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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『憂鬱の消えた街』

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眠りのカラクリ

【フェーズ2 開始】


 アカツキが翼を羽ばたかせて滞空している。

 その前に立っているヒュプノスは、ローテンションなジト目のまま彼を見上げている。あくまで人間の姿に化けたままアカツキと対峙するつもりらしい。


 彼は背中の翼を僅かに広げ、狐耳をピクリと動かして尻尾を揺らす。視線はアカツキから外れて下へ向かった。無言で行われる動作に、まだ開戦していないと分かっていても緊張する。


 彼は未だ消えきっていない川の中から小さくなったレーティアを掬い上げると、頬ずりをして「バカなやつ」と呟き、背後を振り返った。


「教祖様〜! このバカをよろしくお願いしますね! ヒューはあなたのためにすっごいめっちゃくちゃ頑張って来ますからね! 応援しててね!」


 先ほどまで虚無だった横顔が、目に光を宿して別人レベルの明るさと甘い声色をホオズキさんに向ける。


「負けちゃったことなんか忘れちゃえ」


 彼の手の中で眠るレーティアの姿が僅かに光る。

 そして一度翼を広げてホオズキさんのほうへと飛んで戻っていった。翼の内側の鮮やかな朱色が美しい。コメントが朱鷺(トキ)の翼だと指摘する。


 困惑しているホオズキさんがレーティアを受け取り、その胸の中に抱く。大切な壊れ物を扱うように。

 そして再びフィールドに戻って来たヒュプノスはとろんとした甘い目と声なんてなかったかのように、だるそうな声で宣言した。


「薔薇のフローリアは街の警備だし、役に立たない。やっぱり最後はボクが一番役に立って愛されるんだよね」

「カァァァ」

「一番になりたいのはキミだってそうじゃないの? 誰だって当たり前のこと。ちょっとマウント取ったくらいでレーティアもフローリアも怒ったりしないよ。ボクが一番強いのは事実だ」

「クォォ、カァ? クァーッ!」

「うるさいなぁ……」


 空間内に私でも理解できる言葉が響くとは限らない。二人の会話を聞きながら

 アカツキはなんで言っているんだろうと考える。まあ多分、仲間内なのに仲間を見下しているような言動をしている彼に苦言をていしているんだろう。二言目はなんで言っているのか予想すらできないけれど……。


 ヒュプノスが煩わしそうに手を伸ばした途端、彼の翼から羽根が抜け落ちて矢のようにアカツキへ飛んで行った。それを危なげなく避けて、アカツキも同じく炎を宿した羽根の攻撃を行う。


「殺しはしないよ、眠りについてもらうだけ。この世で一番安らかな眠りは、抗うことも難しいほど穏やかで、静かに忍び寄るものだから」


 しかし、確かに避けたはずのアカツキが羽ばたきをやめてガクンと墜落をはじめた。


「アカツキ!?」


 まさか彼がミスをするとは思っていなかった私は思わず焦って一歩フィールドに踏み出す。その横を高速で青いなにかが駆け抜けていった。


「ピュルルルリィー!」

「クァ!?」


 そのままアカツキに向かっていった青い弾丸は彼の体に突進し、眠りに落ちていた彼を叩き起こすことに成功した。空中で慌てて羽ばたき再び浮上するアカツキと、それに追随する青い弾丸……グレイスが隣に並んで滞空する。


 安心する私の横でハインツさんもほっと息を吐く姿が見えた。


「一対一のバトルだと思っていましたが……」


 飛び出して行ったグレイスはそのままフィールドに留まっている。


「許可する。一羽ずつ相手にするより、まとめて眠らせたほうが早く決着がつくもんね」


 余裕そうに煽るヒュプノスの言葉に気がつく。

 そうか、彼のスキルだからその辺の応用がきくってことなんだな。


 でも、さっきアカツキが眠ってしまったカラクリが分からない限り、あんまり安心して二羽を見守ることもできない。この空間を作り出している主なだけあってヒュプノスはかなり厄介そうだ。


 私と一番付き合いが長くて、ずうっと回避と相殺でいろんな戦闘をこなしてきたアカツキが気づかないほどのなにかって相当ヤバいんじゃないだろうか。さすがは眠りの神ヒュプノスってことなのだろうか。


 そんな神獣に死ぬほど好かれて囲われてるホオズキさんって……本当に人生詰んでるようなものじゃないかな。こわ、正直興奮します。


 フィールドの音楽が穏やかなオルゴールのような、スキルのアナウンス的に言うと子守唄そのものという感じになっているので、もしかしたらアカツキが寝てしまったのもあれが関係しているのかな。時間差? それとも継続的に聞くことで発動する的なやつ? なんだろう。


 継続的に聞くのがアウトなら耳を塞げばいいんだろうけど、飛んでるアカツキ達はどうしようもないからなあ。

 それに、音楽を聴いているのは戦闘フィールド外の私達も一緒だ。継続的に聞くことで発動するものなら私達が無事な理由が分からない。フィールド外の私達も一気に眠らせることができるのであれば、最初からそれをやってバトルも強制終了してしまったほうがいいに決まっている。


 彼の目的は忘却を肯定することだから。私達を眠らせてから水を飲ませて、忘却効果を発動させて今までの探索や気づいてしまったことを全て無かったことにしてしまうほうが都合がいいだろう。それをしないってことはフィールド外の私達には効果が及ばないものだと思う。


 ヒュプノスはその場を動かずに翼を動かして羽根を飛ばしたり、手に持った枝? 杖? のようなもので空中をかき混ぜるような動きをしたり、尻尾を地面の中に突き入れてアカツキ達の真下から槍のように出現させて攻撃したりしている。時々アカツキ達がスキル発動しようとして硬直したり、眠りに落ちて墜落しそうになったり、そのたびにお互いに起こして対処していることから同時に眠らせることはできないのだろうか? 


 いや、でもそれなら二羽で相手をするなんてこと言い出さないだろうし、本当になんなんだ? 


 ……観察するしかないか。

 こういうとき、私が後方にいるのはパートナー達が上手く動けるように、そして勝てるように補助するためだ。当事者ではなく外部から客観的に見てようやく分かることもきっとある。


 スキル発動が妨害されているっぽいのはなんなんだ? こっちもヒュプノスのスキルかな。スキルが発動できずに強制キャンセルを喰らってるように見える。だから変に硬直するんだろう。


 それから、眠りの条件を看破しないといけない。

 変わらずヒュプノスはだるそうな雰囲気を隠そうともしないが、ときどきホオズキさんに振り返っては甘えたりしている。ホオズキさんに対する態度と他への態度があまりにも違いすぎて温度差で風邪でもひいてしまいそうだ。


 アカツキがソル・レイで迫り来る羽根を焼く。

 グレイスが攻撃を仕掛けに行く。

 接近して来たグレイスをヒュプノスが杖で叩いて尻尾で吹っ飛ばす。

 眠りに落ちたグレイスをアカツキがつついて起こし、近くまで来ていた羽根を回避する。

 回避後にアカツキが眠り、今度はグレイスが起こす。

 接近するのがアカツキになっても結果はそれほど変わらない。


 その繰り返し。


 ただ、共通している眠りの条件に私は気づいた。


 相殺でもたまに眠るけど、回避行動のほうが眠りに落ちる確率が高い。

 それはつまり、相手の攻撃が間近に迫ったときに数拍の間を置いて眠りが発動するというわけで……。


 よくよく耳を澄ませて彼らの攻防を観察する。

 そして一度二羽同時に眠りにつきそうになったところを私が飛び出して行って助け起こすことにした。今回もどうやら戦闘フィールドに追加が来ることを拒否されなかったらしい。


 落ちてくる二羽を受け止め、閉じた扇子で軽く叩いて起こさせる。


 復帰中でも容赦のないヒュプノスが、当たり前のように羽根を射出する。


 迫り来る羽根に、私は目を開けたアカツキ達を扇子で吹っ飛ばして上空へ。

 間近に迫った羽根からはひうん、ひうんと風切り音が僅かに響いていた。


「……ぁ、やば」


 ガクンと膝をつく。

 でも。


「カラクリ、みっけ……!」


 目の前が真っ暗になった……が、強烈な衝撃を受けて再び視界が晴れる。


「アカツキ容赦なさすぎでは〜〜〜!?」


 突進して来たアカツキに起こされたらしいけど、普通に体力が半分くらい削れてるんだよね!! 


 でも眠りに落ちかけたことでちゃんと分かったから結果オーライ! 


「アカツキ、グレイス! 音です! 恐らく全ての攻撃の音に子守唄の効果が付随しているんです! だから、攻撃は回避ではなく、まだ遠いうちに相殺すれば眠らない!」


 私が声を張り上げながらハインツさんの元へ戻る。それから困惑する彼の手を握って、身を低くした。


「チッ」


 ヒュプノスがスレた舌打ちをして攻撃を過激化させる。

 お互いの攻撃をぶつけ合う相殺弾幕戦の始まりだ。


「ハインツさん、覚悟しておいてください。今のうちにちょっとずつホオズキさんのほうへ移動していきますよ」

「……あの激戦の中を、ですか!?」

「気張ってくださいあなたが説得するんでしょ!」


 ドカンドカンやっているフィールド内を見て戦慄していた彼だけど、私の目を見てなにかを悟ったのか髪をぐしゃぐしゃとかき回してから「あーもう、分かりましたよ! 頑張りますよ!」と、やけくそ気味に答えたのだった。


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― 新着の感想 ―
>そんな神獣に死ぬほど好かれて囲われてるホオズキさんって……本当に人生詰んでるようなものじゃないかな。こわ、正直興奮します。  そんな状況を妄想して興奮。 こわ、ドン引きます。
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