75-2 委員長からの告白
お下げ髪の見た目真面目そうな委員長からの告白に私は一瞬動揺した。
やはり……高校2年ともなると、こんな娘でも経験しているという事実に。
よく雑誌やネットで書かれている初経験年齢は眉唾的な情報が多い。
周囲がそう言ってるから自分もと嘘をついたり、そういった経験を積んでいそうな子に声をかけたり、夜遊びする様な地域でアンケートを取ったりして、若さ故の過ち的な報道をしたいが為に操作されている事が多々ある。
私の感覚では、高校生以下の経験数は3割にも満たないと思っている。
あくまでも私が相談を受けた感覚なので。
私はもう既に決めている人がいるので、特に焦る必要は無いんだけど、やはりこう言った娘からそう聞かされると少し動揺してしまう。
お兄ちゃん! いつまで焦らすの?って……。
そもそも付き合うって、そういう事を前提でって事だよね?
それが無ければお友達と同じ、兄妹としての付き合いと同じ……。
おっと今は相談中だった。
「えっと、そっか、まあ高校2年なら特に早すぎるって事も無いとは思うけど」
やはり彼女は真面なのか? それで悩んでいるのか? と思い笑顔でそう言うと彼女は首をフルフルと横に振り膝の上の拳を握りしめた。
吊られて彼女のスカートに皺が寄る。
そのまま押し黙る彼女、どうしたのだろうか? と困惑していると彼女は目に涙を浮かべて衝撃的な言葉を発した。
「相手が……相手は……兄さん、私の兄なんです」
「え?」
その言葉に意識が飛びそうになるのを堪えた。
「兄が私の初めての相手なんです……だから私……」
「あ、ああ、そ、そうなんだ……まあ、でもそう言う事もあるって……聞くかなぁ」
動揺しまくる自分の気持ちを精一杯抑え、何でも無い顔でそう答える。
「……で、でもこの間……ネットで兄にそう言う事をされて……って記事を読んで……私」
「ま、まさか、む、無理やりなの!」
その言葉に私は胸が張り裂けそうになった。
こういう相談も稀に受けた事がある。
こう言った場合病院に行かせる事や警察に相談させる等が考えられる。
当たり前だけどそれは犯罪行為だ。
でも、本人の気持ちが重要なのは勿論、セカンド……的な事を考えると直ぐにそういう所に行けばいいって訳にはいかない。
でも、とりあえず病院には行くべきだ。
そして……更にその相手が身内となるとまた話は変わって来る。
でも、どちらもこれ以上被害が広がらない様にするのがこういう場合のセオリーで、例えば何かしら脅される材料があったりした場合、私のネットワークを使い色々裏から手を回し社会的に制裁を加える事も……。
そして相手が身内の場合、親、親戚、相手の職場、学校、そういった方向から警告的な方法を取る事が最善の策だけど……。
そういったいくつかの対処方法を考えて居ると彼女は少し焦りった表情で「違います!」と、それを否定する。
「あ……そ、そうなんだ」
お互い相違の上での事らしい、だったら何故悩むのか? 寧ろ羨ましいと思うがやはり相手は身内とあってそう簡単に割りきれる事では無いのだろう。
私も中学生迄は悩みに悩んだ事だから。
「うん……で、でも……やっぱりそう言ったネットとかでの話を聞くと……少し後悔しているのも事実なんです……でも好きだから……また求められたら私……どうしていいか」
彼女は泣きそうな声で言葉を詰まらせながら必死な思いを伝えて来る。
「そうね、私はその記事の事は詳しく知らないけど、多分子供の頃にとか、我慢してたとかって言葉が入ってるんじゃ無いかな? でも今回の件と委員……三本さんが見たって言うネットの記事の話とは別だと思うよ? 勿論無理やりなんてあり得ないけどそれって身内だろうと他人だろうと論外でしょ? 兄妹だから酷く傷付いたって、そんなの他人とだって同じくらい傷つくに決まってる」
「……」
「勿論分別の分からない年齢なら同意だとしても駄目だけど、高校2年ともなれば当然自分の気持ちも相手の気持ちも理解している上での話だよね? それなら、それ事態は問題にならないと思うんだ」
「……はい」
「今、貴女が問題にしている事は相手が兄という倫理的な問題だよね? だから貴女が読んだネットの記事とかと別に考えなければならないと思うの」
「そ、そう……です……よね」
「そう、でね、これは私の意見だけど、あくまでもね……私はね……好きなら仕方ないって思うんだ。人ってね好きって気持ちは様々で、委員長は知らないと思うけど植物や昆虫や動物、音楽や有機物や食べ物に性的興奮をする人がいるの」
「はい…………えええええ?」
「そう、信じられないよね? 委員長は所謂ブラザーコンプレックスっていう種類に該当するんだ、そしてねそんな人世界中にごまんと居るの」
そう貴女の目の前にも……。
私は言いたかった、私達は仲間だって……でも私とお兄ちゃんは彼女と同じクラス、流石にそれは口が裂けても言えない。
「ただ父親でも母親でも兄でも姉でも妹でも弟でも私は好きならありだって思う。……そう聞くと気持ち悪いって思う人も居るのは事実。でも、だからね、お互いがどう思っているかが大切だと私は思うの」
私は自分に言い聞かせる様に彼女に向かってそう言った。
「そ、そうですよね」
彼女の顔が一際明るくなった。
その表情がとても綺麗で美しくて、ああ、この笑顔で彼女のお兄さんも墜ちてしまったのだろうと想像出来る。
「えっと、じゃあさ、参考迄に聞かせて貰えるかな? 三本さんのお兄さんとの恋ばな」
「え?」
「はあはあ、良いよね? 凄く聞きたい、詳しく、勿論誰にも言わないから、詳しく、kwsk!」
「し、栞さん?!」
私は必死に懇願し詳しく彼女の話を聞いた。
そして残念ながら彼女とお兄さんとの関係は兄妹ではなく厳密には従兄に分類される物だった。
ああん、仲間だと思ったのにいい!
ただ、二人は子供の頃から両親に、血が濃くなるから付き合うのは駄目だって言われ続けていたらしく、前途多難な恋愛には違いない。
幼馴染みで従兄で兄妹の関係……ある意味私とお兄ちゃんよりも複雑だ。
その後美月ちゃんが帰宅するまでの数時間、彼女とお兄さんの恋ばなをじっくりと聞き出した。
その話はいつかどこかの誰かが、書くかも知れない。




