76-2 所信表明
キッチンで夕食の仕込みを始める。
途中に美月ちゃんが帰宅するも特に気付く様子は無かった。
浮かれている自分を必死に抑えた、敏感な美月ちゃんでも気付かれない様に。
でも、美月ちゃんには言わなければ、とりあえず、今夜にでも言おうか? いや、でも彼女に疎外感を与える事になってしまうかも知れない……。
お兄ちゃんが大好きな美月ちゃん……お兄ちゃんも大好きな美月ちゃん、ただ恋心では無い……と、思う。
お兄ちゃんは置いといて、美月ちゃんはお兄ちゃんに対して兄妹愛を感じているのだと思う。
そう……私とは違うのだ。
もうここで改めてきっぱりと言ってしまおう。
私は異常者なんだと。
兄を愛する異常者……。
この愛は敬愛でも兄妹愛でも家族愛でも無い。
私はお兄ちゃんを異性として愛しているのだ。
今まで他の異性、いや同性も含めてこんな気持ちになった事は一度足りとも無かった。
だから幼い頃からお兄ちゃん対するこの気持ち、これが恋愛感情だなんて思わなかった。
いや、思わない様にしていた。
でもある時わかった……そう子供から……大人に変わった時だ。
女の子は自分が大人になったと実感する瞬間が訪れる。
子供を産める身体になった瞬間だ。
それがどういう物か私は理解していた。
そしてその時私は……お兄ちゃんの子供が欲しいって思ってしまったのだ。
あり得ない、ショックだった……と同時に嬉しい気持ちにもなった。
自分が恋を出来る人間だって事に。
友人から常に相談を受けていた、
その誰しもが見せるその表情に憧れていた。
喜怒哀楽を見せながら私に相談を持ちかける友人達、苦しい狂おしいその表情、人を心の底から思うその気持ちに私はずっと羨ましく思っていた。
今日の委員長もそうだった……。
私は異性に対してそんな気持ちになった事が無かった。
そう……一人を除いて。
だってあり得ないじゃない、そんな気持ちになる人物が兄だなんて。
でも、ある時はっきりと思った。
お兄ちゃんともっとくっつきたい……身も心も一つになりたい、そしてお兄ちゃんの子供を授かりたい……って。
そう思った時、私は鏡を見た。
そこには、今までずっと見て来た、憧れていた恋する少女のそれがいたのだ。
苦しい狂おしい狂気の顔に私は狂喜した。
私は恋の出来ない子じゃ無かった。
そう安堵すると共に、兄に恋する異常者なのだと理解した。
初めは隠した、異常者だとバレない様に必死に、そしてこれは一過性の病なのだとそう言い聞かせた。
しかし、お兄ちゃんへの想いは一層強まり、もうどうする事もできなくなってしまったのだ。
そして……私はお兄ちゃんに告白した。
でもそれはお兄ちゃんを諦める為に、そしてそれはこれからも思い続けますという意思表示の為にだった。
まさか良い返事を貰えるなんて夢にも思ってもいなかった。
そしてあれから1年、私の努力が実り今日お兄ちゃんが私に告白してくれた。
私と恋人に、真の恋人になりたいと言ってくれた。
それは過去の贖罪の意味もあるだろ、でもそんな事はどうでもいいのだ。
お兄ちゃんは本気だって、それだけで私は満足なのだ。
そう! お兄ちゃんはやる気満々なのだ。
来たこれ最高!
私は包丁を手に、皮を向いた大根を軽く放ると、空中で5等分にした。
それを鍋に放り込むとコンロに火を灯した。
「うへへへ、むへへへへ」
ああ、声が出てしまう。
コンロと共に私の身体にも火が灯る。
さあ、これからは対等なお付き合い。
お試しでも、テストでも、とりあえずでも無い、正々堂々なお付き合い~~♪
ただここで問題が生じる。
今までは私の一方的な気持ちだったから、バレても問題なかった。
ブランコという汚名を着せられるだけ。
ううん違う汚名なんかじゃない、栄誉な事だ。
世界一お兄ちゃんの事を好きな妹だって証明出来るのだ。
でも、今はお兄ちゃんも私と同じ気持ちになったのだから、慎重にいかなければならない。
これからは秘めた恋、内緒のお付き合いをしなければならないのだ。
ああ、燃える、ああ、萌える。
今最高潮にベリーハッピー状態、頭の中がピンク色の染まる。
ただ私達には普通の恋人の様なゴールという物が無い。
既に家族である私達、ある意味安心なのだがある意味安心出来ない。
結婚がゴールでは無いってのも勿論わかってる。
男女の関係にゴールは無い、けど、結婚というのは恋愛での一区切りなのだ。
私とお兄ちゃんにはそれが無い。
ただ一区切りはつけられる。
そう……それはお兄ちゃんとエッチをする事だ!
ギャグじゃないよ、本気で言ってるの。
私とそういう事をすればお兄ちゃんは後悔するかもしれない。
だから今までは嫌われない様にとあまり積極的に迫ったりしなかった。
これもギャグじゃないよ本気で言ってるの!
お兄ちゃんを完璧に私の物にする為にこれからはどんな手段も厭わない。
そう、今日から、今から本気の私を見せてあげる、覚悟してねお兄ちゃん。
私は包丁をお肉に突き刺しお兄ちゃんの部屋の方向を見ながらそう呟いた。




