ホラーゲームかな???
さて、北にある『陽光の丘』……とは名ばかりの山にやってきた。
装備は相変わらず緋色の羽織り。ニワトリを連想する色みのこの装備はもちろんお気に入りだし、多分他に性能のいい装備があっても私はそれを選ばない。本当はよくないんだろうけど、性能より見た目を重視しちゃうタイプなんだよね。
ストッキンさんはこの装備の性能を上げてくれるし、見た目もどんどん良くしてくれるからわりと好き。変態だけど。絶対に本人には言ってあげないけど。利害の一致もあって、とても気安いから変に緊張する必要もないことだし。
とまあ、いつもの格好で入山。山登りナメてんのかって格好だけどゲームの中だから関係ないね。山の木々の中に紛れるジェム・ツリーのジェムを回収しつつ頂上を目指す。そして途中、久しぶりに見たビックリ・トレントに思いっきり絡まれているのだった。
「神前舞踊『青嵐・横薙ぎ』!」
言いながらくるりと回って、ビックリ・トレントから放たれた木の実を蹴り返す。青嵐は本来かかと落としなので、横方向に向かって蹴る場合は当てはまらない……故に苦肉の策として名前に付け足した。どちらにせよ、ただ蹴っているだけである。
蹴った際に足にダメージがいって微妙に体力バーが削れるけど仕方ないよね。無傷で蹴るには多分防御力が必要ですし!
蹴り返した木の実が直撃し、目を回したようにその場でふらふらとするトレントに次はビンを投げつける。中身は清水だ。そしてトレントに命中してビンが割れ、中身がパシャリとかかるとその場で浄化完了。
水がかかった途端に桃の花びらで包み込まれるようにトレントが覆われ、次の瞬間にはただの桃の木となってそこに佇んでいた。
ありがたく桃をいくつか収穫してその場を離れる。
「ねえ、アカツキ。なんだか変ですね、この山」
「くー」
トレントがたくさんいるのはまだ分かる。山だもの。でもなぜだろう?
「また、残っちゃいましたか……それにあっちにもそっちにもゴミが」
桃の木の根本に散らばるガラスの破片を一括回収し、アイテムボックス内からの破棄を選択する。
なぜかこの山に入ってから、アイテムを使うと入れ物が残ってしまうようになったのだ。いつもはアイテムを消費すれば器も消えるのに。
でも自分のアイテムは残るが、先人の残したゴミは見つからない。この仕様はいったいどうなっているんだろう? バグ? それともわざと?
自分の使ったアイテム以外にあるゴミは、基本的に木々に引っかかる形で見つかる。あ、ほらまた。木々の中に首を吊った状態の人形が……。ホラーかよ。やめてよ。わりと苦手なんだよそういうの。
「うーん、消えてしまう」
人形を取り除いてみるとアイテム取得にはならず、その場で溶けるように消えてしまう。いや、ホラーじゃん。嫌だなあ……。
「しゅる……」
「うん? あ、あんなところにも! ありがとうシズク」
「るるー」
シズクに尻尾で示されてゴミを回収しに行く。
こうして回収して消えるのなら、なんらかのギミックになっていると考えたほうが自然だ。やるにこしたことはない。
「にゃあん?」
「え、なに? ……うわあ、祠だ……」
ジンの鳴き声を探って歩けば、少し木々に隠れて発見しづらいけど、古い赤銅色の鳥居と、その奥の祠が見つかった。賽銭箱は錆びているし、崩れかけていて長年放置されていることが分かる。
「なにこれ……珍し」
そして狛犬の代わりにあったのは狐でもなく、亀と蛇だった。
右に亀。左に蛇。そして亀が前足を上げているところに小さな窪みと空間がある。ここになにかが置いてあったのかもしれない。
「ホラーゲームじゃないですかーやだー」
「くうん」
案の定、みんなで近くを探ると黒真珠のような、しかし手のひらサイズの玉が見つかった。これだろ……と思いながら亀の像の、謎の空間にはめ込む。
ざわり、ざわりと木々が鳴く。
ああ、またゴミがあると思って今度は木の枝に巻かれたマフラーを手に取った。蛇のところにも空き缶があったので取り除く。これでどうだ?
カチリ、と音がなった気がした。
「……」
「……」
ざわざわとした風が通り抜け、そして徐々に収まっていく。
「……」
「……」
先程の雰囲気はもうない。
「いや、なにも起こらないんですか!?」
叫び出した私の肩を、哀れなものを見る目でアカツキがポンと翼で慰めた。
新章開始!
陽光の丘ボスから神獣進化イベントまで。丘はあくまで丘なので、章タイトルのは神獣進化イベントのやつです。




