お爺さんやっぱりはしゃぎすぎたんですね?
「キッチョウさん、ありがとうございます」
「なに……ワシ、も……はしゃぎ、すぎ、た……」
お礼を言いながらお辞儀をすると、なにごともなかったかのようにキッチョウさんが微笑む。長い長い竜の首がゆっくりと、傾げられた。
というかやっぱりね! 途中から殺意が高くなったと思ったけど、やっぱりはしゃいでたのねこの爺さん! 勘弁してくれ!
世話になったようなもんだし、ジンの内に溜めていた不満にも気づかされたから結果オーライだけどさ! そこのところは感謝してるからいいんだけどさ! いいんだけどさあ!
「いえ、その……ジンが抱いていた不満も分かったことですし、私達の信頼関係を試してくれたんですよね? だからこそ、本当に感謝しているのです。お爺さん、ありがとうございます」
いまだ動画は切っていない。AIはここまで考えてくれているのだと、ゲームをゲームとして考えるのは悪いことではないけど、しっかりあちらも人間のことを考えて行動を示してくれているのだと大勢に知って欲しいから。
笑顔でキッチョウの頭を覗き込み、お辞儀をしたために羽織りがさらりと揺れる。すると、お爺さんはしばし沈黙をしたかと思うと、声をあげた。
「む……? すまぬ…………ワシは、ただ……はしゃいだ、だけ、だ……他意は、ない」
「はい?」
お辞儀をした状態のままぽかんとする。
わ、わ、私の勘違い? 全部私の勘違いだと? そんな馬鹿な? 深く考えすぎで……? ええ!? 嘘でしょ嘘だと言って、さっきまであんなにドヤ顔で「信頼を試してくれたんですよね?」って言っていたのが馬鹿らしくなっちゃうじゃないですか、嘘すぎない? 恥ずかしすぎない? 動画切っとけばよかったじゃないの!
「……そ、そうで、そうですか」
「動揺……させ、て、すまん」
「い、いえ、動揺なんてしてませんし、あなたの試練で大切なものを掴めたのは事実ですし、そ、そんな、こんな簡単なことで動揺なんてしていたら動画撮ったりできませんし!」
「……立ち回って、いるとき、と……普段、では……随分と……雰囲気が、変わる……のう」
うるせーやい!
「そ、そんなことよりも、試練は成功ということでいいのですよね? 私が切り落としたわけではありませんが、そこの指定はありませんでしたし」
「よき、かな……共存者、ケイカ。お前には……『神獣の水薬』を五つ、やろう。店では……売っておらぬ。それと、これの……レシピもよ……」
「はい!? レシピも!? 私、生産職ではないのですが……」
「この……水薬、は……『ヒール・レイン』を、扱える……聖獣が、いなくては……完成せぬ」
キッチョウさんの説明に一応納得はする。この情報も貴重だ。生産職か支援職で回復メインの人辺りがこの試練に挑むことができれば、店売りされていない珍しい回復薬を作れるようになるということだし、いろんな人がほしがるものだよね。私は情報屋ではないし、秘蔵することもできるが、残念ながら私がほしいのは情報料ではなくて再生数だ。
再生数を稼ぐためにこの情報はとてもいい。
扇子を取り出して口元を覆い、ほくそ笑む。悪どい感じの笑みは優雅じゃないから隠さないとね。私だって欲深い人間だもの。
キッチョウの試練もアカツキを使わずにオボロで行ったから、速攻で試練を終わらせるよりは行動パターンをしっかりと撮れていたはずだし。後続の攻略の助けにもなるだろう。『はしゃいでしまった』ということは、本来の試練はもう少し難易度は緩めなんだろうし、人の役に立てるのは素直に嬉しいよ?
もっと欲を言えば、私の後追いで舞姫になる人が増えてほしいし、私に会いに来てほしいってところかな。
「キッチョウさんは、スカウト……できないのですか?」
「行っても……よい、の、か?」
大きな目を丸くする。
いや、むしろ来てほしいんですが。でもしばらくは緋羽屋敷で待機か……。
「お屋敷に待機……ということになってしまうのですが、それでもよければ」
「ワシは……あまり、戦闘は得意、ではない……そのほうが……ありがたい」
いや嘘つくなよめっちゃ強かったでしょ。
ついて来てくれるなら素直に嬉しいからいいんだけどね?
「それでは、よろしくお願いします」
「……よろしく、頼む」
――――――
聖獣キッチョウはあなたに力を貸したいようです。
引き受けますか?
――――――
当たり前だ!
手を差し出す。それを見つめてキッチョウは静かに目を閉じた。
光が彼を包み込み、どんどん収縮していく。
――――――
パーティがいっぱいです。
転送する先を選んでください。
――――――
そして小さくなった亀の姿を抱き上げる。背中に咲いているのは樹木ではなく小さな芽のようなもの。幼い、という意味だろうか。
ええとステータスは……パーティに入っていないと見られないかあ。
それじゃあ、アカツキのことが終わるか、次の街に着いて地点登録してからじゃないと緋羽屋敷に帰って可愛がることはできないね。本人も了承してくれているから大丈夫だと思うけれど。
「お屋敷でのんびりしていてください……『レキ』」
亀が頷く。
そうして、ボス戦フィールドは静けさに包まれるのだった。
「行きますか」
動画を切って、それぞれの鳴き声を受けて歩き出す。
次の街は、もうすぐだ。
アイテムとレシピについては次回で。
ネーミングは歴史のレキ。なんとなくとフィーリングでつけております。




