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姉の婚約者と仲がいいピンク髪妹だわ詰んだ  作者: 猫の玉三郎


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35/40

35話 嫌がってるのに気付いて!

 

「リリアーナさん!」


 部屋を出てすぐ大きく声を張り上げる。するとどこからか「ダニエル!」と呼応する声が聞こえて来た。声の方向からしてどうやら二階のようだ。ダニエルは片手で木槌を持ち、近くにあった階段を駆け上がった。その際に玄関ホールのある方向から金属武器が打ち合う音が聞こえて来た。襲撃は本物で、命を狙う輩が幾人もこの館へ足を踏み入れたということだ。


 そのまま勢いよく階段を登りきる。

 怯えたメイドや使用人たちが慌ただしく逃げていくなか、もう一度「リリアーナさん! ご無事ですか!」と叫ぶ。今度はなにも返ってこなかった。こうなれば二階を片っぱしから見ていくしかないと考えていると、階下から賊と思われるボロを着た男が数人がダニエルを追いかけて来た。


 手には長剣。よく手入れしているのか、刃こぼれもせずキレイな剣だ。それをこれ見よがしに振りながら階段を一段ずつ上がってくる。


「よお兄ちゃん、邪魔するなら容赦しないぜ」


 それはこちらのセリフである。ダニエルは木槌を構えると、賊の剣を薙ぎ払い、二打目を男の脇腹にめり込ませる。


「ぐ、あ……っ」


 崩れ落ちる男を見下ろし、再び木槌を構えた。


「な、なんだこいつ……!」


 階下から迫ってくる人間の数が増えて来た。ポチやクリスティアーナは大丈夫だろうかと思うものの、他人を気遣う余裕なんてものはない。


 背後から襲ってきた賊を交わしそのまま階段下へ蹴り落とす。リリアーナの事があるのでここで時間を取られるわけにはいかない。それなのに階下からわらわらとやって来る賊がダニエル目がけて刃物を振り上げてくる。


(せめてメイドさんたちの籠城が終わるまでは足止めしないと)


 屋敷にいた使用人たちは連携して動き、メイドを始めとした女性使用人が誘導され次々に移動をしている。そんな彼女たちを守るよう剣や火かき棒を持った男性使用人がいた。


 かかってくる賊には容赦せず小槌を打ち込んでいく。向こうは命を狙ってくるのだからダニエルだって容赦はしない。こんな状況で加減などできない。


 簡単に倒れていく仲間を見て賊たちも足踏みをするようになった。しかしリーダー格が大きな戦斧を振り上げて大声を張り上げた。


「怯むな行けええええ!!」


 らちがあかない。ダニエルは木槌を背後に放ると、近くにあった大きな磁器の飾り壺を持ち上げ、そして振り下ろす。人間並に大きくて重い壺だ。賊たちは受けとめきれずにまとめて階下に転げ落ちていった。ついでに壺も見事に割れ、どこからか悲鳴が聞こえてきた。


「リリアーナさん! どこにいらっしゃいますか!」


 声は返ってない。しかしどこからか扉にぶつかったような、くぐもった音が聞こえて来た。


「――食らえバケモンがよ!!」


 直後、背後から激しい衝撃を頭に受けた。

 ダニエルは魔力持ちで身体能力が底上げされているものの、攻撃を食らえば当然のようにダメージを負う。


 強烈な痛みに一瞬気が遠くなったが、倒れる直前に床を強く踏み、なんとか倒れることなく意識を留めた。


「……あの人を守れるならバケモノにでも何でもなりますよ」


 振り返った先には木材を握り締めた男。盾のように構えた木材ごと拳でぶち抜けば、勢いよく壁の方へ転がっていく。


 頭がふらふらするが構っていられない。ダニエルは一縷の望みにかけて先ほど音がしたほうへ駆け出した。




 ◇




 一方、嫌がるリリアーナを無視して強引に部屋へ連れ込んだジョセフ。一瞬聞こえたダニエルの声に呼応したものの、すぐにジョセフが扉を閉めてしまったのであれ以来声は聞こえない。


「大丈夫だよリリアーナ。僕が守ってあげるからね」

「ジョセフ様、離して……!」


 しっかり握りこまれた右腕はどうあっても離してくれそうにない。気を抜けば泣いてしまいそうなこの状況にぐっと下唇を噛んで耐えた。


「そんなふうに唇を噛んだら傷ついてしまうよ」

「いや、触らないでください」


 伸ばされた指先から逃げるように顔をそらす。ぎゅっと目をつぶって下を向いていたら頭を撫でられる感触がした。


「大丈夫だよ。怖いんだよね」


 目の前のあなたが怖いんです。リリアーナにはそれすら言えなかった。もしこの状況で彼が激昂したり、無理やりにでも触れてこようとしたら、リリアーナに抗う術はない。


(こんなのいや。だれか助けて……)


 ジョセフはリリアーナを気遣ってるつもりなのがまた腹立たしい。気遣ってる自分に酔ってるだけじゃないか。やってることは独りよがりで強引で。自分たちだけ逃げだしたのも嫌だ。屋敷が襲われている状況なら余計に姉やダニエルと一緒にいたかった。


「ああ、久しぶりに二人きりだね」


 そう言ってリリアーナを抱き寄せようとするジョセフに心底ゾッとする。同時に怖いという感情よりも憤りの方が大きくなった。もう我慢ならなかった。


「わ、私の話を、ちゃんと聞いてください、私が嫌がってるのに気づいてください、私はあなたのお人形さんじゃありません!」


 腕を離してもらおうと暴れて、後ろ手にドアノブを探しがちゃがちゃと鳴らす。例え廊下が危険だとしも耐えられるものじゃなかった。どうにか外に出て、姉たちと合流して。その時、ドア越しにダニエルの声が聞こえた。リリアーナを探している。


「ダニエル……いっ!」


 あ、と思った時は強かに後頭部をぶつけていた。背後にあった扉に強く打ち付けたらしい。


「うっ……」

「どうしてそんなこと言うのかな」


 痛みで目の奥がちかちかするのを感じながら顔を上げた。目の前には怒りをあらわにしたジョセフが迫っていた。


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