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72-8 シスコンの兄


 未だにピーンピーンと泣いているお兄ちゃん。

 その泣き方にキュンキュンしているが、今はそれどころではない。


「でも、良いのお姉ちゃま」

 美月ちゃんと協力し、お兄ちゃんを元に戻す事にしたが、それを再度確認するかのように私にそう聞いてくる。


「良いのって?」


「お兄ちゃまのトラウマを解消したら、お姉ちゃまとの関係が悪くなる可能性もあるんだよ? それに今迄はとことんまで優しかったいけど、それはお姉ちゃまに対するトラウマのせいでそうなってた可能性もある。つまりそれも無くなるかも知れないんだよ?」

 美月ちゃんは心配そうに私を見つめる。


 本当にこの子は、生意気で頑固で目上の私を敬う気持ちなんて1mmもない癖に、私と同じくらいにお兄ちゃんが大好きな癖に……。


 ライバルな筈なのに……本当に憎めない、憎らしいけど憎めない……可愛いし頭が良いし……お兄ちゃんが大好きな筈だよ……、もう……ずるいなあ。


「それは美月ちゃんだって一緒でしょ?」


「それは、そうだけど……」


「大丈夫だよ、どんなお兄ちゃんになったとしても、私は好きでいられるよ」


「そっか……」


「てか、それはお兄ちゃんが元に戻った時に考えればいいでしょ?」

 捕らぬ狸の皮算用だよね。


「今のままで元に戻す方法だってある……かも」


「でも、それだとお兄ちゃんはトラウマで苦しんたままって事でしょ? 私は……例え嫌われたとしてもお兄ちゃんの悩みや苦しみを取り去ってあげたい」


「……そうだね」

 美月ちゃんは天使の様な笑顔でそう答えた。

 はあ、お兄ちゃんがロリコンになるわけだ……。


 とりあえずこれが済んだら髪型をツインテールにしてみようと決め、泣いているお兄ちゃんに対峙する。


「それで……どうすれば?」


「……さあ?」


「は? 何か考えがあるわけじゃないの?」


「なーーんにも」

 美月ちゃんが両手を上げて笑った。


「ちょっとノープラン? だったらやっぱり私が脱いで」


「だーーかーーらーーそれは駄目」


「何でよ! 今わからないって」


「悪いやり方はわかるよ、お姉ちゃまだってわかるでしょ?」


「ぶううううう」

 確かにそうだけど……。


「とりあえずお兄ちゃまは今の状態迄自ら望んでやってるの、でも幼児退行は恐らく止まっていない、暴走しているのと同じって事」


「それって……」


「さっきも言ったけど、お兄ちゃまにとって今にこの状態は過去になってしまうの。つまりこのまま何もしないでお兄ちゃまが泣き止んだら……もうトラウマは解消されないって事」


「泣き止むイコールさらに幼児化したって事ね」


「わからないって言ったのは、美月には出来ないから……お兄ちゃまのトラウマを解消出来るのはお姉ちゃましかいないから」


「そっか……だよね」

 私に対する後悔が原因だから。


「お兄ちゃまがもし泣き止んだら……トラウマの解消はもう無理……後は強制的に戻すしかない」


「強制的にって? 出来るの?」


「今お兄ちゃまは夢を見てる状態なの、だから夢から叩き起こせばいい。でもお兄ちゃまにとって良い所は何も無い……ううん、お兄ちゃまに自我がある以上トラウマを二度経験した事になるから、強制解除はより悪化するかも知れない」


「そっか……とりあえずそれが出来るなら……って、だったらもっと早く解除すれば良かったじゃない!」


「解除のやり方はさっきわかったの! そもそもお兄ちゃまが進んでこうなったんだから止められないでしょ?」


「それは……そうだけど」

 でも危険な目に遭わせてるって自覚は持って欲しいというか、学者肌の美月ちゃんはそう言う事に欠けてるのが怖いんだよね。

 デーモン·コアをドライバー所か割り箸で押さえて平気な顔をしてそうな、そんな恐怖を美月ちゃんから感じてしまう。


「お姉ちゃま、脱ぐのは駄目だからね?」


「自分だってやろうとした癖に……わかったわ」

 不満や突っ込み所は多々あるが、今はとにかく時間がない。

 私はベッドの隅の壁際で泣いてるお兄ちゃんにゆっくりと近づく。


 私の中で対処方法はいくつか思い付いている。

 でもどれを選んで良いかわからない。


 出来る事は一つだけ……失敗したらお兄ちゃんはより傷付いてしまう。

 怖い……お兄ちゃんを傷つける事が……お兄ちゃんに嫌われる事が……怖い。


 でも……告白した時に比べれば……あれ以上嫌われる事なんて無い……あれ以上関係が壊れるなんて無い。

 私とお兄ちゃんには絆がある。

 兄妹としての絆が……。


 底抜けに優しいお兄ちゃんから多少優しさが無くなったとしても平気……。

 ああ、寧ろ少しないがしろにiされるのも良いかも知れない。


 私がベタベタしたらお兄ちゃんが「うぜえなあ」とか言って……ああ、なんかそれはそれでゾクゾクしちゃうかも。

 それでも無理やり引っ付く私に嫌がるも仕方ねえなあって顔で私を見てくれたりして……。

「うへへ……おっと」


 お兄ちゃんが私を嫌う事は無い。

 心の底から拒絶する事は無い。


 それだけは確信してる。


 だから私は決心する。


 自分を信じる……そしてお兄ちゃんを信じると……。


 お兄ちゃんは今は子供なのだ。


 泣いてる子供に対する方法……私はそれを取る事にした。


「お兄ちゃん……ううん、裕くん!」

 私がそう呼び掛けると、目を真っ赤にして未だにポロポロと涙を流すお兄ちゃんが顔を上げた。


 ウサギみたいに可愛い可愛いお兄ちゃん……。


 私は心を鬼にして、お兄ちゃんの頬っぺたを……両手で挟む様に強く強く……叩いた。




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    こちら作品の完全改稿版を書きました         
  超絶コミュ力の妹と陰キャの俺、そんな妹に突然告白され、俺の高校生活がとんでもない事になった。           
  もしよろしかったら読み直してくださいませ(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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