74-8 お兄ちゃんに告白されたんだがお兄ちゃんと付き合ってどうするんだ?
どうしよう、まるで電気が走り抜ける様に、身体の芯から痺れが全身を駆け巡る。
お兄ちゃんとの恋愛が楽しくて仕方がない。
この人に、どこまでも尽くしたい。
いっそ殺して欲しい……そんな感覚に陥る。
当たり前だけど、そんな事をさせる訳にはいかない、
私も、もっとこの幸せを楽しみたい。
だから、せめてお兄ちゃんに虐められたかった。
どんなお兄ちゃんでも愛せる自信があるという事を示したかった。
お兄ちゃんが喉が渇いたと申させれたので急いでジュースを買いに行く。
勿論、お兄ちゃんの好みはわかっているけど、それだけじゃ足りないと持てるだけジュースを買って走った。
「お兄様買って参りました」
「……お、おせえよ」
「申し訳ありません」
ふわああああ……イケイケのお兄様も超超超素敵。
お兄様は鋭い眼光で射抜く様に私を見つめる。
ああ、素敵、もうこのまま地面に引き倒されてぼこぼこに蹴られたら、どれだけ幸福が味わえるのだろうか?
勿論そんな事はされる筈もなくお兄様は私の持っていた缶コーヒーを乱暴に奪い取ると一気に飲み干した。
そしておもむろに立ち上がると私の手を引っ張り、木陰に連れ込まれる。
「え?」
私はそのまま木に押し付けられ壁ドン、いや、木ドンされた。
「お、お兄様……」
ああ、来る……お兄様のお怒りが?!
どうされるんだろうか?
ここから膝蹴り?
ビンタ?
まさか?! 無理やり……。
わくわくしながらお兄様の次の一手を待っていると……。
「栞…………すまん限界だ」
お兄ちゃんは眉間に皺を寄せ、しょんぼりとした表情でそう言って来る。
「え? ええええええ? もう?!」
「無理だ無理無理、俺に栞を虐める事なんて無理なんだよお」
「お兄ちゃん……」
「ただでさえ好きすぎるのに、彼女になって益々好きになった今の俺じゃ、こんな事続けるなんて絶対に無理だよお」
情けなくも可愛い表情でお兄ちゃんは私の肩を掴み必死にそう懇願してくる。
「もうううう、えっと……じゃあ……お兄ちゃんのしたい事でいいよ」
「したい事……」
「そう、私の願望は無理だって言うなら、誕生日祝いの時みたいに、お兄ちゃんの願望を叶えるのが筋かなって、彼女に叶えて貰いたい事って意味で」
誕生日の時の話は内緒で。
「なんか筋違いな気もするけど、俺の彼女への願望か……うーーん……」
「わくわく」
私はピンクの髪の少女の様に期待しながらお兄ちゃんの言葉を待った。
「…………抱き枕かな」
「……ん?」
「今夜……抱き枕になって欲しい……とか?」
お兄ちゃんは数分考えた末に私にそう言った。
「そ! それってつまり?! せっ」
「ち、違う! ただ単純にだ」
「わ、私は……脱げば良いの?」
「だから違う」
「ああ、ほらお兄ちゃんの持ってるエッチな薄い本に挟んであったチラシみたいに表はバニーで裏は裸の女の子みたいな奴でしょ?」
「ちちちち、違う! あれはたまたま入ってただけでって、栞あれをどこで?! まさか俺の最終防衛ラインまで」
「さすがに難しかったよお兄ちゃん、まさかカーペットの下に隠すとは」
「うわあああああああ……」
お兄ちゃんは壁ドンスタイルを崩すと、頭を抱えて私の足元にしゃがみ込む。
「大丈夫だよお兄ちゃん、私はどんな行為も受け入れる準備があるから、あの同人みたいに、あの同人みたいに! ってこう言えばいいんだっけ?」
オタクさんの用語難しい。
「しなくて良い、違う、そうじゃない、普通に添い寝、添い寝して欲しいだけだから」
お兄ちゃんは私を見上げると必死にそう言い訳めいた台詞を口にする。
「そんなんで良いの?」
私はお兄ちゃんの目線に合わせしゃがむと、その柔らかい髪をゆっくり撫でながら子供に着崩れ様に優しくそう言った。
「あ、ああ……」
お兄ちゃんは顔を真っ赤にして私にそう言うと目を反らす。
「それがお兄ちゃんの願望なの?」
「……うん、子供の頃にさ、そうやって一緒に寝てた娘とがあったよな、なんかさ、父さんと母さんが仕事で居なくて不安だったけど……そうやって二人で寝てた時はそんな不安もなくぐっすり寝られてさ……彼女に対してって感じじゃないけど、でも栞だから」
「……うん」
そう、子供の時のあのお兄ちゃんの温もりと匂いは、今でも鮮明に覚えている。
特にお兄ちゃんの胸に抱かれた時の安心感はどんなアロマよりもどんなセラピーよりも癒された。
私は直ぐにドキドキに変わってしまったけれど。
「じゃ、じゃあ、今夜?」
「う、うん」
「えへへへへ」
「な、なんだよ?」
「ううん、楽しみだなあって、なんか昔を思い出すよねえ、ああ、可愛いお兄ちゃん、今でも勿論可愛いけど」
私はお兄ちゃんの頭を撫で笑いながらそう言った。
「か、可愛いのはお前だよ!」
「ええ? お兄ちゃんの方が可愛いよお」
「男に可愛いは誉め言葉じゃないし」
「格好可愛よい?」
「格好良いって言われたい」
「格好いいよお兄ちゃん」
私達は木陰で座り互いに見つめ合う。
そして、二人で周囲を見回すと、本当に軽く、触れるか触れないか程度で唇を合わせた。
その行為にお兄ちゃんは真っ赤な顔で俯いた。
「お、お兄ちゃん真っ赤だよ」
からかい気味にそう言うとお兄ちゃんは私をじっと見つめ「栞もだよ」と、そう言い返した。
「え? ええ? そ、そう……えへへへへ」
うん、そうだね、なんか……逆に照れるよね。
私達はそのまま見つめ合い、そして同時に大笑いした。




