72-2 シスコンの兄
私にべったりのお兄ちゃんを引き連れ、お風呂に行く途中美月ちゃんの部屋に寄る。
「美月ちゃん、ご飯どうする?」
そう聞くも「今はいらない」と真面目な声で返事が返ってくる。
どうやらこのお兄ちゃんの状態の事を調べ直しているらしい。
美月ちゃんがこれだけ集中すれば、スーパーコンピューター以上の能力を発揮できる。
お兄ちゃんの状態を少しでも早く改善しようとしているようだ。
まあ……そんなに慌てなくても。
私は心の中でそう呟き、後で扉の前に食事を置いて置けばいいかなとそう思いつつその場を後にした。
そして……私の腕にしがみついているお兄ちゃんと二人で久しぶりに洗面所兼脱衣室に入る。
中に入るとお兄ちゃんは私から離れ直ぐに脱ぎ始めた。
「……えっと」
お兄ちゃんが照れる事なく直ぐに脱ぎ始めるなんて……。
小学生、いやもっと幼い頃以来の事態に私は戸惑った。
そう……何度も入ってるのに、子供の頃から数えきれないくらい。
去年告白してからもまるでイベント事のように、お約束で何度も入っていた。
だけど、最近はお兄ちゃんが先に入り私が後から乱入ってパターンばかりだった。
一緒に脱ぐなんて……しかもこんな堂々と。
ただ戸惑ってはいるが、別に恥ずかしいわけではない。
お兄ちゃんの為に全てを磨いて来た。
お肌のケア、身体のお手入れ、容姿もそれなりに自信はある。
見られて恥ずかしい要素なんて一切無い。
お兄ちゃんの前なら私は全てをさらけ出せる。
でも、服が脱げない……それどころかお兄ちゃんを見る事も出来ない。
「栞?」
いつまでも服を脱がないお兄ちゃんが私を呼ぶ。
その声に反応し、思わずお兄ちゃんを見ると……。
「ひゃう!」
そこには一切隠す事の無い……全裸のお兄ちゃんが立っていた。
見ちゃった……はうわうふぇにゃは。
私は慌ててお兄ちゃんに背を向ける。
「栞?」
名前を呼ばれ反射的にお兄ちゃんを見る……ああ、目のやり場に困る……。
「あ、うん、えっと直ぐ行くから先に入ってて」
私は慌ててお兄ちゃんから視線を反らしそう言った。
「え?」
お兄ちゃんは私と少しでも離れるのが嫌なのだろう、不安そうにそう聞き返す。
「す、直ぐだから、大丈夫どこにも行かないから」
お兄ちゃんの不安が伝わる。どうしてこんな状態になっているのだろうか? 美月ちゃんはお兄ちゃんの中にある物が増長されていると言ってたけど、本当に原因が掴めないし、全く身に覚え無い。
私は後ろを向いたまま、お兄ちゃんにそう言った。
「うん」
お兄ちゃんはまるで小学生がお母さんの言いつけに渋々したがうような言い方で、何度も振り返りながら直ぐ来てねとアピールするようにゆっくりと浴室に入って行った。
『ザバアーー』とお兄ちゃんがお湯を被る音がすると私は少しだけ落ち着きを取り戻す。
「あああああああああああああ、うわあああああああああああ」
落ち着くと同時に声が漏れ出てしまう。
心配するかもと出来るだけ声を抑える。
「と、トキメキが溢れでりゅうぅ」
私はそう呟くとその場にへたりこんだ。
そう……私はお兄ちゃんにトキメキ過ぎて何も出来なくなっていた。
「ああああ、お兄ちゃんどんだけ可愛いのおおおお」
子供みたいな視線、子供みたいな返事……まるで小動物のような姿、その全てが可愛すぎる……。
よく幼なじみと付き合うと家族のようになってしまいトキメキが無いなんて言うけれど、私はお兄ちゃんに対してそんな事思った事なんて一度も無い。
毎日毎日好きが積み重なっていく。
だって人は毎日成長するんだから、毎日同じ事なんて無い。
子供の頃からどんどん成長していくお兄ちゃん、昨日のお兄ちゃんよりも今日のお兄ちゃんがかっこよく見える。
髪の毛一本、爪の先、皺の数、どれも昨日とは違うのだ。
その全てが愛しい。
そして今、お兄ちゃんから好きが私に対しての好きが漏れ出ているのだ。
自分の一番好きな人に特別愛されているという実感……。
ああ、もうどうしよう……この天にも昇るような気持ちを抑えられない。
いけない……こんな所で幸せに浸っているわけにはいかない。
お兄ちゃんは今、不安にかられているに違いないのだから。
私は慌てて服を脱ぐと、急いで浴室に入った。
「しおりぃ……」
中に入るとお兄ちゃんはお湯を被った状態で立ったまま私を待っていた。
「ご、ごめんお兄ちゃん、冷えちゃうから先に入ってて」
そう言うとお兄ちゃんは嫌々期の子供のようにブルブルと顔を横に振る。
「嫌だ栞と一緒じゃなきゃ」
『ズキューーーン』
ああ、お兄ちゃんなんて可愛いのおおおおお。
胸が痛い、心臓が苦しい……お兄ちゃんの可愛さに撃たれまくっている。
大丈夫かな私……このまま死なないかな?
「えっとじゃあ、掛け湯だけしてとりあえず入るから」
私は風呂桶を手に取ると浴槽からお湯を汲み何度か身体にかける。
そしてお兄ちゃんの手を掴むと、そのまま一緒に湯船に入った。
『ザバアアアア』
二人同時に入ると浴槽からお湯が溢れ出ていく。
私とお兄ちゃんは正面を向き並んでお湯に浸かった。




