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28話 海鮮バーベキュー

夕暮れの浜辺に、香ばしい匂いが立ち込めていた。

討伐任務を終えたわたしたちは、領主の厚意でねぎらいの宴に招かれることになったのだ。同行した冒険者たちと共に、こうして海辺の広場で豪勢なバーベキューを楽しんでいる。


広場の中央に、堂々とした姿で領主が現れる。

彼の声が、静かに寄せる波音を押しのけるように響き渡った。


「予定外の大物にも関わらず、見事に退治してくれたな!勇敢なる働き、まことに感謝する!」


領主は朗らかに声を張り上げ、杯を高く掲げた。


「謝礼は必ずはずもうと約束しよう。本日は遠慮なく、存分に楽しんでくれ!」


広間にいた冒険者や兵たちは「おお!」と歓声を上げて、杯と杯をぶつけあった。

あ、一応、わたしも成人しているからお酒を飲める。この世界では13歳から成人とされている。

とはいえ、これまで一度も口にしたことはなかったから、せっかくだし挑戦してみることにする。

注がれたグラスには、泡がしゅわしゅわと立ちのぼり、なんだか美味しそう。舌でぺろりと味見すると……うーーーーーーん、苦味が強すぎて、あんまり美味しくはないかも。


潮風が頬をかすめ、遠くで波が砕ける音が心地よいリズムを刻んでいる。

砂浜にはいくつもの焚火台が並び、赤々と燃える炭火がぱちぱちと弾けていた。炎に照らされた人々の顔はどこか和やかで、揺れる光と影が宴の場をあたたかく包み込んでいる。


領主が用意した料理人だけではなく、地元の人間も海鮮物の食料を持ってきてくれたようだ。


「あんたたちのお陰でまた海に出られるよ!ありがとうな!こいつらは礼だ、いっぱい食べてくれ」


そう言って、網の上に並べられたのは、サカナ、エビ、貝といった海の幸。炭の熱を受けて、魚は皮目から香ばしい香りを放ち、身はふっくらと膨らむ。ハマグリらしき貝は殻を開き、じゅわっと透明な汁が溢れる。サザエに似た貝の殻からじゅわっと旨味の汁が溢れ、熱せられた殻が軽く鳴るたびに、音も香りも食欲を刺激する。

串に刺したエビも赤く色づき、皮がぱりっと焼ける音を立てる。網の端では、バターを溶かした貝殻が小さな泡を作り、芳醇な香りを漂わせる。炭の熱気に混じり、海風が吹くたびに煙がふわりと立ち上り、潮の香りが一層引き立つ。


そして、今日の目玉は――討伐したクラーケンの身!

見た目はただの“巨大なイカ”なのに、肉厚な白身は普通のイカとは比べものにならないほど弾力に満ちている。切り分けた腕を豪快に網にのせると、表面がじゅわじゅわと波打ち、すぐに食欲をそそる甘い香りが立ち上った。


「焼けたぞー!熱いから気をつけろよ!」


「わぁっ、プリプリだ……!」


わたしははクラーケンの身がささった串を手に取る。口に運んだ。塩のきいたイカの焼き加減も絶妙で、口の中にじゅわっと旨みが広がる。

身が引き締まっていて、肉厚で歯ごたえがあり、噛めば噛むほどイカの甘みと旨さが口の中にいっぱいに広がる。口の中でぷちっとはじける食感がたまらない。


「夢にまで見た海鮮物だよ~!おいし~!」


どれほど、恋しかったことか!

周囲でも、冒険者たちが笑い声を上げながらクラーケン料理を堪能している。杯を掲げる者、豪快に頬張る者、それぞれが思い思いに宴を楽しんでいた。


妖精たちも思いのほか、満喫しているようで、ティアなんかは初めて口にするお酒にひっくり返っていた。


『ひっく、これがお酒って言うのね~。なかなか美味しいじゃない!』


小さな体を左右にゆらゆら揺らしながら、上機嫌に声を上げている。正直、少し呆れもしたけれど、楽しそうだからいっか。


『アメリア、飲んでる?折角だから、飲みなさーい!』


そう言ってティアは、うっとうしいほどに身体を引っ付けてくる。ほっぺとほっぺがつぶれるほど、ぺたーって。


「ちょっ……ティア、くっつきすぎ」


『え~?いーじゃない、減るもんじゃないし、もう。アメリアったら照れてるのね。可愛いわね~』


ティアって酔うと絡み酒になるんだ。

……やっぱり、お酒はほどほどが一番だと思う。


イグニがその様子を見ながら、口いっぱいに魚を頬張って他人事ののように言う。


『……酔っぱらいのティア、最悪だな』


そんなイグニはといえば、豪快に海鮮へとかぶりつき、殻ごと食べてしまいそうな勢いだった。海の上で見せていたあのしおらしさが嘘のようで、思わず苦笑してしまう。けれど、元気を取り戻した姿にほっと胸を撫で下ろしたのも事実だ。


しかし、ふたりそろっての暴飲暴食ぶりに、落ち着かない気分のわたしもいた。なにしろ、精霊たちの姿は私にしか見えない。他の人からすれば、皿の料理がひとりでに消えたり、酒瓶が勝手に傾いたりしているようにしか映らないのだ。


「だ、大丈夫……気づかれてない……よね?」


笑顔を取り繕いながら、ひやひやと周囲を見回す。

宴の喧騒と酔客たちの笑い声に紛れているうちは大丈夫……そう、かな?


一方、自由気ままなシルフィーは、いつの間にかどこかへ消えてしまっていた。

砂浜のどこかで、波と戯れて遊んでいるのだろう。


そしてユグルは何やら調べ事があるらしく、宴の席を外したままだ。

こんなに美味しい海鮮を味わえないなんて、正直もったいない。……後で戻ってきたときのために、少し取り分けておこうかな。

緊張が続いた討伐のあとの気の緩みもあり、わたしもつい、警戒心をゆるめていた。


「アメリアさん」


イカを飲み込んだタイミングで、すぐ隣から声が掛かる。見ると、討伐で一緒だった冒険者のひとり。確か、名前はレオといったか。

正直、強く印象に残っているわけではない。ジェシカと同じ弓使いで、戦場では軽やかに矢を放っていた姿を思い出せる程度だ。

けれど、物腰は柔らかで、戦いの最中も誰かを困らせるような振る舞いは一度もなかった。


「ちょっといいかな。……少し、話したいことがあるんだ」

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