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姉の婚約者と仲がいいピンク髪妹だわ詰んだ  作者: 猫の玉三郎


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34/40

34話 どういうことなの

 リリアーナがダニエルの用意したジュエリー三点を身につけて登場した。その姿に心臓がぎゅっと締め付けられた。


 ついに始まる品評。ダニエルの心拍数がどんどん上がっていく。先ほどのガーネットセットは大変豪華なものだった。見栄えとしては劣るとしか言えず、ダニエルの胃はきりきりと痛み続ける。しかし、やれるだけの事はやった。


「豪華さよりも可憐さを追求したセットだな。イヤリングの控えめな輝きと指輪のバランスはとても上品だ。だがこれは銀か? 艶もあって温かみもある。初めてみる色合いだな」


「森の奥に咲く小さな花のようですわ。派手さはないですが、何より石がいいです。ほのかに青く光るこれはやはり魔石でしょうか」


 ポチとエリザベスのコメントは思った以上に肯定的だ。


「ものは言いようだな。こんな華やかさの欠片もないものがリリアーナに相応しいとでも? 軽く見られたものだよ。やはり平民といったところだろうか」


 やはりジョセフは容赦ない。クリスティアーナからのコメントはなく、まだじっと見ている。


「しかし、本当にこれはなんでしょう。魔石だとは思いますが……クリスタルバレー産だとしてもこのような淡く色づいた発光は見た事がありません。しかもよく見ると表面がうっすらと虹色で……もしかして最近噂に聞く竜涎魔石でしょうか」


 エリザベスはダニエルが加工した魔石が気になるようだ。


(しまった。ルーのやつ我慢できなくて舐めたな)


 どうやらダニエルが目を離した隙にやったらしい。いったいいつの間に。一方でリリアーナが指先でネックレスを持ち上げながら不思議そうな表情をした。


「石の部分が温かいんです。それに、すごく軽い。まるで何も着けてないみたい」

「……触れてもいいかしら」

「はいお姉様」


 今まで黙っていたクリスティアーナがセットに触れながら様々な角度から確認していく。


「……ドワーフの石、なのかしら」


 ぽつりと落とされたつぶやき。

 それにこの場にいた全員の注目を引いた。


「なんだ、それは」

「通常では考えられない働きをする魔石があるのよ。持ち主を守ったり、傷を癒したり……分かっているのはドワーフが加工した魔石ということだけで、総じてそれらの魔石は『ドワーフの石』と呼ばれているわ。最近になって我が国でも研究されているけれど、とにかくサンプルが少なくてまだ大きな発見はされていないはず」


 全員がダニエルへと視線を向ける。どう説明したものかと悩むが、正直に伝えることにした。


「ドワーフの知人からアドバイスをもらったのは事実です。しかしこれがドワーフの石と呼ばれるものかは存じません」


「話にならんな」と鼻をならすジョセフとは反対に、ポチは興味深そうにセットを見つめていた。悪戯を思いついた悪童のような表情だ。


 両者の評価は揃った。

 あとは審判を待つのみだ。




 しかしその時、物々しい音が辺りに響き、扉が了承もなく突然開かれた。


「どうしたの」

「失礼します! 先ほど敷地内にある物置小屋で火災を発見しました。すぐさま対処に当たっていたのですが――」


 兵士長と見られる男は焦りを滲ませながら報告を続ける。


「それをきっかけに暴徒とみられる集団が屋敷になだれ込んできました。その数おおよそ七十、武装した農民あるいは住民と思われます。ただ――」


 言い終わらないうちにジョセフが勢いよく立ち上がった。


「なんということだ! リリアーナ、きみは僕が守る!」

「え?」


 言うや否や困惑するリリアーナの手を引き、迷いなく部屋から出て行ってしまった。それはあまりにも突然で。


「待ちなさいジョセフ!」


 クリスティアーナの制止の声が届くはずもなく、残された面子は唖然とする。その合間にも空いた扉の後ろから物騒な音が聞こえてきた。


「……兵士長、さっきは何を言いかけたの」

「はい、そこらの住民とは思えないほど武器の心得があり戦闘慣れしております。兵たちで応戦しておりますので、どうかクリスティアーナ様はここをお離れになりませぬよう」


 ぐっと表情をしかめる。クリスティアーナはジョセフたちが出ていった方向を睨みながら小さくうめいた。


「……ジョセフ、あなた」


 それは小さくとも苦悩に満ちた声音。

 ダニエルも気が気でなく、今すぐにでもリリアーナを追いかけたい気持ちでいっぱいだ。


「ポチはここで私を守りなさい」


 この状況を鑑みて指示を下すクリスティアーナを横目に、ダニエルは部屋を下がろうとした。しかしそれは叶わず、ポチの太い腕ががっしりとダニエルを掴んでいる。


「待てダニエル」

「でもリリアーナさんが」


 クリスティアーナが腕で制してみせた。


「落ち着きなさいダニエル・タッカー。賊の狙いは当主である私だわ。小賢しく装ったみたいだけど」


 そう聞かされてもダニエルにはぴんとこない。


「少し前から領主に反感を持つ住民が集まっていると噂があったわ。けれど恐らくそれは作られた噂。実際は雇われた荒くれ者でしょう。屋敷の女と財宝はくれてやるとでも言えば下衆な賊はやる気が出る」


 領民の反乱に見せかけた襲撃?

 いったい誰が、なんのために。


「統治に不満を持った領民に襲われ当主は死亡。ジョセフは決死の覚悟でリリアーナを守って暴徒を蹴散らす。そうして恩と美談を作った上でリリアーナを娶り伯爵家の新たな当主になるって筋書きかしらね」


 つまりジョセフの自作自演?

 邪魔者は賊に決してもらい、自分は空いた椅子に座ろうというのか。ポチがふんと鼻を鳴らす。


「ああ、あのガーネットセットも伯爵家当主になること前提で金を引っ張ってきたのかもな。じゃないとたかが貴族の三男坊にあれは無理だろう」


 クリスティアーナとの婚約は潰えて、仮にリリアーナと結婚できたとしても伯爵家当主にはなれない。だからリリアーナと当主の座、そのふたつを手に入れるために動いている。その可能性が高いと。


「プライドが高い人だもの。ダニエルにも圧倒的敗北を突きつけてやりたかったんでしょう。それにリリアーナの目を覚まさせたかったのかもしれないわ」

「そんなことのために……」

「ダニエル。あなたはリリアーナたちを追いなさい。ジョセフと一緒でも万が一があるわ」


 クリスティアーナの静かな瞳がまっすぐに注がれる。彼女は冷静に、そしてちゃんと憤っていた。


「妹を頼みます」

「……はい。この命に替えても、必ず」


 リリアーナを守れるのなら何を犠牲にしたっていい。幸いダニエルは魔力持ちだ。この力があれば盾でも矛でも多少の役には立つだろう。


「待てダニエル。これを」


 ぽいっと投げられたのは柄の長い木槌だった。頭部分はさほど大きくない。先日の火事現場で振り回した甲斐あって、今一番使いこなせそうな気がする。


「おまえと遊ぼうと思って内々に作っていた」

「……ありがとうございます」


 武器として持っていけということらしい。ありがたく頂戴し、ダニエルはドアの外へ飛び出した。

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― 新着の感想 ―
すげぇですわ!? 結構なろう読み漁ってるのに、予想よりもヒデェ方向に下郎ですわ!?? アナ雪的なアレだけど、コイツの場合は普通にしてれば近しい立場に普通についていたのに……。
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