72-5 シスコンの兄
美月ちゃんと喧嘩をしながら、協力しながら、お兄ちゃんをお風呂場で洗う。
誰が前を洗うかで少し時間が掛かったがなんとかお兄ちゃんを洗い流す。
そして更に喧嘩をしつつ着替えさせリビングに赴く。
お兄ちゃんは身体を洗われる事もパンツを履かせられる事も恥ずかしがる事はなかった。
そしてお兄ちゃんは今、リビングのソファーにで座って嬉しそうにアイスを頬張っている。
「これって今……小学生くらい?」
「そうかも……」
美月ちゃんがお兄ちゃんをじっと見つめてそう言った。
「お風呂入る時は中学生ぐらいのお兄ちゃんだったから、また進んでる……」
「え? 中学生って 平気でお風呂に入ってたよね?」
「まあ……実際中1くらい迄は入ってたから……」
半分無理やりで、お兄ちゃんは諦めていたけど……。
「ふーーん、そんな事してたのに、お姉ちゃまは美月がお兄ちゃまとお風呂入るのを止めてたの? 全く」
「だだ、だってその時は、お兄ちゃんも私もまだ子供だったし」
「お兄ちゃまも、お姉ちゃまも……本当に……」
私とお兄ちゃんを交互に見つめ首を振る美月ちゃん。
「お姉ちゃまは、お兄ちゃまのどこが好きなの?」
美月ちゃんは正面のソファーに膝を抱えながら座り、私に向かってそう聞いてくる。
「どこって全部に決まってるじゃない」
「……もっと具体的に言って」
どうやら今回の問題に関係しているらしく、美月ちゃんは真剣な顔でそう聞き返す。
「うーーん、えっとねえ……柔らかくてふわふわしてる黒髪が大好きで、頭の形も撫で撫でしやすくて大好きだし、黒目がちの瞳も子犬みたいでスッゴク可愛くてえ、睫毛も長くて素敵だし、お鼻も可愛らしくて愛らしくて、唇も柔らかくてずっとチューしたくなるし、首も長くて格好いいし、喉仏も男らしくて素敵だし、鎖骨が男の人って感じでドキドキしちゃうし、胸に筋肉が少しついてて抱き締められたいって思うし、腕も逞しくてギュッてしたくなるの、手も柔らかくて大きくて撫で撫でしてくれると天国にいるってくらい幸せになれて、お腹も筋肉と脂肪が凄くいい感じでついてて枕に出来れば安眠間違い無しだろうなって思っちゃうし、お尻もプリっとしてて女の子みたいに可愛いし、(ぴーー……)も日頃は可愛いけどいざってなると凄く逞しいし、太ももは張りと弾力があって膝枕してほしいって常に思ってるし、脛も固くて男の子って感じでグッドだし、足も大きすぎず小さすぎず形も良くて凄く可愛いし格好いい、あとねえ~~」
「……おお姉ちゃま?」
「全体の体型も痩せマッチョ? っていうのかな? あ、でもお正月とかで食べ過ぎて少し太ってお腹ぽっこりしてるお兄ちゃんも可愛いよねええ、時々どんどん太ってぬいぐるみの熊さんみたいになったらもっと可愛くなっちゃうなあって、でもでもこれ以上可愛くなったら私の精神がヤバいから食事には気を付けてるのお」
「そしてね、性格も言わずもがな最高でえ、スッゴクスッゴク優しくてえ。怒る事はなくて、でも私が悪いって時はちゃんと諌めてくれるのぉぉ、切れるなんて事は絶対にないし、そして凄く凄く凄く優しいってのは今さらだけど、私の事を凄く大切にしてくれてるのがわかりすぎるくらいわかるの、それとね」
「お、お姉ちゃま、ご、ごめんその辺で大丈夫……」
美月ちゃんがこめかみを抑えうんざりしたような表情でそう言った。
「えーーーーー?!」
「長いよ、皆辟易しちゃうよ」
「皆?」
「いえ、こっちの事……もう大丈夫だから」
「ええええ、もう! これからなのにいいい、こんなのまだまだ序盤だよ? これからお兄ちゃんの格好いい所と今まででキュンキュンした所を数万文字程度に纏めて言おうと思ってるのに」
「……ごめん……とりあえず本当に大丈夫だから」
全く美月ちゃんから言えって言ったのに! 私は頬を膨らませ不満をアピールした。
「美月ちゃんだってお兄ちゃんの良い所なんて一杯知ってるでしょ?」
「お姉ちゃま程じゃないけどね」
「えへへへ」
「褒めてはいない……」
「……それでお兄ちゃんはどうなるの?」
白いアイスの残りをチューチューと最後まで吸っているお兄ちゃん。
ヤバいよお、何この可愛い生き物。
「まあ、さっき言った通り、どんどん幼くなっていって、最後は赤ちゃんになっちゃう」
「赤ちゃん!……お兄ちゃんが赤ちゃんに! えへへへへ」
「いやいやお姉ちゃま?」
「おっとヨダレが……」
「本当にわかってるの? お兄ちゃまが赤ん坊迄遡ったら、戻るのに相当の時間が掛かっちゃうからね? 学校とかどうするの?!」
「そ、そうだよねえ……でも、さっき中学生でいま小学生でしょ? だったら明日の朝にはもう」
「それは大丈夫、お兄ちゃまは記憶を遡ってる状態なの、子供の頃に覚える事って膨大だからこれから先はゆっくりと進んでいくと思う」
「そっかあ」
「だからって嬉しそうにしない! 全くお姉ちゃまは……」
「子供の頃のお兄ちゃんなんてもう、天使以外の何者でもないからなあ、はああ、可愛い」
私は隣に座る姿は大人、頭脳は子供のお兄ちゃんの頭を撫でる。
お兄ちゃんは私をじっと見つめて言った。
「栞ちゃん、アイスもう一本いい?」
「ああん、1本でも100本でも好きなだけ食べてえ」
私は頭を抱える美月ちゃんと嬉しそうにに笑うお兄ちゃんを見つつ、キッチンにアイスを取りに走って行った。




