『雑草』と蔑まれた令嬢は、魔術で『夜空』を纏う
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下級侯爵令嬢のイリスは、そのセンスを「悪趣味な雑草」と嘲笑されてきました。
高慢な令嬢仲間への屈辱を晴らすため、イリスは魔術師レオンと協力し、最高の知性と技術を武器にした、痛快なざまぁ計画を実行します!
「格式」を笠に着る貴族たちに、新しい美学を見せつけます。
どうぞ、お楽しみください!
「ねぇ、見てよあれ。相変わらず趣味が悪くて、まるで道端に咲いてる雑草みたい」
「ふふ、確かに。せっかく持って生まれた顔立ちは悪くないのに、どうしてこうもセンスがないのかしらね」
公爵令嬢のセシリアと伯爵令嬢のベアトリスの陰湿な笑い声は、サロンの華やかな喧騒の中で、侯爵令嬢のイリスの耳に痛いほど響いた。
イリスは下級侯爵家の娘だ。貴族の中では下から数えた方が早い家柄だが、彼女の母は平民の出であり、その血のせいか、イリスの美貌は派手で力強かった。しかし、それは上級貴族の令嬢たちが好む「可憐で儚げ」な美しさとはかけ離れていた。
特に、ファッションや髪飾りを選ぶセンスについて、イリスは何度も陰口や直接的な侮蔑を受けてきた。「下級貴族の安っぽい趣味」「田舎臭い」――彼女の精一杯のお洒落は、彼女たちの格好の餌食だった。
イリスは胸の奥で煮えたぎる怒りを押し殺した。彼女たちの高慢な態度は、単にファッションを揶揄しているのではない。彼女の家格と出自を嘲笑っているのだ。
ある日の午後の庭園。イリスは溜息をつきながら、人気の少ないベンチで一人座っていた。
「また、セシリア様たちですか?」
控えめな声に顔を上げると、そこに立っていたのは子爵家の三男、レオンだった。彼もまた、イリスと同じく下級貴族の生まれだ。
レオンは優秀な魔術師だが、子爵家という家格と、目立たない容姿、そしていつも地味な色の仕立ての良い服を着ているせいで、令嬢たちからは「陰気なモブ」「地味な子爵家の置き物」と揶揄されていた。
「レオン様。ええ、相変わらずですわ。私の服の『下品な色合い』が目の毒らしいです」
イリスは自嘲気味に笑った。レオンは少し顔を曇らせ、優しく言った。
「あなたの服は、明るくて生命力に溢れていて素敵ですよ。ただ、『上級貴族の格式』に見合わないという、彼女たちなりの『ルール』に違反しているだけです」
「あなたの静かな美学も、彼女たちには理解されないでしょう? 私もあなたも、彼女たちが設定した『枠』の外にいるのですわ」
二人は顔を見合わせ、共犯者めいた笑みを浮かべた。同じように侮蔑されてきた者同士、言葉にしなくても互いの苦悩を理解していた。
「イリス様、一つ提案があります。彼女たちの『ルール』を逆手に取り、二度と僕たちの外見を馬鹿にできなくする方法が」
レオンの瞳が、魔術師らしい鋭い光を放った。
数週間後、王家の主催する大規模な夜会が開かれた。
イリスは、これまでの彼女からは想像もできないほど地味で無個性なドレスで会場に現れた。色は限りなく白に近い薄いグレー。装飾は皆無。髪も控えめにまとめ、宝石も小さな一粒ダイヤだけ。まるで、地味な侍女が着るような、『格式高いが面白みのない』ファッションだった。
案の定、セシリアとベアトリスはすぐにイリスを見つけ、冷笑した。
「あら、イリス。今日は一体どうされたの? 突然、自分をわきまえたのね」
「そうね、悪趣味な色がないだけで、随分とましに見えるわ。下級貴族にはそれくらいが身の丈に合っているのよ」
彼女たちは、イリスの「負け」を確信し、満足げに笑った。
その時、レオンがイリスの隣に立った。彼はいつも通り地味なダークネイビーの服だが、今夜は彼が研究の末に開発した特殊な魔術加工が施されていた。
「セシリア様、ベアトリス様。私はイリス様をエスコートさせていただいております」
「あら、レオンもご一緒なのね。まぁ、二人とも揃って地味なこと。まるで会場の壁みたいだわ」
セシリアが傲慢に笑い、イリスのシンプルなドレスを指差した、その瞬間――
ザワ…ザワワ…
会場の周囲にいた人々が、突如として二人に注目し始めた。そして、彼らは驚愕の声を上げた。
「見て! イリスのドレスの色が…!?」
レオンがイリスの耳元で囁いた。
「今です、イリス様」
イリスは静かに、レオンが渡してくれた小さな銀のピンブローチを胸元に留めた。
次の瞬間、イリスの地味なグレースーツは、レオンの魔術とブローチに込められた触媒の作用で、恐ろしいほどの速さで変化した。
薄いグレーの生地は、深みのあるサファイアブルーに変わり、控えめなスカートの裾には、精緻な銀糸の刺繍が浮かび上がった。
そして、最も劇的だったのは、レオンが開発した『色変化の魔術インク』。それは、光の当たる角度によって、青から紫、そして煌めく金に変化し、まるで夜空を閉じ込めたような壮麗なドレスに変貌したのだ。
その華やかさは、セシリアやベアトリスが今着ている、高価ではあるが既視感のある流行のドレスを瞬時に陳腐なものへと貶めた。
会場の視線が、一斉にイリスに釘付けになる。彼女は、これまでの鬱憤を晴らすように、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「セシリア様、ベアトリス様。あなた方は仰いましたね。私の趣味は『下品な色合い』だと。だから、私は今日、あなた方が『格式高い』と認める無個性で地味な色の服を着てきました」
イリスは、見事に変化した自身のドレスを指先でなぞった。
「そして、私はあなた方が『下級令嬢にはできない』と見下した、革新的で高度な魔術によって、このドレスを『一瞬で変貌』させました」
「この色の変化、このデザインは、あなた方がどれだけ高価な布を買っても、どれだけ流行の仕立て屋に頼んでも、決して真似できないものです」
セシリアとベアトリスは、驚愕と、自分の着ている流行のドレスが急に色褪せて見え始めた事実に、顔面蒼白になった。
レオンが静かに続けた。
「真の美学とは、他人の価値観に従うことではなく、技術と知性を持って、誰も到達できない独自の美を創造することです。あなた方の価値基準は、我々の知性の前では、ただの古い常識でしかありません」
彼らのざまぁは、ただの「派手さ」の勝利ではない。「あなたたちには理解も真似もできない、新しい高貴さ」の提示だった。
イリスは、完璧な笑顔で深々とお辞儀をした。
「私の『下級令嬢のセンス』、いかがでしたか?」
二人は、何も言い返せないまま、周囲の嘲笑めいた視線に耐えきれず、顔を真っ赤にしてその場から逃げ出した。
イリスは、そっとレオンの手を取り、感謝を込めて微笑んだ。
「ありがとう、レオン様。あなたのおかげで、最高のざまぁになりましたわ」
「いえ、イリス様。あなたと私の知性とセンスが、ついに認められただけですよ」
二人は、会場の注目を浴びながら、夜会の主役としてダンスフロアへ向かった。下級貴族の「悪役令嬢」は、最も輝かしい光を放つ真のヒロインへと変貌したのだ。
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「センス」を馬鹿にされたイリスが、知性と技術で最高のざまぁを達成する物語でした。
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