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71-4 新たなる一歩


 食事を終え俺達はホテルの部屋に向かう。

 レストラン街と同じビル内でホテルとは直結なので意識的に外に出ようと思わなければ他にどこも寄りようが無い。


 このビル内で殆んど完結してしまう、まさに自ら監禁されに行くようなスタイルなのだ。


 俺達はそんな冗談をケラケラと笑いつつホテルのロビーを通り、専用エレベーターに乗り一気に高層階の部屋へ向かう。


 そして……それと相対するように俺の中でプレッシャーが大きくなって行くのが切々に感じてくる。


 どうする、どうなる、どうすればいい?


 部屋に帰ってやること……まあ常識的にはとりあえずは風呂だろう、あの高級なバスルームを使わない手はない。


 そして栞はいつも通り俺を誘って来るだろう……一緒にって。


 今日俺はそれを断れるのか? まあ、今さら感は拭えないがそこは抗わなければならない。



 もう今まで通りの歯止めは効かないのだから……。


 逆にそこで止まれば御の字なのだ。


 そう自問自答しながらエレベーターを降り部屋に入る……。

 


「お兄ちゃん……ちょっとお話してもいい?」

 するとさっきまでとは違い、妹はいつになく真剣な声で俺にそう言ってくる。


「え? ああ、うん」

 いきなり風呂に誘われると思っていた俺は若干拍子抜けしつつ、妹にそう返事をする。


 妹はさっきまで夜景を見るときに使っていた椅子を小さなテーブルの前に移動させそこに座る。

 俺は妹に促されるように正面に座った。


 その唐突な妹の真剣な顔に、俺の中で別の不安が過る。

 

なんだこの雰囲気は……まるで……別れ話の前のような……。


 1年間愛情たっぷりに尽くしてくれた妹、今日だってこんな誕生日祝いをもらっている。

 それなのに俺は……。

 もしそうだとしたら、もし妹が元の兄妹に普通の兄妹に戻りたいと言ったら……俺は素直に喜べるのだろうか。


「お兄ちゃん」

 真剣な妹の表情と声。


「は、はい」

 気圧されるように俺はそう返事をする。


「お兄ちゃんって……エッチな事は好きだよね?!」


「……はい?」


「だってだって、色んな本とか見てるし」


「いやいやいやいや」


「そもそも今時そう言うのを本で見るのって何で?」


「何でって……スマホだと画面が小さいし」


「そう言う人ってムッツリスケベだって言ってた」


「だ、誰が?!」


「ネット?」


「なん○民め!」


「ここに最高高精度の等身大エッチ画像があるのに何で見ないのよ!」


「は?」

 妹は真剣な顔で俺にそう言ってくる……。

 さっき考えてた別れ話の件は一瞬で吹っ飛んで行く。

 そう……これが栞だった。


「いつだってなんだって私は! お兄ちゃんの為に一肌でも二肌でも脱ぐ所存だよ!」


「だ、ダメだろそんなの?!」

 一肌脱ぐって服脱いでどうする!


「エッチな本を見る方がダメでしょ! そんなの浮気だもん!」


「だって栞を、妹をそんな目で見るなんて」


「それ! それだよお兄ちゃん!」


「どれ?」


「それよ! 何で妹をそんな目で見ちゃいけないの?」

 妹は今の議論の本題はそれだと、そう言っている。


「それは、世間体とか……」


「そ、ん、な、の、どーーーーーーーーーーーーーでもいい!」


「え?」


「私が聞きたいのはお兄ちゃんがどう思っているかなの!」


「──そ、それは……」


「世間体とか、周りの意見なんてどうでもいい、もしも……お兄ちゃんの事を、私たちの事を悪く言う奴がいたら……どんな手を使ってでも力ずくで黙らせる」


「力ずく……」

 俺は栞のその言葉に思わず言葉を飲んだ。

 スーパーコミュニケーション能力を持つ妹なら、少数派の意見なんて無いような物……そしてこの妹の意見を、考えを否定する奴は間違いなくその少数派の人間って事なのだ。


 だから誰も手出しが出来ない。

 元副会長も、西園寺 茜も……妹には、根本的な所で手出しが出来ない。


「で、でも、でもだよ、もし、もしも全ての制約を取り払って、その、そういう関係になったとして……行き着く先は……孤独しか……」


「孤独?」


「た、例えばさ、アニメとか小説とか、そういう関係になってしまった兄妹ってのは色々書かれているわけで、そんな二人の行き着く先は逃避行しか無いわけで……とあるアニメなんて、最終的には悲しげな表情の二人が列車に乗ってどこか誰も知らない所に逃げて行くシーンで終わるんだ……俺は栞をあんな表情には……」

 俺がそう言うと妹は目を爛々とさせて俺をじっと見つめる。


「お兄ちゃん……お兄ちゃんも見たんだあれ」


「え!、えっと……まあ」


「そっかああ、お兄ちゃんも興味あったんだああ、えへ、えへへへへ」


「いや、ちょっと待て、違うそこじゃない! 俺が言いたいのは」


「聞いたの?」


「へ?」


「最後不幸だって、聞いたの?」


「いや、聞けるわけないが」

 現実にそんな話は出てこない。


「私はね、あの妹ちゃんがスッゴク幸せに見えたの」


「え?」


「安らかにお兄ちゃんの隣で眠る妹ちゃんがスッゴク幸せに、ああ、絶対幸せなんだろうなって」


「いやいやいやいや、それはわからないだろ?」


「そう! わからないのよ! 本人にしかわからない、幸せかどうかは本人にしかわからない、だから私はわかるよ! 私は幸せだって、どんな状態になろうと、誰かにどう言われようと、二人なら、お兄ちゃんと一緒なら幸せだって、私にはわかるの!」


「し、栞?」


「……こほん、失礼取り乱しました……つまりお兄ちゃんは世間体を気にしてエッチな事はしないって事なわけなんだよね?」


「ま、まあ……」


「ふふふ、つまりは私に興味があるって事よねえ、うふ、ぐふふふふ」


「あ! い、いや」

 ついつい栞の誘導尋問に乗ってしまった。


「はい! そこでお兄ちゃんにお誕生日プレゼントです!」

 妹は手を叩き一度話を切る。


「ぷ、プレゼント?」


「そう! お兄ちゃんへの誕生日プレゼントです! まずここは密室、誰にも知られない、今夜ここでの事は私達にしかわからない」


「そ、それで……」

 俺はその栞の言葉にゴクリと唾を飲む。


「そして、明日の朝コーヒーを飲むと同時に一切無かった事にします!」


「……は?」


「お兄ちゃんのしたいことはなんでもしていいです! 朝になったら全て忘れて無かった事にして帰ります!」


「いやいやいやいや」

 その栞のとんでもない提案に俺は首を振った。


「大丈夫お兄ちゃん、ぜーーんぶ無かった事になるから、これは夢だから、記憶喪失の時と一緒、ぜーーんぶぜーーんぶ無かった事に」


「無かった事に……」


「そう、なんでもしていいんだよ、お兄ちゃんの趣味を全部私にぶつけて、いいんだよ、いいんだよ、いいんだよ……」


「全部…………」




♡♡♡♡♡♡♡♡♡




 そして翌朝二人で窓の外を眺めコーヒー手に佇む


「ふふふ、二人だけの秘密出来ちゃったね」

 栞は満足そうに笑いながらそう言うとコーヒーをゴクリとひと飲みする。

 俺も震える手を抑え、早朝のコーヒーを口にする。


「さ、帰ろっかお兄ちゃん」

 いつも通りの笑顔で栞は俺にそう言った。


「あ、ああ」

 この瞬間全て無かった事に……食事を終えた後は部屋で普通に過ごした……事になった。



神殺し栞「無かった事になるんだから書いちゃ駄目だよ」


神「は、はい……」

 

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    こちら作品の完全改稿版を書きました         
  超絶コミュ力の妹と陰キャの俺、そんな妹に突然告白され、俺の高校生活がとんでもない事になった。           
  もしよろしかったら読み直してくださいませ(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
― 新着の感想 ―
[一言] やっと読破。長かった
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