眠りについたお鍋の話★番外編お礼SS★
こちらは他サイトにて、本作の商業化に伴いあちらの規約により作品取り下げをする際に、読者さまに告知を兼ねたお礼SSとして公開していたものです
作品非公開までの3時間ほどしか公開出来ていなかったので、なろう版でも掲載する事にいたしました(後日譚本編は次話からスタートです)
書籍化・コミカライズ化のご縁をいただけたのは読者の皆さまのお陰です
改めて心からお礼申し上げます…!
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鍛冶職人の村はもうすっかり秋の気配に飲まれています。
あちこちの集落から行商人さんが訪れて秋の実りを届けてくれるので、毎日献立を考えるのが楽しい日々を送っています。
「なぁ……フローラさん。最近、魔法の鍋が元気が無い気がするんだけど……」
「そうですね。最近はちょうど作った量と同じくらい、全員分配ると空になってしまいますね……」
夕食を共にする村の方々のお皿に盛り付け終わって、空になったお鍋を何となく、ギルバートさんと二人で眺めていました。
「平和になったからねぇ。役目を終えて、お休みしているんだろうね、きっと」
そう語りかけて来るのはバーバラさんです。
「だってね、お鍋がいつも元気いっぱいで、いくらでも料理を増やしていたら、食材を大切に育ててくれている農家が困ってしまうからね。作物の値うちが下がっちまう」
「確かにそうですね……」
それからバーバラさんは鍋を優しく撫でます。
「また良くない事が起きたり、日照りや災害なんかの時は、きっと助けてくれるよ」
「良くない事は起きないで欲しいから……鍋が普通の鍋に戻ったままでいるのは、喜ぶべき事なんだろうな」
少しだけ寂しそうに、ギルバートさんは鍋の縁をなぞりました。
「でも、スープは人数分を作りましたから、大丈夫ですよ! もし足りなければ別のお料理もあります。ギルバートさんが作った燻製もありますし……!」
「そうだな! なんだか、食い意地が張ってるみたいですまない……」
困ったみたいに笑うギルバートさんですが、実は最近、村の方々と共に燻製作りに熱中しているのです。
ここは職人の村なので、鉄を打つ鍛冶師以外にも様々な職人さんが居ます。
そして、毎日木材を加工する際に出る大鋸屑や鉋屑がたくさん集まります。それと鍛冶場の炭を使って、ギルバートさんは毎日お肉やお魚、茹でた卵やチーズなどを燻製にしているのです。
木の種類で香りが変わるだとか、火加減や下味の塩加減など、子供たちや村の職人さん達と共に試行錯誤していて、そのお味はなかなかのものです。
お陰で料理に彩りが増えて、食事時はさらに楽しいものになっています。
ギルバートさんは早速腕まくりをして、今日皆で食べる大きなお肉の燻製を切り分け始めました。心なしかいつもより気合が入っている気がします。子供たちが切りくずを盗み食いして笑い合っていました。
「あんた達が楽しく暮らす日々の音色を子守歌に、このお鍋は眠っているのさ。お祝い事がある時なんかには、気まぐれに起きて、またちょっとした奇跡をくれるかもね」
バーバラさんは鼻歌混じりにそんな事を呟きます。
日々の平穏に感謝を込める気分で、わたくしもお鍋の縁を撫でました。
お鍋の縁に刻まれたアイビーの模様は、もう随分と薄くなっています。
けれどもまるで応えてくれるみたいに、ほんの一瞬、小さな光が瞬きました。
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<商業化のお知らせ>
2025年10月24日 KADOKAWA MFブックスさまより 書籍1巻刊行
https://www.kadokawa.co.jp/product/322503001143/
(1~2か月ほどあけて2巻刊行予定、全2巻完結です)
2025年10月25日 講談社 Palcyさまにてコミカライズ連載 配信開始
イラストレーターさま・漫画家さまのご紹介は、9月6日付けの活動報告をご覧ください
★書籍の特典情報:書店4件オマケ2件の計6件ほど書下ろし特典があります。
こちらも活動報告にご案内予定です。何卒よろしくお願いいたします!
★なろうに別作品を投稿開始しています(作者名のリンクから飛べます)
亡国の姫君は英雄から心臓を取り返したい(10月1日掲載開始)
混沌は人のかたちをしていない(10月中旬~下旬ころ掲載開始予定)




