74-3 お兄ちゃんに告白されたんだがお兄ちゃんと付き合ってどうするんだ?
制服デート、まあ、毎日デートしていた様なものだけど。
ただ、ずっと押し付けていた様な罪悪感があった。
お兄ちゃんは優し過ぎるから私を傷付けまいと、仕方なく付き合ってくれているってそう思っていた。
でも、それでもこの手を離そうとは思えなかった。
お兄ちゃんに好かれる様に毎日毎日努力し続けた。
そしてそれを免罪符として、お兄ちゃんを拘束していた。
しかし、今はその不安が一掃された。
仕方なくという言葉は私の中から消え去った。
とはいえ、これからが本当の勝負なのだ。
私達にはこれ以上束縛できるアイテムは無い。
結婚と言う最強のアイテムは使えないのだから。
でも、その代わり私達には兄妹という繋がりがある。
結婚なんかよりも強く硬い繋がりだ。
離婚の出来ない関係、一生繋がっていられる最強のアイテム。
ただ今まではそれに、あぐらをかいていた。
兄妹だから許されるって、お兄ちゃんが困る様な事も無理やりやって来た。
でも私は今お兄ちゃんの彼女なのだ。
今までの様に自己満足での行動は慎まなければいけない。
彼女の自覚、恋人としての自覚。
「栞?」
私が不安そうな顔をしていたからか?お兄ちゃんは手を繋ぎながら心配そうな顔で覗き込む。
「ううん、なんか幸せ過ぎて……」
私は首を振ってお兄ちゃんに笑いかけた。
人間、幸せすぎると反って不安が過る。
不幸の閾値が極端に下がる。
どんなに恵まれた人でも、自尽する人がいる。
夢が叶ってしまった後に来る燃え尽き症候群のような感覚が私を襲ってくる。
でも、大丈夫。
目の前にいるお兄ちゃんを見れば、直ぐに身体の底から幸福感が溢れて来るから。
そう、これはいわゆるマリッジブルー的な物なのだ。
「お兄ちゃん……あーーん」
私は笑顔を取り戻し、お兄ちゃん向かって口を開く。
「え?」
「あーーーん」
「ははは、そっか」
お兄ちゃんはそう言うと私から手を離し。
「駄目」
「え?」
「離しちゃ駄目」
「いや……っ」
お兄ちゃんはそう言うと周囲を見回し、手を使わずテーブルに置いてあるポテトを咥えると、そのまま私に差し出す。
「ん、おいひい」
お兄ちゃんから口移しでポテトを一本咥えるとムシャムシャと頬張った。
「全く栞は……どんだけ可愛いんだよ」
お兄ちゃんが満面の笑みでそう言った。
うんうん、喜んでくれる。
バカップルのような行為、今のお兄ちゃんはそれをしたがっている。
私のせいで彼女が作れなかった反動なのだろうか?
「じゃあ……おかえひね」
私はそう言いながらお兄ちゃんと同様に、手を使わずポテトを咥えるとお兄ちゃんに向けて突き出した。
「いや、み、短くね?」
見えている範囲で最も短いポテトを差し出すと流石にお兄ちゃんは躊躇する。
「はやふう」
私は目を瞑りながらそう言ってお兄ちゃんを急かす。
「じゃ、じゃあ」
お兄ちゃんはそう言って私の口からポテトを摂取する。
その時、ほんの少しだけ唇が触れた。
「えへへへへ、チューしちゃった」
「さっきもしただろ」
「何度しても良いものだよねえ」
「……ま、まあそうだけど」
照れたお兄ちゃんはとてつもなく可愛い。
しかしそんな笑顔も束の間、お兄ちゃんは突如意を決した様に、さっきよりも真剣な表情で私を見つめる。
「え?」
「栞……俺にもプライドってのがあってさ、今までずっと言えなかった事があったんだ」
「お兄ちゃん? な、何かな」
なんだろうか、さっき打ち消した不安が再び沸き上がる。
「でも、俺達の将来にも関係があるんだ、今後一緒に居られなくなるかも知れない重要な案件……」
お兄ちゃんは更に真剣な顔で私に向かってそう言ってくる。
「い、一緒に居られないって」
そんな……これからはずっと一緒だって……そう言ってくれたのに。
「今までこれだけはって躊躇していた。でも、もう俺はそういうのは止めることにした。栞とこれからもずっと一緒に居たいから」
お兄ちゃんは私の手を強く握りしめた。
「な、何でも言って、大丈夫……私は平気だから」
何を言われても大丈夫、これは未来への架け橋、お兄ちゃんと歩くバージンロードなのだから。
私は覚悟を決めてお兄ちゃんの言葉を待った。
そしてお兄ちゃんは2度深呼吸してから私に向かって言った。
「大学受験の為に、勉強を教えてくれ」
「……へ?」
「ずっと言えなかった……言いたく無かった、でももうプライドとか気にしてる場合じゃない」
「えっと、お兄ちゃん? 私お兄ちゃんと同じ所受けるつもりだけど?」
高校だってそうだったし。
「いや、駄目だ! 俺の為にレベルを落として受験するのは絶対に駄目だ!」
「私は別にどこでもいいって思ってるんだけど?」
お兄ちゃんが受験しないのなら私もするつもり無いし。
そもそも私の実力通りの学校って言われても、多分どこの国立でもなんなら理3でも受かる自信あるし。
まあ、美月ちゃんには負けるけど。
「俺は栞と同じ大学を受ける!」
お兄ちゃんは私から手を離すと拳を握りしめた。
「まあ、勉強見るのは全然良いんだけど……」
「……けど?」
「勉強になるかなあ?」
「ん? 何でだ?」
「えっとね、勉強するって事はお兄ちゃんの部屋か私の部屋でするって事だよね?」
「ああ、まあ、それが一番集中出来るからな」
「でも……お部屋で二人っきりになったら……勉強にならないかも」
私は誘う様に上目使いではお兄ちゃんを見つめそう言う。
「な! そ、そんな事しない!」
「えーーしないのおぉぉぉ?」
「いや、全くしないわけではって、だ、駄目駄目」
「ええええ?! それじゃ今までと変わらないよ~~」
私達は正式に付き合ったけれども、今までしていた事を越えるには、当分先になりそうだ。




