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姉の婚約者と仲がいいピンク髪妹だわ詰んだ  作者: 猫の玉三郎


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6話 ずっと一緒にいて

 姉と相対したダニエルが、深々と頭を下げた。


「ご挨拶が遅れてすみません。ダニエル・タッカーと言います。この度、リリアーナさんとご縁をいただくことになりました。ご心配をおかけしていること、重ねて謝罪します」


 丁寧に挨拶をするダニエルの姿にきゅん。

 不可抗力なきゅんはいつどこでやってくるのか分からないから困る。今回はきっといつもの自信なさげな姿からのギャップだろう。さすがわたしの夫だわ、とぽーっと見つめていると。


「……あなた、魔力持ちね」

「はい」


 突然姉たちが意味のわからない会話をはじめた。


「使えるの?」

「身体強化のみですが」

「では、妹のことは体を張ってでも守れるのね」

「それしかできません。でも、絶対に守ります」


 リリアーナは理解が追いつかなかった。ダニエルが魔力を持っているなんて聞いていない。姉はどうしてそれを看破できたのか。もしかして身の上を調べたのかもしれない。さすが姉だと讃えるべきか、ダニエルに聞いてないと詰めるべきか、守ると言われたことに喜ぶべきか。


 混乱のあまりひと言も発せないまま、姉のクリスティアーナは従者に指示して重みのある巾着をダニエルへと差し出した。


「妹がお世話になっているのだもの。生活費はこちらから出すわ」


 今度はダニエルが戸惑っている。


「妹のために使ってちょうだい。いいわね?」


 無理やり持たせると、姉は傲慢男とジョセフを回収して屋敷へと帰って行った。




 家の中に戻るとリリアーナはすぐさまダニエルへ詰め寄った。


「魔力持ってるだなんて聞いてないわ」


 責める口調に内心しまったと後悔するも、もう口から出てしまったものは取り消せない。こんなふうに言いたくなかったのに。


「すみません、申告するほどのこともないかと思って。そんなに強いものでもないんです」

「魔力持ちは珍しいから貴族の養子になることだってあるのよ。それなのに……」


 涙目になってダニエルの胸をぽかぽかと叩いた。どうして自分がこんなに腹を立てているのか分からない。


 ダニエルのことは自分がいちばん知っているはずなのに、姉に先を越されたからだろうか。だとしたらリリアーナはだいぶ心がせまい。ダニエルも悪いことなんて一切やってないのに、こうやって八つ当たりを受けているのもかわいそう。


「じゃ、じゃあ、もうお別れでしょうか」

「いや……いやよ、そんなこと言わないで……」


 ついに涙が目からこぼれて頬を流れた。

 ごめんなさい、と小さく謝る。本当に何をやっているのだろう。途端におろおろしだしたダニエルがリリアーナの涙を指先で必死で拭う。それはとても拙くて、でも相手を決して傷つけないような優しさを感じた。


「すみません、な、泣かせるつもりはなくて……身分不相応なりに、あなたの助けになりたいと思ったのは自分に魔力があったからです。その、もし悪漢に襲われても盾くらいにはなれると思ったから」


「……本当にごめんなさい。ダニエルに甘えているのはわたしの方なのに、責めるような言い方をして。あなたは何にも悪くないの」


 きっとダニエルはリリアーナの心をかき乱す人なのだ。きゅんがいつ襲ってくるかも分からないし、狭量な自分がいつ顔を出すのかもわからない。こんなことは初めてだ。


 この偽装結婚はどんな結末を迎えるのだろうとリリアーナは考える。こうありたいと思う未来はあるけれど、それは許されるのだろうか。


「……ずっと一緒にいて」

「夫婦の間は、ずっとそばにいます」


 偽りのないまっすぐな言葉がうれしい。

 でも、寂しい。




 ダニエルと話し合って、この偽装には期限を設けた。姉クリスティアーナとの間にある遺恨が消えるまで、と言いたいところだけれどそれは目に見えるものではない。なので、姉が幸せな結婚をするまで。具体的に言えば結婚式を挙げる日まで。


 相手はジョセフでなくてもいい。むしろ今となっては姉の隣に立ってほしくない。この機会にリリアーナなりに姉を幸せにしてくれる人を探すつもりだ。お忍びの隣国王子でも行き倒れの魔王でもいい。貴族の縁がさらなる高貴な血筋を運んでくるのなら、それは姉にこそ相応しい。もちろん中身もともなってもらわないと困るけれど。


 だからそれまでリリアーナとダニエルは夫婦だ。

 誰がなんと言おうと。




 ◇




 数日後、リリアーナの元に姉からの手紙が届いた。

 例のケガ人のもあるし、一度ダニエルと屋敷へ顔を出しなさいとのことだ。


 ケガ人を保護したことは一応王宮へ報告したそうで、そのまま丁重に身柄を預かるよう言われたらしい。そして、伯爵家でも愉快な事態を起こしているようで、姉が綴る文面からはいささか困惑が感じられた。手紙を届けに来てくれた使用人に少し話を聞くと、あのケガ人は恥知らずにも姉へその毒牙をかけているらしい。いや、姉に惹かれるのは男として正しい。しかし先日の無礼さが記憶にあるためリリアーナはどうしても穿った見方をしてしまう。


 姉の顔を見たい気持ちとあの男に会いたくない気持ちの板挟み。しかし軍配としては姉が勝つ。それにリリアーナは立派な人妻だ。ただの令嬢ではないので毅然として立ち向かうべきである。


 それにリリアーナも姉に会いたい理由があった。

 それは婚約者を考え直してほしいというお願い。

 どの口が、と言われるかもしれない。けれど今ならまだパートナーを選びなおすことができる。もっと誠実で、姉を大事にしてくれる人を見つけてほしかった。


澳加純さまより、リリアーナとダニエルのイラストを頂戴しました(歓喜) 7/21活動報告に載せていますので気になる方はどうぞ!

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/726035/blogkey/3475692/

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