68-2 波乱の幕開け
「うわーー懐かしい~~」
苺ちゃんは俺達の家に入ると感慨深くそう言った。
「お兄ちゃまおかえ、そちらは?」
「ふわああああ、可愛い子」
俺達3人を出迎える美月。
その美月を見て苺ちゃんが声をあげる。
でしょでしょ? 可愛いでしょ? 俺の美月は可愛いでしょ?!
しかしその美月は俺達の前にとんでもない格好で現れていた。
「みみみ、美月?! なんて格好をしてるんだ」
美月は裸エプロン……っぽい格好で俺達を出迎えた。
「今ね、お兄ちゃま達にお昼を作ってたの」
ヒラヒラが付いた可愛らしいエプロン、そこから伸びる白く細い手足は剥き出しの状態。
その姿はまるで裸エプロンのようで、小学生の裸エプロンって最強じゃね?
そんな最強の美月は満面の笑みでオタマ片手に正面に立っている。
「ちょっと美月ちゃん! お兄ちゃんの食事は私が作るって事になってるでしょ!」
いやいやその前にこの格好に突っ込めよ……とは言わない。
「えーーだってお兄ちゃま達学校だし、そういう時は美月が作るって」
「まだお昼前ですうう」
「いやいやいやいや、誰も突っ込まないんかい、美月その格好は?」
「えーーこれ? ほら着衣着火って怖いでしょ? 表面フラッシュ現象って言うんだけどね」
「だからと言って裸エプロンって」
「お兄ちゃま裸じゃないよ、ほら」
美月はそう言うとくるりと後ろを向いた。
「えっと……水着?」
「そうお兄ちゃまの大好きなすく水」
「いや別に好きってわけじゃ……」
勘違いしないでよね!? 嫌いでは無いってだけだからね!
「もう! 私がやるから!」
「いいって言ってるでしょ?!」
二人は言い争いながらキッチンに向かって行く。
「ご、ごめんなうるさくて」
俺は苺ちゃんにそう言うと、苺ちゃんは目をキラキラさせて俺を見つめる。
「ううん、そうか……」
「そうか?」
「いえ、さすがだなって」
「さすが?」
「はい! 先輩」
「先輩……おおお先輩」
お兄ちゃんから突然そう言われ俺は思わず舞い上がる。
先輩、うん、いい響きだ。
2年生に進級した実感が込み上げる。
「とりあえず、上がろっか」
「はい!」
苺ちゃんは靴を脱ぎ綺麗に揃え、そして俺の手を握った。
俺の手を……握る……え?
「えっと……とりあえずリビングに」
「はい!」
なんの躊躇いもなく俺の手を握りニッコリと微笑む苺ちゃん。
でも幼なじみと言うほど、彼女と俺との接点は無い。
昔から近所に住んでいるのは知っている。栞に憧れている事も。
栞とはそれなりに面識があり、近所に住んでいる年下の女子って事で、ちょこちょこと家に遊びに来たりはしていた。
だけど、彼女と会話をしたのは数回程度だった。
そんな希薄な関係なのに、この積極的な行動一体なんなんだろうか? 思えば学校でも栞にではなく、俺に抱きついていた。
何か胸騒ぎがする。
そういえば「ハーレムに入る」とか「噂は聞いている」とか不審な言動を発していた。
とりあえず俺は話を聞くべく苺ちゃんをリビングに連れていき、ソファーに座らせる。
「先輩座り心地が悪いです」
ソファーに座るなり俺の手を掴んだまま、唐突にわがままを言い出す苺ちゃん。
「え? えっと、じゃあクッションを」
「いいえこれが良いです」
苺ちゃんは達人級の腕捌きで体位を入れ替え俺をソファーに座らせるとそのまま俺の膝の上に座った。しかも対面で……。
柔らかいお尻の感触が俺の膝に伝わる。
柑橘系の甘い匂い、柔らかいお尻の感触、いやいやそんな悠長に堪能している場合じゃない。
「え? えええええ?」
「えへへへへ、せんぱーーい」
苺ちゃんは黒髪のツインテールをピョコピョコと跳ねさせ俺の首に両手を絡める。
「ちょ、な、何を?」
「チューーしよ?」
うっとりとした表情でそう言うと口を軽く尖らせ目を瞑る。
「いやいやいやいや」
俺は彼女の肩を掴んで俺の顔目掛けて突進してくるのを止める。
しかしこの小さな身体のどこにそんな力があるのか? 彼女は強引に顔を近付けて来る
「ちょ、ちょっと待って」
俺は肩から手を外し今度は彼女の額を両手で押した。
「えええええ?」
俺のその行動に困惑した表情に変わる。いや困惑してるのはこっちだよ。
「いやいやいやいや、何をしてる?」
「え? だって先輩のハーレムに入ったんだから早く皆に追い付かないとって」
「そ、それでキスしようとしたの?」
「そ、うなんですけど……そうか、すみません」
人の話を全く聞かず何故か謝る苺ちゃん、そして彼女はそう言うと今度は俺の手を掴みその手を自分の胸に……。
「いやいやいやいや、待って待って」
痣でも出来るかと思う位に力強く握られた俺の手首、俺は脱臼しそうな勢いでそれを強引に引き抜く。
「ま、マジですか? やっぱり先輩は凄い」
「いやいやいやいや、だからさっきから一体何を言ってる?」
「すみません勉強不足で、そうか……いきなりエッチするんだ」
「だーーーかーーーらーーーなんの話をしている?」
「え? ですから、先輩のハーレムに入る儀式を、ごめんなさい、最初はキスからだって思ってて、さすが先輩ですね、いきなりエッチからだなんて」
苺ちゃんはそう言うと今度は制服のスカートに手を掛けた。
「待って違う違うから! とりあえず……」
その時リビングの扉が開く、と同時に苺ちゃんはとんでもないスピードで俺の上から飛び退き隣にちょこんと座った。
「お兄ちゃん、お昼の準備ができ……どうかした?」
「え? いやえっと」
あまりの出来事に俺は硬直してしまっていた。
隣をそっと見ると苺ちゃんはなに食わぬ顔でニコニコと笑っている。
一体どうなっているんだ? 何が起きていたんだ?
この娘は一体……。




