72-10 シスコンの兄
さっきまでの喧騒はどこへやら、静まり帰る部屋。
私のベッドでスヤスヤと眠るお兄ちゃんをじっと見つめる。
可愛い可愛いお兄ちゃんが頭の中をぐるぐると駆け巡る。
「最高だったなあ……」
私に興味があったと言ってくれたお兄ちゃん……こんな幸せな事があるだろうか?
妹で良かった反面、妹だからと苦虫を噛み潰していた。
一緒にいられる喜びと、どこまで行っても妹という立場から抜けられない悲しみ。
でも、まさかお兄ちゃんが私を女の子として意識していたなんて。
「あふわああああ……」
ああ、目の前のお兄ちゃんを抱き締めたい。
チューしたい。
それ以上の事もしたい。
でも……美月ちゃんに言われている。
『お姉ちゃま、言っとくけど今お兄ちゃまは元の年齢にじっくり戻っているのだから、途中で起こしちゃ駄目だからね? じゃあおやすみ~』
そう言ってあくびをしながら自分の部屋に戻っていった。
そう……今私は生殺し状態。
私も昨日はお兄ちゃんと……色々あったから殆ど寝ていない。
今目を瞑っても恐らく寝れないだろう。
まあ、そんなもったいない事はしないけど。
眠っているお兄ちゃんをじっくりと見つめられる。
こんな幸せな事はない。
全然眠くない……お兄ちゃんを眺めていると、身体からがβ-エンドルフィンやドーパミン、そしてアドレナリンが生成されるから。
お兄ちゃんの事を考えれば何でも出来る。
勉強だって運動だって、何でも出来た。
私の今があるのは全部お兄ちゃんのおかげ。
私の全てはお兄ちゃんの物、私の人生はお兄ちゃんの為。
窓の外がどんどんと明るくなってくる。
カーテンの隙間から朝日が差し込む。
部屋が明るくなりお兄ちゃんの顔が鮮明に見えてくる。
お兄ちゃんは変わったかも知れない……でもその前に私の気持ちが変わっている。
あれだけ好きだったのに、これ以上無いくらいに好きだったのに……今はもっともっとそれ以上好きになっている。
もしもお兄ちゃんがこの星を滅ぼせと命令したのなら、私は間違いなくそれを実行するだろう。
お兄ちゃんの為なら死ねるってずっと思っていたけれど、今はお兄ちゃんの為なら地獄に落ちたいって思える。
そうしたら、お兄ちゃんの為に何回も何千回も何万回も死ねるから。
阿鼻地獄でも無間地獄でも、お兄ちゃんの為なら喜んで落ちる。
どんな苦しみでも……私は喜んで受け入れられる。
。
でも……もしも嫌われたら、お兄ちゃんから避けられたら……それは地獄以上の苦しみだろう。
耐えるけど……どんな事でも受け入れるけど……それは身体を焼きつくされるよりも辛いだろう。
何万回死ぬよりも苦しいだろう。
お兄ちゃんの目が開いた時……私の運命が変わるかも知れない。
告白した時と同じくらい全身に緊張が走る。
あの時はお兄ちゃんが私を受け入れてくれた。
この1年私にしっかりと向き合ってくれた。
楽しかった……幸せだった。
ずっとグジグジと悩んでいた私をお兄ちゃんが解放してくれた。
だから今度は私の番だ。
新たなお兄ちゃんを受け入れる。
シンお兄ちゃんを受け止める。
怖いけど……でも……大丈夫だよね?
お兄ちゃんなら……大丈夫。
私は信じてる。
お兄ちゃんの事を信じてる。
お兄ちゃんの長い睫毛がピクピクと動く。
微動だにしなかったお兄ちゃんが少しずつ動き始める。
もうすぐ目が覚めるのだろう……。
ああ、心臓が高鳴る。
呼吸が荒くなる。
『お兄ちゃん……お兄ちゃん……お兄ちゃん』
今は祈ろう……いつものお兄ちゃんに戻ってくれる様に。
今は祈ろう……苦しみから解放されていて欲しいと。
そしてあわよくば、また私を見て微笑んで欲しい。
また頭を撫で撫でして欲しい。
いつもの優しいお兄ちゃんでいて欲しい。
お兄ちゃんの目がうっすらと開く。
「お、お兄ちゃん?」
私は目を覚ましたお兄ちゃんにそう呼び掛ける。
「し、しお……り」
お兄ちゃんが目覚めた……私の呼び方がいつものそれに戻った。
可愛いお兄ちゃんから格好いいお兄ちゃんに戻ってくれているようだった。
「お兄ちゃん……大丈夫?」
「…………し、しお、栞?! え? 何で俺はここに、え?」
「お兄ちゃん大丈夫落ち着いて、お兄ちゃんはね美月ちゃんの魔法……催眠術に深くかかっていたの」
「さ、催眠術……」
「そう……でももう戻ったから大丈夫……」
私は泣くのを堪えてお兄ちゃんに事情を説明する。
「えっと……そっか、うん、なんとなく覚えてる……」
自分が子供に戻った事が恥ずかしいのか? お兄ちゃんの顔が少し赤くなっている。
「そっか、気分は? もし悪かったら今日学校を休む?」
「い、いや……大丈夫……」
「そっか、じゃあ今から朝食作るから」
「あ……いや、うん、今日はいいや、とりあえず部屋に戻るよ」
「そっか……」
「ああ、ごめんな」
「ううん……いいよ」
お兄ちゃんはそう言って微笑むと少し慌てる様にベッドから降りそのまま部屋を後にした。
そのお兄ちゃんの姿を見て……私の背筋が凍りつく、
お兄ちゃんの様子がおかしかったから、
「お兄ちゃん……私から目を反らした……私を全然見てくれなかった」
笑顔もかなりぎこちなかった。
頬がひきつり、無理やり笑っているようだった。
そして私を避ける様に……振り返る事なく部屋を後に……。
私はわかってしまった。
間違いなく……お兄ちゃんに避けられている事が……一目でわかってしまった。
連続更新終了します。
かなり古い作品なのでアクセスも全然増えなくなっている(つд;*)
まあ、趣味全開の作品なので、終わらない宣言もしているし
仕方ないですねえ(^_^;)))




