75-1 委員長からの告白
仄かに香る沈丁花。
春の匂いもそろそろ終わりかけ。
私とお兄ちゃんは公園を出るとなるべく人通りの少ない所を通り、手を繋いで家の前まで歩いて来た。
そろそろ下校時間だ。
学校をサボって兄妹仲良く手を繋いで歩いている所なんて見られたら、私達の関係を疑われてしまう。
この恋は人には言えない、この恋愛は誰にも言えない。
ここに来て、友達の多い事がハンデに感じる。
今までなら、兄妹で手を繋ぐ位平気だって思っていた。
でも実際正式に付き合うって事になったら、それさえも不味いかもって思うようになってしまう。
これからは細心の注意を払わなければならない。
そう思っていると、家の前には早速我が校の制服姿の女子が見えた。
私達は慌てて手を離す。
「あ!」
その女子は虚ろな表情で家の前に佇んでいたが、私達を見るとホッとした表情に変わった。
その女子は知っている顔だった。
クラス委員の三本早苗さん、彼女は少し重そうに鞄を3つ抱えていた。
「三本さん? あ、もしかして」
私とお兄ちゃんは慌てて彼女に駆け寄ると鞄を2つ受け取った。
「大丈夫ですか?」
私達が鞄を受けとると彼女はそわそわしながら、心配そうに私達を見つめそう言って来る。
いやそれはこっちのセリフ、教科書が入った鞄を3つも持って歩いて来るなんて……。
まあ、お兄ちゃんの鞄には、ほぼ何も入って無いとはいえそれでも結構の重さになる。
「うん大丈夫」
勿論私達が学校をサボり二人揃って帰った事に対して言ったセリフだってわかっている。
私はそう言うも、彼女は依然として何かそわそわしていた。
「えっと、とりあえず上がっていく?」
このまま帰すわけにはいかないと私は彼女を家に誘った。
本当は美月ちゃんが帰ってくる迄お兄ちゃんとイチャイチャしたかったけど。
「良いんですか?」
彼女は私よりもお兄ちゃんの方を見ながらそう返事をした。
お兄ちゃんを見ると私の方を見てウンウンと頷く。
「大丈夫、コーヒーでも飲んでいって」
彼女にそう言い3人で家の中に入った。
中に入ればそわそわが止まるとそう思っていたが、彼女は依然として何か言いたげな表情だった。
まあ、お兄ちゃんが授業をサボり私が慌てて教室を出て行って放課後まで戻らなかったのだから仕方ないだろう。
恐らく委員長として皆を代表して確認しに来たが、二人仲良く家に帰って来れば一連の行動に疑念が生じてもおかしくない。
もし、彼女が私達の関係を疑っているのだとしたら、お兄ちゃんは動揺してしまうかも知れない。
ここは文字通りお茶を濁して帰って貰おう、そう思い彼女を再度見ると、彼女は私に何かを訴える様な目でじっと見つめて来る。
この目は……私に何か重要な相談を持ちかける時のそれだ。
経験上友達からの相談を受ける際、こうい目をしている人は大抵かなりな悩みを抱えている事が多い
「お、お兄ちゃん、えっと三木さんが私に相談したい事があるらしいから」
私は二人っきりにしてと、お兄ちゃんに目配せしながらそう言った。
お兄ちゃんは一瞬戸惑うも直ぐに私の思惑を理解したのか「そっか」と一言うと、残っていたコーヒーを手にしリビングを後に部屋に戻って行った。
ああ、以心伝心……お兄ちゃん好き。
「ご、ごめんなさい」
彼女は少し驚きの表情を見せつつ、そう言って私に謝る。
「ううん」
「どうしてわかった……ってそうですよね、栞さんですものね」
「うん、まあ……お兄ちゃんが居ると言いにくいのかなって」
「……すみません、栞さんの相談って、その順番ですよね?」
「え? ううん、そんな事無いよ」
私はブンブンと首を振る。
「で、でもクラスの子たちはそう言い言ってたから」
「皆、私に気を使ってそう言ってるんだよね、本当にごめんなさい」
「いえ、じゃあ……聞いてもらっても良いんですか?」
「うんうん、全然、私で良かったら」
軽い話ならメール等で受ける事が多い、ただ重い話は直接される事が多い。
さっきも言ったが恐らく簡単な悩みでは無いのだろう。
私は真剣な表情でタイミングを伺う彼女の言葉を待った。
彼女はそわそわしながら自分を落ち着かせる為に何度かコーヒーを飲む。
そして、手を膝の上に置くと意を決するかの様に、真剣な顔で私に向かって言った。
「し、栞さんは……お兄さんの事好きですか?!」
彼女から放たれた言葉に私の頭が急速に回転を始める。
これはやはり私とお兄ちゃんの関係を疑っているのか?
だとしたら何で? 脅される様な事はしていない。
は! も、もしかしたら……三木さんはお兄ちゃんの事が?!
うう、また敵が……さすがお兄ちゃん。
でも、だとしたらどうする? 私達が付き合ってる事は勿論内緒だ。
お兄ちゃんは私の物だとは言えない。
とはいえ、今彼女がお兄ちゃんに告白したところで、答えは見えている。
諦めて貰うしかない。
どうするか、どう言えば彼女お兄ちゃんを諦めてくれるのか?
例えば……『お兄ちゃんは男の人にしか興味が無い』とか?
いやいや、これは嘘だ……多分。
『お兄ちゃんは子供にしか興味が無い』
うーーんこれはあながち嘘では無いけど、お兄ちゃんが社会的に抹殺されてしまう。
お兄ちゃんは2次元にしか興味が無い……。
うーーん、お兄ちゃんを落として迄諦めさせるのは駄目だ。
はっきりと『お兄ちゃんは妹にしか興味が無い』と言えたなら……。
「あの……栞さん?」
「あ、ごめんなさい」
数秒の間だと思っていたが、それなりに時間が経過していたらしく、彼女は心配そうな顔で私の名前を呼んだ。
「えっと、続きを言っても良いですか?」
「あ、ええ、お願い」
ああ、どうすれば……。
私は考えを纏められないまま、彼女の悩みを聞く。
「私……この間──初体験を、してしまったんです」
はあああああ、良かったああ、お兄ちゃんの事じゃなかった~~。
っていうか、こんな真面目そうな人に迄先を越されたかあぁぁーーぐぐぐぐぐ。




