66-9 生徒会の旅
「良いからキスするデース」
「しないから」
「結婚するデース」
「何でそうなる?!」
「教会の前だからデース」
もうかれこれ一時間以上、教会の前でこんな押し問答を繰り返している……それにしてもこんな所で騒いで良いのか? そしてそれを遠巻きから見ている生徒会一同、マジでなんなんだ? 良いのか通報されるぞ?
かといって他にどこへ行けば? 旅先なので土地勘も無い俺はどうする事も出来ないでいた。
しかし……こうして対峙すると改めて思う、性格っていうか、その変態キャラとは裏腹に、セシリーの容姿は後ろに聳える教会がとてもよく似合うって。
セシリーが教会の門前に立っていると、まるでCMでも撮影しているの様だった。
ブロンドの髪、ブルーの瞳、会長と違ってハーフではなく純粋なイギリス人。
そして会長程ではないが、セシリーの母親は大使……彼女はあ紛れもないお嬢様なのだ。
この変な性格も間違った日本文化に合わせた自ら作ったキャラで、本当は礼儀正しい普通? な、お嬢様なんだよな……そしてそれを知っているのは生徒会一同だけ……そして……男子は俺だけ。
その本当の性格が皆に知れ渡ったら、栞以上に人気が出るかも知れない。
そんなセシリーを俺は思わずじっと見つめた。
「Oh、私を見つめて、遂に覚悟を決めたデースか!?」
会長はハーフなので生徒会内ではあまり目立たないけど、やはり純血のイギリス人とあって肌の白さは際立っていた。
肌の白いは七難隠すなんてことわざ通り、黙っていればとにかく美しい。
俺はそんなセシリーと教会に思わず見惚れていると、後ろからカウントダウンの声が聞こえてきた。
「3、2、1、タイムアーーーップ」
ニコニコしながら、ワラワラと近寄ってくる生徒会一同、やはりよくわかっていなかったのか? さっきの栞のように、さして悔しがる様子もなくそれを見つめるセシリー。
俺もセシリーと一緒に呆然と皆を見ていた。
それにしても改めて思う……なんて集団だよって。
いや、性格とか裏の顔とか、そう言うのを抜きにして、美人が多いうちの学校の中でも選りすぐりの美女が集まる生徒会。
洋風建築が立ち並ぶこの町で、こうして勢揃いすると、本当にアイドルグループかって思わされる。
相変わらずウサギのように跳びはねながら俺に突進してくる俺の美月、天才小学生はふわもこコートを翻しながら俺の腕に抱きつく。
「お兄ちゃま~~今日は終わりだよ~~」
「そうなの?」
「まあ、もう遅いからね」
後ろから歩いてくる会長は目を細めニッコリと笑った。
金髪碧眼、モデル並のスタイル、そして王家の血筋。
色々あって知り合いになったけど、本来口を聞く事も出来ない間柄だっただろう……最近益々高貴さが滲み出ている会長……洗脳から脱却した直後は一時期犬の様にペロペロと顔を舐められていた事は、なんだか既に何年も前のように感じる……。
生徒会アイドルグループと一人2時間の長崎デート、とはいえ監視つきなのだが。
そして……俺はまだこの企画の意味がよくわかっていないのだが。
まあ、とりあえず今日はここで終わり……また明日残りの4人と……って……それ8時間だよな結構長いよね?
そう考えると……とっとと誰かにキスをして終わりにしたいという気持ちが沸き上がる。
こんな事なら栞にしておけば……。
「明日は会長からだよね」
「うん、そうだねえぇ」
宿に向かって歩いていると、後方から美智瑠と麻紗美の会話が聞こえてくる。
明日の一番は会長か……。
もういっそのこと、会長にキスをしてしまおうか……この間まで散々顔にキスされたんだ、一回くらい俺からしたっていいだろ?
そう思いながらチラリと振り向き後一番後ろを歩く妹を見ると……。
「ひっ!」
一番後ろに……鬼がいた……と、思ったら……妹だった。
「どうしたの? お兄ちゃま?」
「いいい、いや、何でも無い……」
「それ何でもあるやつ」
俺の腕にしがみつきケラケラと笑う美月……その笑顔を見て美月も変わったなって改めて思った……前から俺に好意を示し、こうやってなついてはいた、でも……こんな風に心の底から笑う事はなかった。
俺にはいつも笑顔を見せていたが、それは表向きの笑顔……美月の笑顔には裏があった。
絶対に人には見せない、それはまるで月の裏側のような……地球からは絶対に
見えない月の裏側のような美月の裏の顔……。
でも最近の美月は、俺と……いや、俺達と一緒に住んで、学校も変わって……裏が無くなったような、壁がなくなったような……そんな気がしている。
美月は、野生のウサギから、ペットのウサギになったような、そんな感じがする。
それが良いのか悪いのか……俺にはわからないが……でもこうやって心の底から笑えて、安心して自分をさらけ出せるようになって、俺は益々美月の事が好きになっていた。
そしてそれは美月だけじゃ無い……それは生徒会全員にも言える事だ。
会長も、美智瑠も、麻紗美も、勿論栞も、出会った頃から、高校入学してから、それぞれの関係性は大きく向上している。壁は殆ど無いって言える程に。
そう……この1年足らずで、俺は皆と…………あれ?
そう言えば、残り4人ではなく5人なのではないか? 俺は一人の存在を忘れていた。
学校に入って出会い正体を知ってから、1年足らず経過……生徒会メンバーの中で唯一関係が停滞している人物が一人いた。
毎日顔を合わせているのに……俺と彼女の関係は……全く何も変わっていなかった。
俺は再度振り向く……鬼の形相の栞を見ないように……その人物をそっと見た。
俺の担任……そして……過去に憧れラブレターまで書いた人物……。
白井里見先生と俺には生徒と教師という大きな壁が……存在していた。
お久しぶり(O゜皿゜O)イキテルゾ




