70-4 大イベント
『裕君の誕生日会』
生徒会室のホワイトボードに本日の議題と題名が書かれていた……。
そうだった……。
まだこいつらが居たんだった……。
「却下です!」
俺がホワイトボードに書かれた文字と、そして生徒会メンバーの期待に満ちた視線に絶句していると、一歩先に踏み込んだ栞は、俺を制止するように手を横に振り上げながらそう声を上げる。
「あ、あの栞さんまだ何も」
いきなり妹からの敵対行為に会長は戸惑いつつも笑顔を崩さずそう言った。
「そもそも生徒会としてすることじゃないでしょ! お兄ちゃんの誕生日祝いは家族でします!」
妹はそう言うと再び俺の横に回り込み、俺の腕にしっかりとしがみつきながら正面に座る金髪美女の生徒会長にくってかかる。
「そうね、でも私たちは生徒会であり友人でありそして……家族のようなものでしょ?」
会長は慈愛に満ちた笑みでわざとらしく両手を広げ舞台女優のようにそう言って振る舞う。
「誰が家族よ! お兄ちゃんの家族はこの学校では私だけです!」
妹はまるで子猫を取られそうな親猫のように俺の腕にしがみつき「シャーシゃー」と声を出すように会長を威嚇する。
そんな妹を見て……なんか可愛すぎて思わず頭を撫で……ようとする自分の腕を無理やり押さえつける。
な、なんだ? 俺の今の行動は? は? ちょっと待て、ここは学校だ! 生徒会室だ!
そこで俺は、はたと気が付く。
おかしい……なにかがおかしい。
ちょっと待て……そう言えば……最近妹がどうしようもなく可愛すぎて仕方がない。
もう兄妹という枷が外れてしまっているかのうような自分の感情に思わず背筋が寒くなる。
そもそも今日の朝も、妹が俺の腕にしがみついているのにそのまま学校に登校した。
そんな状態に状況に……俺はなんとも思わなかった。
いや、なにかむしろ誇らしいような、自慢げな自分がそこにいた。
なんだこの感情は?
おかしい……九州旅行以来、長崎から帰って以来……俺は何かがおかしくなっている。
帰ってからの、いや長崎に居たときから……記憶が無い。
その記憶が無い間に俺は妹に対してなにかをしてしまったような、そんな感覚がある。
何かとてつもない事を……。
こんな状態で妹と誕生日は二人きり、しかも泊りがけって……絶対にまずいって誰にでもわかるのに、俺は断るどころかそれを楽しみにしている。
そう……滅茶苦茶楽しみにしているのだ。
「えっとそう! 生徒会メンバーで誕生会をやるのが伝統で」
そう自分の感情に戸惑っているも妹と会長は俺に構うことなく喧嘩腰で話を続ける。
「今までやって無かったでしょ?!」
「こ、今年から」
「もう半年近くやって無いじゃない!」
「こ、今年度から」
「駄目ったら駄目ったら駄目! 絶対に駄目!」
妹と会長の言い争いは延々と続く、そしてもう埒が開かないと会長は俺をじっと見るとニヤリと笑って言った。
「裕くんお願い? 皆裕くんの事をお祝いしたいって言ってるの」
「ちょ!」
会長の突然の切り返しに妹は慌てた。
そして妹は俺をじっと見る。
泣きそうな顔で……。
いつもなら……いや、今までの俺ならこういうときは、なるようになれと諦めるか、若しくは皆一緒にと妹を宥めるかのどちらかだった。
女子からの頼みは、お願いは断れない……。
俺はそういう奴なのだ……。
だから俺は……会長に、皆に向かって言った。
「あ、ありがとうございます」
「お、お兄ちゃん……」
俺のその言葉に妹は脱力するようにうなだれる。
「ありがとうございます……で、でも、今回は妹と……栞と先に約束してるので……」
「え?」
俺のその答えに会長が戸惑いの表情を浮かべる。
「お、お兄ちゃん!」
そして会長に反するように妹は希望に満ちた表情で俺をじっと見つめる。
「すみません……当日は約束してしまったので……だから日を改めてなら……」
「そ、そう、残念ね、でもまあ約束してるのなら仕方ない」
会長はそう言うと周囲のメンバーを見てため息をついた。
「すみません……」
「じゃあ次の日曜日なら良いよね、だいぶ過ぎちゃうけど」
「あ、はい」
俺がそう言うと妹はちょっとだけ眉間に皺を寄せるが、直ぐに安堵した表情になる。
「ごめん」
俺は妹の耳元でそう言う。
仕方ないんだ……頼まれたら断れない性格の俺が精一杯交渉して譲歩して貰ったのだから
「ううん」
それを知ってか? 妹はニッコリとても笑い俺の手をそっと掴んだ。
妹の暖かい手……そして俺の期待と興奮は頂点に達する。
そして俺は、はっきりと意識している。
もう言い逃れは出来ない……この、俺のこの気持ちは、妹に対する思いは兄妹愛じゃ無いって事を……。
俺の頭の回りを天使が円を描きながら飛び、そして俺に向かって歌を歌い始める。
『ようこそ禁忌の世界に、ようこそ神々の世界に』
そう歌いそう唄った。
俺は……俺は妹が……栞が好きだ。
好きなんだ……。
そうはっきりと自覚した。
そして、俺はこの状況で妹とお泊まりデートをする。
週末に……一体俺は、俺と妹はどうなるんだろうか?
「お兄ちゃん、ちょっと待ってて」
生徒会での会議? が終わり、全ての不安が払拭したのか妹は安堵の表情で俺から離れそう言う。
「どこ行くんだ?」
「……」
俺がそう聞くと妹はなんとも言えない表情に変わる。
「ああ、トイレか」
ほぼ一日中俺にへばり付いてたからなあ
「この世界にそんな物は無い!」
「いやいやいや、とりあえず行ってら、ごゆっくり」
「ぶうう」
俺が笑顔でそう言うと、妹は膨れっ面で俺振り向き、慌てて廊下を走って行く。
妹の短いスカートの裾がピョコピョコと跳ねるのを後ろからボーッと見ていると「裕……くん」
「うお!」
唐突に後ろから呼び掛けられ驚きつつ振り向くとそこには……麻紗美が少し思い詰めた表情で立っていた。
「ご、ごめん……」
「いや、気配を感じなかったから……ど、どうした?」
「うん……あ、あのねぇ……駄目だからね?」
「え?」
「ふたりは……兄妹なんだからねぇ……それは……それだけは、忘れないで」
「……あ、ああ」
「じゃあねぇ」
麻紗美はそう言って、それだけ俺に伝えて生徒会室に戻って行った。
リハビリ投稿ヾ(;゜;Д;゜;)ノ゛




