魑魅魍魎が跋扈する跋扈する赤い月の夜よ、去れよ」

「妖刀、村正」

「エキゾチックイメージ、アリス」

 一体、何体の妖魔を倒しただろうか。

 まことが無線で人見に呼び掛ける。人見は放送室だ。

「人見さん、礼人くんの気配は?」

「ない。次、来る」

「くっ」

 まことがピンを使った電装剣で妖魔の攻撃を防ぐ。

 岸和田の能力で黄泉路を開いたはいいものの、文芸部は苦戦を強いられていた。

 何より手痛いのは、代永の黄泉帰りの纏が使えないことだ。黄泉帰りの纏は黄泉から出てきた妖魔を黄泉に帰すための纏。黄泉路の間近では黄泉はすぐそこなので、あまり効果がない。

 数日間、礼人を探すための作戦を実行しているわけだが、全くといっていいほど礼人の気配がない。気配探知は人見頼みだ。

「わんさか沸いてきやがる!」

 結城が村正で敵を切り裂きながら悪態を吐く。

 なんといっても、黄泉路の真ん前だ。黄泉路は妖魔の本拠地のようなもの。穢れを孕んだそれは無尽蔵に妖魔を生み出す。

「シルフ! 風の加護を」

「次の妖魔、来るよ」

 岸和田の力に引っ張られているらしいなごみの「エキストラ×エキストラ」はモノクルを発現させていた。よって、なごみは現場指揮を担当している。

「結界の設置、完了」

「代永先輩、もう少し敵を引き付けてからなので待ってください。眞鍋先輩はアリスの能力を」

「活躍できるのは嬉しいねぇ。アリス!」

 眞鍋のエキゾチックイメージ「アリス」は対象を大きくしたり小さくしたりができる。眞鍋は迫り来る妖魔を無害な大きさに縮め、代永が張った結界の中に放り込む。

「よなぴー!」

「結界発動」

 妖魔が結界により、瞬く間に浄化される。

「まだまだ来るよ。今度はかなりでかいね」

「優子先輩」

「わかってる。なごみん、耐性解析は?」

「うーん、土かな?」

「なら、サラマンドラ!」

「クリエイティブイマジネーション、火炎!」

 優子の攻撃を咲人が援護する。妖魔へのダメージは大きいようだ。

 だが、風を孕んだその妖魔は炎に包まれながらも突進してきた。

 その先には。

「華さん!」

「清らかなる水よ、その身と共に敵すら凍てつかせよ!」

 想像タイプで氷を顕現させ、妖魔を足止めする華。ついでに浄化までしてしまう。

「すごいや」

「さっきー、余所見しない。次来るよ」

「エキゾチックイメージ、眠り姫!」

 地面から茨が生える。茨ならいばら姫のイメージだが、眠り姫でも間違いではない。

 どうやら、眞鍋の「エキゾチックイメージ」というのは、童話を具現化する能力らしい。茨の壁がたちまちに出来上がる。が、妖魔はそれを突き破ってくる。

 そんなことは予測済だ。

「攻撃用記号構築、標的を確認、悪鬼を切り裂け、人の造りし刃よ、記号解放!」

 まことが電装剣で斬りかかる。記号タイプは苦手だと言っていたが、それは敵の意表を突くなり何なりすればちゃらになる。

 それにまことの電装剣は弱くはない。

 まことは退魔の神、月夜姫を宿す。故に、妖魔を一太刀の下に浄化した。

「岸和田くん、穢れを増すことはできない?」

「君たちの浄化具合から、そろそろ黄泉路は閉じるくらい薄まってるよ」

「くっ……」

 また見つからないまま時が過ぎる。まことが手を握りしめる。

「礼人くんは来なさそうだね。じゃあ、あとは閉じちゃおうか」

「……はい」

 岸和田は礼人と違い、黄泉路を閉じることができない。だが、この場には黄泉路を封じることができる人物が二人いる。まことと華だ。

 華が詠唱する。

「閉ざせよ閉ざせ。魔なる道よ、繋がらざるべき道よ、ツクヨミの名の下に命ず。正しき道へ還れ」

 華の詠唱により、黒くぼんやりと繋がっていた黄泉路が消えていく。霧に掻き消されるように。

 どさり、とまことが崩れ落ちる。それから、だんっと地面を叩いた。

「また、見つからなかった……!」

 地面を殴り続けるまこと。いつしかその頬には涙が伝っていた。

 岩井理事長との約束で、黄泉路を開くのは一日一回だけ。まことたちは登校と同時に岸和田の能力で黄泉路を開き、日暮れまで戦い続ける。礼人が来ると信じて。

 あっという間に十一月も半ばになってしまった。十日近く探しているが、成果は上がらない。そのやるせなさから、まことは地面を殴る。痛々しい擦り傷から血が流れ始めてもやめようとしない。

「っ」

 まことが何度目か振り上げた拳を、ぱしりと掴んだ人物がいた。麻衣だ。

 今日の結界当番は華であるため、総員で参加していた。だが、それでも見つからなかった。毎日、これが続いている。まことのやるせなさもわかるから、誰も安易に慰めることなんてできない。

 だが、麻衣は止めた。何も言わずにヒーリングフェアリーを呼び出し、まことの擦り傷を治す。

 それから優しく、まことの肩に手を置いた。

「自分を傷つけるのはやめなさい。私だって毎回毎回傷を治せるわけじゃないんだから」

「っ、今日も、見つからなかった……!」

 まことの悔しさは痛いほどわかる。だが、冷静に現実を突き付ける人物が必要だった。

 麻衣は少し前から考えていたことを口にする。

「ただ黄泉路を開くってだけじゃ、駄目なのかもしれないわ。もう一押し、阿蘇がこっちに戻ってくるための何かが必要なのかもしれない」

「どういうことですか」

 まことが涙をぐい、と拭い、麻衣に面と向かって立つ。その表情はあからさまに納得がいっていない。

 だが、麻衣はこういう意志の強い眼差しに押されるのは慣れている。麻衣はあまり感情的にならない。だから、一種冷酷にも感じられるくらい冷静な判断ができることがある。そう、相対する麻衣の意志もそんじょそこらに負けるほど弱くはないのだ。

「あくまで可能性だけれど、阿蘇は私たちが呼び戻そうと黄泉路を開くという危険を冒していることを知らないから、開いた黄泉路はただ閉じるかもしれない。黄泉路の先に阿蘇がいるとも限らない。これは最初からわかっていたことで、この作戦が賭けでしかないのは、誰よりもあなたがわかっているはずよ、まことちゃん」

「……わかってます」

 そう応じるも、まことは唇を噛む。

 かまわず、麻衣は続けた。

「私はね、考えたの。こっちから黄泉の中に呼び掛ける必要があるんじゃないかって。その方法はあるわ」

「ないですよ。無責任なことを言わないでください」

「私が考えもなしにこんなこと言うと思ってるの?」

 少し強い語調で指摘され、まことは言葉に詰まる。反論がないのをいいことに、麻衣は続けた。

 す、とその手が一人の人物を指差す。その先にいたのは──

「私?」

 首を傾げる華。

「華さんがどうにかできるっていうんですか?」

 まことの語調には少し棘がある。それを意に介した様子もなく、麻衣はつらつらと述べた。

「さっき、華さんが黄泉路を閉じたわよね? それは華さんがツクヨミの力を使えるからというのもあるだろうけど、もっと重要なのは、華さんが言霊を使う想像タイプだということ。想像タイプの言霊という技能があるからこそ、さっきの黄泉路封じは実現した。いい? 言霊とは、言葉よ。それが黄泉に届く。華さんの黄泉路封じはその証明なの」

 まことがはっとしたように口にする。

「黄泉にも言葉は届く……」

「そういうことよ。そして、阿蘇に言葉を届けるべきはあなた」

 まことが虚を衝かれる。今の話の流れなら、華の方が黄泉にいる礼人に言葉を届けられそうだが……

 そこで麻衣が、薄く笑んで、小さくまことに耳打ちする。

「好きなんでしょ? 阿蘇のこと」

「なっ……」

 瞬く間にまことは頬を赤らめた。図星だったからである。

 麻衣はわかっていた。言い方はあれだが、自分にとってどうでもいい人間が死ぬとしても、人はへぇ、そうなんだ程度にしか感じない。だが、死に瀕しているのが、大切な人なら、話は別だ。まことの必死さ、礼人との距離感を見ていれば、なんとなくわかった。

「阿蘇が大切だから、呼び戻したいんでしょ?」

 まことは小さくこくりと頷いた。否定のしようがない。

 麻衣はまことの背中を叩く。

「だったら、あんたの力でやりなさい。想像タイプ以外にも、あんたにはやれることがあるわ」

 そう、言霊を扱うのは想像タイプだけではない。

 それはまことが最も得意とするタイプ技能。

 歌唱タイプだ。



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