鉄の森と熱動力移送吸引機器<ポンプ>に関するフリッカ・コロンナの考察 ―『偽りの創世神話』から抜粋 ―
また次話から恋愛トーンに戻ります。
しっかり読んでもらえると嬉しいけど、複雑なので論文やイラストの雰囲気だけでも味わってもらえると幸い。
世界樹のポンプの仕組みと、鉄の森 (ヤルンヴィット) の存在が物語の鍵になってくるので、そこだけ覚えてもらえると嬉しいです。
1,世界は1枚の盤面と鉄の海
前章までに重ねた論証によって、世界はたったひとつの大型盤面、通称“超大陸”と真紅に染まった鉄の液体で構成されていることを述べた。
鉄の液体は、古い人々によって“海”と呼ばれていたことが明らかになっている。
その呼称が確認できる最古の記載は、宗教国家エインヘリヤルから信仰国家ニーベルンゲンに移管された古文書群である。口語でもっとも古いのはイヴィングの伝承歌であろう。
古文書の著者は「ラインの地」に住んでいた詩人だとされる。
その詩人がどういう立場で世界の成り立ちを把握したのかは不明だが、超大陸と鉄の液体は少なくとも10億年以上前に存在していたと書かれていた。
とはいえ、世界のなりたちはテーマが壮大すぎ、論じるのは現時点では不可能だと断言できる。
「堕ちた森」を探索できるようになったあかつきにはさらなる証拠の発見も期待できるだろうが、この著書で語るべき題目から逸れるので割愛する。
2,“世界樹”が吸い上げる熱とデンキの力
“大陸”と呼称される盤面は超古代文明の集団ニブルヘイムによって何層にも重ねられた。
現在私たちの生きる大陸が10層目……10枚目に当たると提唱したのは、モンサルバートの老研究者であった。おおよそ1万年前のことである。
ニブルヘイムの文明が現代の我らにとっても未知のものであることは言葉を重ねるまでもないが、「大陸を創る」という創造主のようなことを成し遂げてきた背景には世界樹の存在があったことは断言できよう。
我らが暮らす大陸の最下層。
最根底に存在する超大陸と鉄の海の下にはソール(太陽)という熱の塊があり、その周囲をアルスヴィッド(熱によって追い立てられ走るものの意)という相当に熱い鉄の流れが覆っているそうだ。
巨大な樹に模された“世界樹”――通称ポンプは、アルスヴィッドの熱そのものを吸い上げて利用するパターンと、熱力を加工して生まれたデンキという2つの活動力を上方向に供給していたパターンがあったと、筆者は推測する。
世界のなりたちおよびポンプの仕組みに関しては推論に推論を重ねたものにすぎないが、筆者の考察が机上の空論として一蹴できないことは、先に紹介したラインの地の詩人による文字記録と、“鉄の森”ヤルンヴィット神興国が残した遺跡の壁画が示す通りだ。
なお、デンキについての補足である。
デンキはニブルヘイムの古文書にも記載されていた謎多き活動力の一種だ。詳細は分からず、どうやって作り出されるのかも不明。ただし、高い文明が存在したとされるヤルンヴィット神興国とニブルヘイム、ラインの地ではデンキが利用されていた痕跡がある。
3、ポンプの熱力がもたらした超高度文明、ヤルンヴィット神興国
世界樹の力を使い、旧盤面の上に新しい盤面を重ねるという手法は、おそらくニブルヘイムの人々によって続けられてきた。
ちなみに、「なぜ人々は同じ盤面(大陸)にいられなかったのか」「なぜ新しい盤面を作らなければならなかったのか」は本文のテーマから離れるのでここでは触れない。
そして、10層目の盤面においてニブルヘイムの地盤管理に反旗を翻したのが、“鉄の森”ヤルンヴィット神興国である。
遺跡の壁画等に残る乏しい証拠から、彼らがニブルヘイムの管理下において世界樹の管理権限を奪取し、一時期は大陸における支配者の座を手に入れていたとみられる。
だが、彼らは1万年以上の間地盤を揺るがした後、たった7日間で消滅した。
ヒトと、ヒトの形を模した鉄による「50人会議」での国家運営や特殊金属でできた国道、兵器、吸引食物等に象徴される強大な国力は、ポンプで吸い上げられた活動力に支えられニブルヘイムを圧倒したという。
ヤルンヴィット神興国が鉄の森と呼ばれたのは鉄の利用に長けたからであり、その技術力によって旧超大陸地下に埋まるアルスヴィッドの鉄熱を柔軟に生かすことに成功したからに他ならない。
だが、後に同じ地域に建国されたミドガルズ帝国には鉄の森の技術は引き継がれなかった。前身である共同体の文明が全く継承されないというのは非常に珍しい事例である。
4、世界樹<ポンプ>の故障と創世神話
エインヘリヤルの古い歌には「南の悪い王様が死んだとき、呪いをかけて世界樹を枯らした」という一節がある。
都市連邦バナヘイムの民謡学者の中には、この一説等から「世界樹が堕ちたのと同じタイミングで、大陸南方において国家存亡にかかわる戦争があったのではないか」と見る向きが強い。
いずれにせよ、鉄の森が消えた背景にはポンプの故障もしくはニブルヘイムの介在があったと考えられる。
バナヘイムの学者が論ずる通り、鉄の森消滅とポンプの故障、創世神話の急激な流布という3つの出来事については、わずかな石碑を含む発掘品から時期が近しいことが確認できた。関連している可能性は高いだろう。
だが、人為的に証拠が消されており断言できることは少ないのが現状だ。上記事象に関与しているとされるニブルヘイムも、人々が容易に足を踏み入れられない東端の山奥へと場所を移してしまった。
5,機器誤作動とヤルンヴィット一族
最後に、上記の謎を解く手がかりとして期待される2つの事象の紹介を以て本章の結びとしたい。
ひとつは、同時期から続くポンプの誤作動と思われる現象。
名前や居住地は伏せねばならないが、ポンプに記憶された鉄の流れとは違う方法で熱力が生まれた際に、異形の生き物やかつての記憶を持ったままのヒトが生まれて話題になった事例――筆者が確認した限りでは10以上――がある。
このイレギュラーを追えば、ポンプ誤作動の詳細も判明するのではないだろうか。
誤作動の実情を知ることで神話流布の理由も浮上してくるだろう。
そしてもうひとつが、鉄の森の50人会議を仕切っていたヤルンヴィット一族の存在である。
一族というからには血のつながりがあると考えられるが、鉄の森に関しては王室や皇室の存在は確認できていない。
一説によると、ミドガルズ帝国にはヤルンヴィット一族の生き残りがいるとされる。
彼らが滅亡した超高度文明とどのように関わっていたのかは聞いてみないと分からないが、同帝国の支配階級には創世神話を絶対視し、神話時代への回帰を訴える一派が多いことと無関係ではないのかもしれない。




