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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『憂鬱の消えた街』

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黒幕(知ってた)


「あなたは……変わらず、愉快な人ですね」


 肩にグレイスを乗せて、幸せそうに鼻先とクチバシをすり合わせていたハインツさんがこちらを見て、そう言った。困ったような、呆れたような顔で。


「重苦しい空気になるよりはいいでしょう?」

「……確かに、そうだ。はは、お気遣いありがとうございます。グレイスのことも助けてくれたんですよね? ありがとうございます。僕のことも」


 冗談めかして話せば彼は真剣に受け取って笑った。

 いや、本当に変わったなあ……と思ったのだけれど、なんだかすごく違和感がある。


 あれ? 『果ての地で忠義を捧ぐ』のときはこの人自分のこと『俺』って言ってなかったっけ? 


「ハインツさん、随分としおらしくなりましたね」


 思わず出た言葉に慌てて両手で口を塞ぐけれど、素でこぼしてしまった言葉はもう取り戻せなかった。都合よく聞いてなかったなんてこともなくて、彼はちょっと苦々しそうな顔をしてから「気にしなくていいですよ。慇懃無礼なその態度のほうがケイカさんらしくて安心できる」なんて返事をする。

 これはこれで半分くらい悪口ではないだろうか? と思ったが、正直なところお互い様だ。お互いにだいぶ無礼なことを言っているので、おあいこだと思っておこう。


「その、一人称のほうは『僕』のほうが本当は素の自分なんです。あのとき『俺』って言っていたのは、調子に乗っていたからというかなんというか……いえ、言い訳ですね。物腰柔らかになれるように口調を少し改めたんです。ケホッ」


 気恥ずかしそうにしている彼になるほど〜と納得してから隣に座り、木の器に入ったミルク粥をスプーンと一緒に渡す。これは迷いなく受け取ってもらえた。やはり、水分を拒否していたのはレーティアの忘却の水を飲まないようにしていたからだろう。無意識レベルで水分を拒否するほど、その意思は頑なだった。すごいことだ。


「これは」

「私が作りました。もちろんあの水は使用していませんよ」

「もちろん、それは分かっていますよ。ありがとうございます。グレイスは」

「グレイスももう一杯食べる?」

「キュルルル! ぴゅい!」

「よほど気に入ったみたいだ。よかったな、グレイス」

「ぴゅい!」


 私の冗談にハインツさんが苦笑して、グレイスにもねだられたためもう一杯器に盛ってテーブルに乗せる。

 ピクニックセットを展開しているのでもはや逃げる気が本当にあるのか? みたいな状況だが、他の人達は一応逃してあるので大丈夫だろう。

 一番最後まで目覚めなかったハインツさんを置いて、みんな逃げてしまった。そういうものだと分かってはいるが、記憶をなくさずに済んだのは彼のおかげだというのに随分とひどいなとも思う。

 脱水症状の出ている彼に少しずつ喉を潤してもらって、立ち上がれるようになるまで私たちは待つつもりだ。どうせボス戦はあるのだろうし。


「きっとこの場所には黒幕の皆さんがやってくるでしょう。少しでも食事をとって逃げられるようにしてくださいね。あ、体は無理に起こさなくて大丈夫ですよ」

「くぅん?」

「あ、えっと、ありがとう……」


 背もたれになっているオボロが彼の顔を覗き込んで頬をべろりと舐めた。

 それに対してハインツさんはかなり恐縮したように縮こまってしまったけれど、アカツキもみんなも集まってきて心配そうに顔を覗き込まれるものだから、実に気まずそうにしていた。会うのはあれ以来だからか、罪悪感がまだあるんだろう。みんなはもう気にしてないのにね。


「ケイカさんは、その、このまま……?」

「ええ、あなたとグレイスを逃したら私はここに残ります。私はあなたの捜索依頼のために来たんです。無事な顔を甥っ子さんに見せてあげてくださいね」

「僕にはあの子に会う資格なんてまだ……」

「そんなことを言ってる人ほど小さい子は懐いちゃうもんなんですよ。今はともかく、あの子が成長したら覚悟しといたほうがいいですね」

「そういうものですか……?」

「そういうものですよ」


 私たちの会話にコメント欄で同意の声が上がっている。いろんな甥っ子、姪っ子エピソードが流れてくるので微笑ましい限りである。


「あなたは、僕に逃げろと言うんですね」

「ええ、そのつもりですが」

「僕の言いたいこと、分かってるんじゃないですか?」

「ええ、なんとなくは」

「なら、予想通りのことを言いましょうか。僕も残ります。きちんと、あの人に伝えないといけないんです。もう一度、ちゃんと。僕はこの記憶を持って生きていく、と」


 そう言うとは思っていた。

 むしろ、彼がいなければホオズキさんやレーティア、そしてヒューの説得なんて不可能だろう。いくら私がホオズキさんの罪や、ヒュー達の想いを知ったところで、罪を背負っていない、同じ立場にない、そして部外者の私がなにを言ったところで綺麗事として片付けられてしまいかねない。

 この説得と和解は、彼らの罪を知ったうえで、違う選択をするハインツさんがその選択の話をしてこそ説得力が生まれるのだ。


 捕まる前にもきっと話はしたんだろう。

 けれど、彼らには届かなかった。


 なら、もう一度届けるしかない。


「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした。食器はこっちにお願いします」

「はい」


 二杯目のミルク粥を食べ終わって、少しだけ顔色が良くなったハインツさんが手のひらの上に宝石を作り出す術を使用して、その宝石を再び取り込むということを何度か繰り返して調子を確かめる。

 聞けば、この術は自分の霊力を固めて宝石にして摂取することのできるものだそうで……これを利用して、他の捕まっていた人たちを助けていたのだそうだ。


 さらに、ヒューの眠りの術についての考察も彼から教えられた。

 霊力が体内に存在しなければ抵抗もできず、忘却させられる夢を見せられる。しかし、霊力さえあれば抵抗力を得ることができる。

 ここで捕まっている間に掴んだ彼なりの情報だった。


 そりゃ一人だけ衰弱してるわけだよ。たった一人で、本当に無茶なことをしていたんだなあと感心する。


 そうして、しばらく彼の体力を回復させるための和やかな時間を過ごした後……とうとう、静かな洞窟内に第三者の足音が響き渡った。隠すこともしない足音はまっすぐにこちらへ向かってくる。


 時刻は朝9時。

 探索と救出にかなり時間を取られたから、こんなもんだろうか。

 黒幕達がここに来るにしては遅めの時間だとも思う。朝のお勤めがあるからだろうか? 


「今なら逃げられますよ、ハインツさん」

「まさか。僕は、昔の僕とはもう違う……!」

「ふふ、聞いてみただけです。そうですよね」


 決意を固める目をした彼が立ちあがろうとする。

 その腕を掴んで立ち上がる手伝いを背中側のオボロと協力してから、私たちは音の方向に目を向けた。


 戦闘では終わらない。

 私たちの目的はホオズキさんにあの日記の内容を再び思い出させて、さらにレーティアとヒューを説得すること。


 でも、きっとレーティアとヒューの説得はアカツキたちと、そして必ずグレイスの協力が不可欠だ。


 ホオズキさんには罪のあるハインツさんの声しか届かないだろうし、同じくレーティアとヒューにはグレイスの言葉が一番響くだろう。


 私たちは二人の説得を手伝うだけ。そのためのヒントも集めた。


「ああ、お可哀想に。どうしてあなたがたは私たちの救済を拒むのですか?」


 そして、洞窟の外からやってきた足音の主が私たちの前に現れて止まる。

 黒幕(知ってた)の登場である。


 さあ、頑張れ二人とも。変わることのできた二人の想いは、私と大勢の視聴者達が見守ってるから。


 思いっきりぶつけちゃいなさい!! 


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