74-5 お兄ちゃんに告白されたんだがお兄ちゃんと付き合ってどうするんだ?
実の妹と恋に落ちるバカなんているのだろうか?
はい、ここに居ます。
「気持ち悪い!」「あり得ない!」「お前じゃあ母親にもそういう感情が湧くのか?」
そんな事を思う輩もいるだろう。
じゃあ、そんな事を言うお前に聞く。
妹が、いや、母親でもいい、姉でもいい、そんな肉親が目の前にいるとする。
その人がいつも好き好きと言いながら近寄って来るとする。
兄妹や姉弟や親子の相手は自分の悪口なんて決して言わない。
いつも自分の事を最高だ、カッコいいだって言われていれば、当然好きになりこそすれ嫌う理由なんて無いよな?
そしてその相手がめちゃくちゃ可愛かったら?
もしも母親が、姉が妹が、自分の好みのタイプだったら?
その辺のアイドルを束ねても敵わないくらいの可愛さだとしたら?
容姿端麗、成績優秀、才色兼備で自慢の出来る最高の人だったら?
そして、そんな妹が、もしも自分の事が好きだと、愛してると告白してきたら?
どうだ? それでも全く考えられないって言ってる奴は、これを読んでいないだろけどな?
まあ、メタな話は置いといてだ、実際そうなって俺は完全に理解した。
これは開き直りと言ってもいい。
可愛くて最高な妹がもしも他の男と付き合ったら、俺は多分泣くと思う。
でもだ、それでもその男が妹にとって最高な男だとしたら、俺は祝福するだろう。
兄として当然応援しなければいけない。
そして栞は、最高だと思う男が……俺だと言うのだ。
つまり、これを祝福しないなら、応援するって話は噓になるって事になる。
ここまで全部栞のせいにしているが、俺もまたずっと栞が好きだった事に気付かされた。
このずっと栞に対して抱いていた気持ちが、この感情が兄妹愛では無いって事に気付いてしまったのだ。
両思い……自分の愛する人と両思いになったのだ。
そう……俺は遂に自分の好きな人を見つけたのだ。
恋をする事に憧れていた、でもこんな感情になったのは初めてだった。
まあ、憧れと言う気持ちで言えば、白井先生が最初だったんだけど。
とにかく、人が人を好きになるのは物凄く尊い事なのだ。
俺は世界数十億人の中から一人を選んだって事になるわけだ。
その人がたまたま俺の直ぐ近くにいた妹だったってだけの話だ。
長く艶やかな黒髪、大きくつぶらな瞳、可愛らしい鼻、ピンクで柔らかな唇。
手足が長く、ウエストは括れ、胸はやや慎ましいが整った形をしており、お椀型で先端がピンと上を向いている。
料理も抜群に上手く、スポーツ万能、勉強は学年トップ。
友達は数えきれない位いる。
完璧な人間。
時々ポンコツな所を見せるのも俺だから、兄だから、身内だからだろう。
そして俺自身も、そんな完璧な女子と付き合おうって思ったのは、妹だからだ。
男尊女卑なんて考えは無いが、男としてのプライドという物は少なからずある。
何もかも自分より優れているという女子の事を、果たして好きになれるだろうか?
恐らくなれないって、俺はそう思っている。
でも妹ならばそんなプライドは存在しない。
兄として妹に勝ちたいなんて思った事は一度も無かった。
妹を褒める事が何よりも幸せな事だった。
そして栞も俺にマウントを取る事は決して無い。
いつも『お兄ちゃんのおかげだよ』『お兄ちゃんが応援してくれるから頑張れるんだよ』って言ってくれた。
そんな妹に嫉妬する筈も無い。
今までの人生、妹は俺のおかげと言う。
勿論俺もそう思っている。
これから先、俺達の恋はどうなるかわからない。
ここまで言っておきながら、当然人には言えない付き合いと言う事も重々承知の上だ。
栞に対する責任も、一生背負っていくつもりでいるが……まだそこまでの完全な覚悟は出来ていない。
自分の事はどうでもいい、ただ巨大な才能の塊である栞の将来を潰す覚悟は、俺にはまだ無い。
今はこの恋愛に浮かれているが、この先少しずつ冷静になればいつかこの決断を後悔するかも知れない。
だから……今は、まだ……栞に対して取り返しのつかない事は出来ない。
栞を傷付ける事は出来ない。
今は……まだ。




