74-6 お兄ちゃんに告白されたんだがお兄ちゃんと付き合ってどうするんだ?
妹と二人でファーストフード店を後にする。
繁華街のお昼時、サラリーマンがランチを求め急ぎ足で歩いていた。
平日まだ午後の授業が残っているので学生の姿は殆ど見かけない。
そんな中俺は妹の手をそっと握る。
「うへへへえ」
妹が少し不気味な声で笑うと、赤い顔で俺を見上げる。
うんうん可愛いなあ……。
そんな可愛い妹を見ると俺も自然に笑顔になってしまう。
今まで恋愛物の漫画や小説をずっと読んでいた。
まあ、勿論それ以外も読むが、自身が主人公の気分で読むのは恋愛物だけだ。
中二病でも無い俺はアクションや異世界、SFなんかは面白いとは思うが今一入り込めない。
やはり一番現実味のあるラブコメなんかは、かなり入り込んで読んでいた。
勿論、エロ漫画の類いもそこに含まれるが……。
まあ、それは置いといて、そう言った理由で恋愛のシチュエーションには憧れを抱いていた。
もしも彼女が出来たなら……俺はどう行動するかってずっと想像していた。
そんなキモい俺だが、色々な理由から彼女が出来ないでいた。
そこに妹の告白というチャンスと言っても良い事が訪れる。
妹と恋人のような事を1年間ずっと行って来た。
俺はその時、いつか自分の彼女が出来た時の練習だと、そんな考えでいた。
そして恋愛小説の時とは違い、相手は妹だってそう思い、心底楽しんではいなかった。
でも、今は違う、隣に歩いているのは正真正銘俺の彼女なのだ。
今、俺の心臓は早鐘の様にドクドクと打ちまくっている。
手のひらから伝わる妹の体温に、すべすべした手のひらの感触に俺は興奮している。
加えて妹の髪から漂う甘いシャンプーの匂い。
同じシャンプーを使っているのに、何故か俺自身の体臭とは違う甘い香りだ。
楽しそうに鼻歌を奏でる妹を、俺は思わず抱き締めたなってしまう。
焦るな、今は堪能しよう……この喜びをこの楽しみを。
季節はまだ肌寒い日々だが、今日は晴天で過ごしやすい気温だった。
「あのさ……ちょっと公園とかどう?」
「いいね、いいね、お兄ちゃん!」
乗り乗りの妹は、満面の笑みで俺の手を強く握った。
「そういえば、お兄ちゃんって呼び方でいいのかな?」
妹は少しニヤニヤしながら俺にそう聞いてくる。
「え?」
「祐くん? の方がいい?」
首をかしげて少しあざとく妹は俺の顔を覗き込む。
「え、ああ、うーーん」
確かに恋人同士なら名前の方がしっくり来るが、相手が栞ならお兄ちゃん呼びの方がしっくりする。
「いいよ、そのままで」
俺がそう言うと栞は少し残念そうな顔になるが、直ぐに元の笑顔に変えると、俺の手を一度離す、
そして今度は栞から手を繋ぎ返してくる。
「へへへ、だね、お兄ちゃん呼びの方が背徳感があって良いかも」
そう言うと妹は握り方を恋人繋ぎに変え、ブンブンと俺の腕と共に大きく振った。
「背徳感って……」
「ただの恋人同士じゃ出来ない感覚を楽しむのも良いと思う」
栞はそう言いながら繋いでいる反対の手を目の前に掲げ、親指を上に向けた。
「ぷ、ぷははは」
その完全に開き直った栞の言葉に俺は思わず吹き出してしまう。
「何よお兄ちゃん!」
「いやいや、確かにそうだなって思ってさ」
そう、俺達が兄妹というのはどうしようも無い事なのだ。
ならばそれも含めて楽しんでしまえという栞の開き直りとも言える言葉に、俺は安堵の様な笑いが溢れてしまった。
兄妹である事の安心感、普通のカップルは結婚しても所詮は他人、紙切れ1枚で縁が簡単に切れてしまう。
俺達はどこまで行っても兄妹なのだ、でもそれはある意味夫婦以上の関係だと言う事になる。
兄妹という安心出来る繋がり、そこに新たに恋人というバフが掛かり最強の関係が構築される。
開き直ってしまえばこんなに強い絆の恋人は他に居ないだろう、
俺達はハイテンションの状態で公園に入りベンチに腰かけた。
周囲は昼休みの休憩で休んでいる会社員、そしてお弁当を広げのんびりとランチを楽しむ女性グループ等がいた。
その中で平日制服姿の高校生カップルである俺達がベンチに腰掛ける。
しかしそんな俺達を気にする者は殆ど居なかった。
「良い天気だねえ」
「そうだなあ」
ベンチにゆったりと座り、恋人繋ぎをしながらのんびりと空を見上げる。
ゆっくり動く雲、時折小鳥が視線を横切って行く。
時間がゆっくりと進むが、退屈する事は無い。
さっきまでドキドキしていたが、今はいつもの放課後ティータイムの様に落ち着いている。
俺はどちらも好きでどちらも楽しめるってそう思った。
栞としか出来ない空間と時間。
栞は俺の肩に頭を乗せた。
「幸せって……こういう事なんだよねえ」
「そうだなあ」
ずっとのんびり過ごしたいって思ってた。
でも今はっきりとわかった。
栞と二人でこうしている事こそが俺が求めていた物だって事に気が付いた。
栞がいるから安心出来る。
ドキドキする時間があるからこそ、こうして落ち着ける。
ずっと休日だと、休みが楽しめないってのと同じ感覚じゃないかな?
栞は頭を上げ俺をじっと物欲しそうに見つめる。
その表情に再び心臓が高鳴る。
俺に意図が伝わったと確信した栞はそっと目を閉じた。
俺は周囲を見回すと、素早く栞の目の横に軽く唇を当てた。
「……うう、お兄ちゃんのケチ」
「いやいや、さすがにここでは」
「じゃあ……他の場所なら良いの?」
「誰も見ていないなら」
俺がそう言うと栞は素早く立ち上がり俺の手を引っ張る。
「お兄ちゃん! そこの木陰に!」
「いやいやいやいや」
ただでさえ栞は友人が多い、こんな昼間から人前でそんな事をしたらヤバいだろ。
楽しい、物凄く楽しいのだが、俺達の関係がもしバレたら……一体どうなってしまうのだろうか。




