やめてください死んでしまいます!
これはいわゆるボーナスステージだ。
キッチョウを、ボス戦をする前から無力化することができたことへのご褒美!
店売りにない回復薬っていうのも気になるよね。また私が先陣を切って第一人者になれたことを嬉しく思うよ、本当に!
「はじめ」
その合図と共にオボロが走り出した。
地面を凍らせながら速く、速く、キッチョウの頭部を目指して。
それと同時に自分達の向かっている氷の下から微かな赤色の光が浮かび上がった。
……嫌な予感がする。
「オボロ、避けて」
「ワオン!」
自ら作った氷の道から外れ、その上を跳躍することは選ばずそもそも通らないように横っ飛びに光を避ける。すると1秒するかしないかの僅かなタイムラグがあって、地面からにょきっと樹木の根っこらしきものが生えてきた。あのままあそこを走っていれば串刺しだったかもしれない。
えっ、ちょっと待ってください。殺意高すぎない? 嘘じゃん。
「太陽属性は植物系も含む……んですよね」
冷静に分析するフリをして内心の冷や汗と、微妙な恐怖心を押さえ込む。これはVRゲームだ。ライジュウやミズチに攻撃され、衝撃こそあるものの痛くはないと知っている。むしろギリギリ回避はアドレナリン的なものがどっぱどっぱしてとても楽しいとさえ感じる。
いやでも串刺しは無理じゃない? なしでしょう、なし。
普通に考えて無理。ケモノに攻撃されても爪でザクーッ! で済むけど串刺しとか絵面もやばいし、やられたら精神的にも来るでしょ。痛みがなくても発狂ものじゃない? あと、見る側もそう! 動画に閲覧注意がついちゃうよ!? 無理だって!
必死でオボロに指示出しをしながら避ける。氷上でスピードが出ているとかえって罠にハマりやすく、頭上で旋回しながら突き出てきた根っこを燃やしているアカツキにも、周りの森林が成長して襲いかかる。
「ふうむ……強い、な……よきかな」
嫌な予感が加速した。
キッチョウが頭上を見上げると、みるみるうちに雲が引き寄せられ、雨が降り始める。雨が降っている間はスキルの『遊泳』で素早く動けるシズクも、自分が降らせた雨ではないからか、上手く動けないらしい。
地上では先ほどよりも根っこの出るスピードが上がっているし、なんなら妨害役のアカツキは雨が降り出したうえに、地上と同じく事前予告ありの雷を避ける必要が出てきた。
まてまてまて! お爺さん本気出しすぎ! やめて! 試練って言っても、もう少し楽にしてくれてもいいんだよ!?
ピシャンと雷が落ちて、次に轟音と揺れ。落ちた場所の土が吹き飛び、捲れ上がる。この揺れもなかなか厄介で、地震みたいに走っているのが難しくなってしまう。
「オボロ、大丈夫ですか?」
「くうん、ワウッ!」
たたらを踏んでふらつくオボロに声をかける。
乗っている私自身は、いくら揺れても振り落とされるなんてことにはならない。器用値でバランス取れるからね!
でも、オボロはスピード特化なので足元を取られると弱いのだ。励ましながら前に進んでいく。
「跳び上がりますよ!」
「ウォンッ!」
とうとうキッチョウの頭までやってきた。
ガパリと口を開けるキッチョウに嫌な予感がして指示を出す。ちょうどキッチョウの甲羅の大樹から樹木でできた竜のようなものが、地面に向かって放たれてきたのでジャンプしてその上に乗る。
このまま一気に大樹の上へ!
樹木の竜を登り始めたら、真下で轟音。
キッチョウが口からビームを出していた……いやいやいや、さっきこれ、真正面から向かっていたら当たってたよね? 当たってたやつだよね? お爺ちゃん容赦なさすぎじゃない!? もっと優しくして!
「あと少し!」
伸びてくる樹木から樹木へと飛び移る。
あと少し……というところで、問題の果実が視界に入った。
「なんてところにあるんですか……」
切り落とせと言われた果実はひとつだけ。なっている果実もひとつだけ。
だけど、果実へと繋がる道はツタと葉、硬い樹木の幹でバリケードが作られていて、簡単には辿り着けなさそうだ。さて、どうしよう……?
「……」
頭上で旋回しながら炎を撒くアカツキをチラリと見る。目があった。
「よし、盛大に放火しましょう!」
「ウォン!?」
私は、名案! と言うように笑顔で言い放った。
雨が降ってるから無理? スキルの炎なんだからいけるでしょ! さっきからどちらにせよ燃やしているわけだもの!
いざ、キャンプファイヤー!
神獣郷こっそり裏話
ケイカはものすごく繊細な動きなどは苦手なため、日本舞踊の才能はない。いつもやっているのは、どちらかというと「踊ってみた」みたいな動き。




