72-1 シスコンの兄
自覚は勿論ある。
それがずっとずっと持ち続けた悩みだから。
ブラコンの一言で片付けられる程の軽い気持ちじゃない。
何が好きか、いつから好きか、そんなの答えられない。
ずっと好き。
全てが好き。
ううん、そんなもんじゃない、最大級に大好きだ。
好き……以上の言葉が欲しい。
例えお兄ちゃんの性格が正反対になろうとも、例えお兄ちゃんの身体が朽ち果てようとも、この気持ちは変わらない自信がある。
だから、今こんな状態のお兄ちゃんでも、いつもと変わらずに、いつも以上に好きで居続けられる。
「ねえ~~お兄ちゃん、頭撫で撫でしてえぇ」
「栞は可愛いなあよしよし」
「はうわあああああぁ」
今、私とお兄ちゃんは二人きり、リビングのソファーでいつもの放課後ティータイムを、おっと今日学校は休みだから、午後のティータイムを過ごしている。
いつもとちょっと違うのは、お兄ちゃんが隣に腰掛け、私の手を握り、私の肩を抱いてくれているだけ。
ああ、ダメ、お兄ちゃんを元の状態に戻さないと、でもでも、少しだけ、もう少しだけこのまま幸せな気分を堪能させて。
お兄ちゃんの誕生日なのに、わたしが喜んでどうするの? って誰かに突っ込まれそうだけど。
で、でもほら、この状態にこそお兄ちゃんの本質があるって美月ちゃんも言ってたし~~♡
だからお兄ちゃんも嬉しいはず。
「ねえお兄ちゃん、今度は~~ほっぺにチューして」
『むちゅ』
「うひゃぐひゃうへへへ」
ああ、まずい、欲望が漏れでる。
お兄ちゃんには自我があるらしいからこれ以上は元に戻った時にまずいかもしれない。
この間の記憶喪失の時とは違うのだ。
ああ、でも何でも言うことを聞いてくれるお兄ちゃん、枷が無いお兄ちゃんを独占出来るのは、今この時しかない。
「お兄ちゃん、ずっと一緒だよ」
私はそう言ってお兄ちゃんに寄り掛かる。
するとお兄ちゃんは私を強く抱き締めてくれた。
でも、その時……お兄ちゃんの身体が少しだけ震えている事に気が付く。
怖がっている……私と離れる事に怖がっているのがわかった。
強迫観念のようなものをお兄ちゃんから感じ取れる。
だとしたら一体何が?
お兄ちゃんの攻撃、いや好撃にようやく落ち着き、冷静さを取り戻して来ると同時に私の頭の中に一つの言葉が再び浮かぶ。
『お兄ちゃまには自我があるから』
そう、喋れないわけじゃない……つまり素直に聞いてみればわかるのでは?
お兄ちゃんにデレられて冷静さを欠いていた。
もう少しだけこの状態をこの状況を堪能したいという欲望をなんとか振り切り、私はお兄ちゃんに尋ねてみた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんはどうしてそんなに私の事が心配なの?」
「そんなの決まってるだろ?!、栞の事が大好きだからだよ」
「…………………………………………」
おっと、一瞬気を失っていた。
お兄ちゃんは慈愛に満ちた表情で、優しく私の頭を撫でながら某声優のようなイケボでそう耳元に囁いた。
ふわああああ…………。
軽くいっちゃった……勿論天国に。
違う違う、そうじゃない、そう言う事が聞きたいわけ……まあ、聞きたいんだけど。
これってあれかしら、別世界への入口なのかも知れない。
この世界をこのまま生きていくか? それとも元の世界に戻るか? 『yes、no?』
古いパソコンに表示される選択、自分の事だけ考えたら迷わずyesを押してる。
ずっとこんな世界に改変したかった。
お兄ちゃんに一生愛される世界、お兄ちゃんといつまでも一緒に暮らせる世界。
それが今、まさに現実に!
でも、お兄ちゃんの事を思えば、一生妹にベッタリで、一生私の心配だけしていく人生なんて……そんなのあり得ない。
しかも自分で選んだわけではない。
まあ、選んでくれたらそれが一番なんだけど。
とにかくこんな状態じゃあ勿論学校だって行けない、このまま兄妹でひっそりと二人で暮らしていくしかない。
いや、私としては天国のような世界だけど、お兄ちゃんにとっては?
そう考えると、やはり答えは『no』なのだ。
物凄く残念で、思わず奥歯が割れそうなくらい強くギリギリと噛み締めているけど。
お兄ちゃんの為にも元の世界に戻らなくてはならない。
そしてこんな状態になっている原因を突き止めなくてはならないのだ。
でも、どうしたら……。
この状態は時間が解決してくれるかも知れない。
でもそれじゃあ本質が、お兄ちゃんの不安が解消されない。
そしてこれはある意味チャンスなのだ。
お兄ちゃんの本質が、解消されれば私達の関係が進展するかも知れない。
でも……もしかしたら。
ううん、ダメ、気弱な事を考えちゃ行けない。
私の不安がお兄ちゃんに伝わっちゃう。
しかし何も思い付かない……。
そうだ、とりあえずご飯を食べよう。
お兄ちゃんもお腹が空いている筈だ。
「お、お兄ちゃん、今からご飯を作るからお兄ちゃんはお風呂に入ってきて」
私がそう言うとお兄ちゃんはまるで家に置いていかれる子犬のような瞳で私を見つめフルフルと首を振りながら言った。
「やだ、栞と離れ離れになるのは絶対に嫌だ」
「あ、でもほら時間かかっちゃうし」
「大丈夫、ご飯は我慢出来るから、だから一緒に……」
「え?」
「一緒に入る」
「…………………………」
『なんなのこの状況、完全に死亡フラグじゃない? え? ひょっとしたら私もうじき死ぬの?』
これって……何かのご褒美なのかしら?
新作全く間に合いませんでした。(泣)
更新再開します。




