68-6 波乱の幕開け
苺ちゃんを送り届け、家に戻ると、なにやら重苦しい空気が漂っていた。
栞と美月の間に何かあったのだろうが、ここで俺が何か言えばやぶ蛇になる事は間違いない。
今まで散々藪をつついて蛇どころか虎まで出て来た事を鑑み俺はとりあえずその空気をスルーした。
しかし、元来の性格上ほって置く事は出来ない。
そして大方こういう時は栞に問題がある。
なので俺は栞が風呂に入った隙を狙い、美月に声をかけた。
ちなみに美月は超のつく天才だ。
なので俺が声をかけた瞬間、将棋の棋士のように何手も先を読んでしまう。
いや、恐らく俺が声を掛けて来る事も既に読んでいたのだろう。
「お部屋で話そうか?」
俺の次の言葉を遮るように、美月は神妙な面持ちでそう言った。
俺と美月はそのまま手を繋ぎ部屋に向かう。
美月の部屋は毎日……げほんげほん、時々訪れるが……入るといつも甘いミルクの香りがする。
俺はいつも……時々訪れた時と同じように、部屋に入り美月のベッドに腰を下ろす。
そして美月はいつものよう……今日はたまたま甘えたかったのか? 俺の膝の上に腰を下ろした。
目の前に美月の可愛いつむじか見える。
そして美月のその可愛い髪からシャンプーの香りとお菓子のような甘い香りがする。
俺はこの匂いを『可愛い幼女のかほり】という商品として、いつか売りだそうと思っている。いや、やっぱり売らない……。
俺がそんな事を考えながらクンカクンカしていると、いつまでも話を始めない俺に痺れを切らしたのか美月から話し始めた。
「お兄ちゃま……私……お姉ちゃまに酷い事言っちゃったの」
美月は俺を見上げ悲しそうな顔で喋り始める。
「何を?」
俺は悲しそうな美月を安心させようと、あくまでも安心させようとして、肩をそっと抱いた。
「お兄ちゃまと地獄に落ちるつもりかって」
「……そか」
俺は美月の言わんとしている事を察し、そう返事をするのに留めた。
「ごめんなさい……」
「美月が謝る必要はないよ……悪いのは俺なんだから」
「お兄ちゃまは優しい……でも優しすぎるのはある意味一番酷い人になる」
「わかってる……でも駄目なんだ……」
俺は美月の髪をゆっくりと撫でた。
サラサラとした子供の髪の感触が俺の指の間を通り抜ける。
「うん……知ってる、どうしようもないよね」
「ごめん……」
目先の事しか見れない自分の性格、後々酷い事になるのはわかっているが、目の前の現象に俺は耐える事が出来ない。
ある意味バカなのだ……妹に告白された時、目の前で泣かれるのが嫌で俺は受けてしまった。
そして……俺はそんな妹を利用している。
人に言えない関係、俺はそれを理由に全てを曖昧にしてきた。
それが今のこんな状況なのだ。普通の生活がしたいなんて言っておきながら、こんな事になっているのはある意味俺の自業自得なのだ。
「まあ、美月はお兄ちゃまが未経験でも経験済みでも構わないからね」
「おい」
意味わかって……言ってるんだよな……この天才5年生は……。
「後5年待ってくれればお姉ちゃまより綺麗になるから、私は今のままでいいんだけど~~」
「えーー美月はこのままが良いなあ」
「お兄ちゃまロリコンだもんねえ」
「ちゃうわ、俺はロリコンじゃなくて、美月が大好きなだけだああああああ」
そう言いながらいつもの……時々やっているように、美月の腋をくすぐった。
「きゃははははは、ダメえお兄ちゃまあ、くすぐったいよおおおお」
「こちょこちょ」
「やん、お兄ちゃま、きゃははははは」
「こっちもこちょこちょ……」
ああ、楽しいーー癒される。現実逃避には最高の……。
「……な、何してるのかな?」
その声に俺は思いっきり現実に引き戻される。い
美月の……から、声の方に視線を移すと、いつの間にか美月の部屋の扉が開いており、身体にバスタオルと頭にタオルを巻いた風呂上がり姿の栞がこっちを睨みつけて仁王立ちしていた。
「あ~~えっと、従妹とのたわむれみたいな?」
「お兄ちゃまに(ピーー)な事されちゃった」
「へえ……」
栞はまるで生ごみでも見るような目で俺を見つめる。
「してない! 美月! ヤバイ事言わないで!」
世の中からBANされちゃう!
「美月ちゃん!さっきと言ってる事違くない?! 美月ちゃんだって地獄に落ちるよ?!」
「美月は従妹だから平気ですう~~」
「小学生でお兄ちゃんと(ピーー)な事したら地獄に落ちるよ!」
「俺がな……てか! してねえええええ?!」
(ピーー)はしてねえ、したいけどしてねえ!
「だから私と代わりなさい! いつもいつも美月ちゃんズルいよ!」
栞はそう言って俺と美月の間に飛び込んでくる。
そしていつもの通りバスタオルが落ち、恐らく素っ裸の栞が美月と組み合う。
恐らくというのは勿論俺が目をつむっているからだ。
そろそろ栞の裸に慣れてもいいんじゃ無いだろうか? なんて思える筈もなく、俺は目をつむったまま、ベッドから飛び降りると一目散に部屋の外へ逃げだした。
「お兄ちゃん!」
「おにいちゃま!」
俺を呼び止める声を無視して俺は扉をパタリと閉めた。
もうお約束だってそう思うしかない……。
俺は自分にそう言い聞かせ、なんとか平常心を保ったまま自室に戻っていった。




